不老不死世界

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1話

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いつも通りの朝。鳴り続けるアラームを消し止め、再び布団に包まる。微かにある意識が二度寝をさせないように、近くにあったリモコンでテレビをつけさせた。代わり映えの無いニュースが流れるのを、寝ぼけ眼で眺めている。

突然、テレビから速報のアラート音が鳴った。

「...不老不死の薬が治験段階に入った...」

そう見えたと思う。だが、まだ寝起きの俺は特に気に留めず、会社へ向かう準備を始めた。

会社に向かう電車の中、今朝のニュースのことを話す声が聞こえる。

「ねえ、見た~?すごくない?老けないし死なないなんて。」

「見た見た!あの薬いくらくらいするんだろうね~...」

俺は寝ぼけていたわけではなかったようだ。

会社に着いた後も、そのニュースについて話す声を何度も耳にした。だが、よくまあ皆、不老不死に興味があるもんだ。俺は35歳にして彼女もおらず、両親も早くに亡くしている。そんな俺にとって、不老不死はただの苦痛でしかない。

会社からの帰り道、いつも通りスーパーに寄って、値引きされたお弁当と発泡酒を買う。自宅のアパートに着き郵便受けを確認すると、広告のチラシに紛れて一通の封筒が届いていた。封筒には見慣れない会社名が書かれている。

帰宅し、水を1杯飲んだ。一息ついた後、俺は先程の封筒を手に取った。

中に入っている手紙を読むと、どうやら治験への参加依頼のようだ。その治験で服用する薬は、今朝のニュースで見た不老不死の薬だ。

「まじかよ...」

今話題の不老不死になれるかもしれない薬を試せるなんて、もしかしたら普通の人なら飛びつくのかもしれない。だが、俺はそうではない。しかもこれはあくまでも治験。求めもしないものにリスクなんてかけるわけがない。

俺はその手紙を丸めて、ごみ箱に捨てた。

次の日の朝、起きてテレビをつける。映っていたのは、またあの薬のニュースだ。

今日は土曜日、いつも通り予定は無い。寝そべりながら見える狭い青空を見ながら、俺はふと昔のことを思い返していた。

俺の両親は俺が5歳のときに、自動車の事故で亡くなっている。大型トラックの不注意で、事故に巻き込まれたらしい。俺はたまたま祖母の元に預けられていたので無事だった。正直なところ、両親の記憶はあまり無い。俺が知っている両親の事も、ほとんどは祖母から聞いたものだ。祖母曰く、俺の両親はボランティア活動によく参加していたらしい。事故もボランティア活動に向かう途中だったそうだ。

不意にテレビに流れた難病の人達のドキュメンタリー番組に目がいった。

この世界には生きたくても生きられない人達がいる。例の薬が本当に不老不死を実現できたとしたら、

「みんな生きたいだけ生きられるのか...」

俺は昨日の手紙をごみ箱から取り出した。
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