不老不死世界

b

文字の大きさ
1 / 9

1話

しおりを挟む
いつも通りの朝。鳴り続けるアラームを消し止め、再び布団に包まる。微かにある意識が二度寝をさせないように、近くにあったリモコンでテレビをつけさせた。代わり映えの無いニュースが流れるのを、寝ぼけ眼で眺めている。

突然、テレビから速報のアラート音が鳴った。

「...不老不死の薬が治験段階に入った...」

そう見えたと思う。だが、まだ寝起きの俺は特に気に留めず、会社へ向かう準備を始めた。

会社に向かう電車の中、今朝のニュースのことを話す声が聞こえる。

「ねえ、見た~?すごくない?老けないし死なないなんて。」

「見た見た!あの薬いくらくらいするんだろうね~...」

俺は寝ぼけていたわけではなかったようだ。

会社に着いた後も、そのニュースについて話す声を何度も耳にした。だが、よくまあ皆、不老不死に興味があるもんだ。俺は35歳にして彼女もおらず、両親も早くに亡くしている。そんな俺にとって、不老不死はただの苦痛でしかない。

会社からの帰り道、いつも通りスーパーに寄って、値引きされたお弁当と発泡酒を買う。自宅のアパートに着き郵便受けを確認すると、広告のチラシに紛れて一通の封筒が届いていた。封筒には見慣れない会社名が書かれている。

帰宅し、水を1杯飲んだ。一息ついた後、俺は先程の封筒を手に取った。

中に入っている手紙を読むと、どうやら治験への参加依頼のようだ。その治験で服用する薬は、今朝のニュースで見た不老不死の薬だ。

「まじかよ...」

今話題の不老不死になれるかもしれない薬を試せるなんて、もしかしたら普通の人なら飛びつくのかもしれない。だが、俺はそうではない。しかもこれはあくまでも治験。求めもしないものにリスクなんてかけるわけがない。

俺はその手紙を丸めて、ごみ箱に捨てた。

次の日の朝、起きてテレビをつける。映っていたのは、またあの薬のニュースだ。

今日は土曜日、いつも通り予定は無い。寝そべりながら見える狭い青空を見ながら、俺はふと昔のことを思い返していた。

俺の両親は俺が5歳のときに、自動車の事故で亡くなっている。大型トラックの不注意で、事故に巻き込まれたらしい。俺はたまたま祖母の元に預けられていたので無事だった。正直なところ、両親の記憶はあまり無い。俺が知っている両親の事も、ほとんどは祖母から聞いたものだ。祖母曰く、俺の両親はボランティア活動によく参加していたらしい。事故もボランティア活動に向かう途中だったそうだ。

不意にテレビに流れた難病の人達のドキュメンタリー番組に目がいった。

この世界には生きたくても生きられない人達がいる。例の薬が本当に不老不死を実現できたとしたら、

「みんな生きたいだけ生きられるのか...」

俺は昨日の手紙をごみ箱から取り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...