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4話
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申し込みを終えると、薬を飲むために別室へ案内され、名前を呼ばれるのを待った。説明によると、薬を飲んだ後はこの施設内で1日泊まり込みで経過を観察されるらしい。ちなみに、説明会参加者のほとんどがこの治験に参加をしているようだ。
俺は早々に名前を呼ばれた。指定の部屋に入ると1人の看護師が立っている。俺は目の前の椅子に座るように促された。
「それではこちらをお飲みください。」
薬は普通のカプセル状のもので、1錠のみ。それとカップに入った恐らく水と思われるものだけが置かれていた。
「え?これだけ?」
頭の中で思った。疑いながらも俺はそのカプセルを口に入れ、水らしきもので飲み込んだ。
その後、看護師に今日泊まる部屋の場所を説明され、その場所へと向かった。部屋は病院のそれと同じだった。部屋の窓からは田舎の夕方の風景が見える。やることもなく、暫くその風景を眺めていた。
ふと目線を下に向けると、庭のベンチに例の彼女が座っているのが見えた。普段の俺は、自分から女性に声をかけれるような人間では無い。だが、なぜだろうか、このとき俺は彼女の元へ行く決断をしていた。
緊張しながら、一階の入り口から彼女の方を覗く。彼女は一人で座っているようだ。俺は深呼吸をして、彼女の方へ向かった。
「あ、あの。こんにちは。」
「こんにちは。」
「あの、俺も治験者なんですが、やることなくて...少しお話いいですか?」
「はい。いいですよ。」
優しい声だった。俺は彼女の隣に座って話をした。
彼女の名前は奏(かなで)。例の薬を飲んだ後、退屈で外まで出てきたそうだ。普段は会社で働いているらしく、偶然にも俺の会社と近かった。
「あれ、でも今日反対方向の電車に乗ってませんでした?」
「あ、今日は実家から来たんです。でもなんでそっち方面に乗ってたんですか?」
「ははは、実は寝過ごしちゃって...」
奏はくすくす笑っていた。
暫く話した後、
「じゃあ、私そろそろ部屋に戻りますね。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
奏は部屋に戻っていった。彼女がいなくなったあとも、俺は暫くベンチに座っていた。
さっきまで紅色だった空が、もう暗くなり始めていた。
次の日、血液検査など一通り体を検査され、特に異常はなかったので、俺は帰宅許可をもらった。
施設を出ると、少し肌寒く感じる。昨日の快晴はどこえやら、空は雲で覆われていた。帰りはさすがにバスに乗ることにした。駅に着くと、次の電車はすぐ来るようで、俺は立って待つことにした。
電車が到着し、ガラガラの席に座る。田舎の電車は1駅の滞在期間が長く、俺が乗った後も暫くは止まっていた。俺はぼんやりと、この1日のことを思い返していた。
暫くしてドアが閉まり電車が動き出す。視線を窓の外に向けた時、駅の近くで歩いている奏が見えた。一瞬だったので確かではないが、彼女もこちらに気づいたように見えた。
俺は早々に名前を呼ばれた。指定の部屋に入ると1人の看護師が立っている。俺は目の前の椅子に座るように促された。
「それではこちらをお飲みください。」
薬は普通のカプセル状のもので、1錠のみ。それとカップに入った恐らく水と思われるものだけが置かれていた。
「え?これだけ?」
頭の中で思った。疑いながらも俺はそのカプセルを口に入れ、水らしきもので飲み込んだ。
その後、看護師に今日泊まる部屋の場所を説明され、その場所へと向かった。部屋は病院のそれと同じだった。部屋の窓からは田舎の夕方の風景が見える。やることもなく、暫くその風景を眺めていた。
ふと目線を下に向けると、庭のベンチに例の彼女が座っているのが見えた。普段の俺は、自分から女性に声をかけれるような人間では無い。だが、なぜだろうか、このとき俺は彼女の元へ行く決断をしていた。
緊張しながら、一階の入り口から彼女の方を覗く。彼女は一人で座っているようだ。俺は深呼吸をして、彼女の方へ向かった。
「あ、あの。こんにちは。」
「こんにちは。」
「あの、俺も治験者なんですが、やることなくて...少しお話いいですか?」
「はい。いいですよ。」
優しい声だった。俺は彼女の隣に座って話をした。
彼女の名前は奏(かなで)。例の薬を飲んだ後、退屈で外まで出てきたそうだ。普段は会社で働いているらしく、偶然にも俺の会社と近かった。
「あれ、でも今日反対方向の電車に乗ってませんでした?」
「あ、今日は実家から来たんです。でもなんでそっち方面に乗ってたんですか?」
「ははは、実は寝過ごしちゃって...」
奏はくすくす笑っていた。
暫く話した後、
「じゃあ、私そろそろ部屋に戻りますね。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
奏は部屋に戻っていった。彼女がいなくなったあとも、俺は暫くベンチに座っていた。
さっきまで紅色だった空が、もう暗くなり始めていた。
次の日、血液検査など一通り体を検査され、特に異常はなかったので、俺は帰宅許可をもらった。
施設を出ると、少し肌寒く感じる。昨日の快晴はどこえやら、空は雲で覆われていた。帰りはさすがにバスに乗ることにした。駅に着くと、次の電車はすぐ来るようで、俺は立って待つことにした。
電車が到着し、ガラガラの席に座る。田舎の電車は1駅の滞在期間が長く、俺が乗った後も暫くは止まっていた。俺はぼんやりと、この1日のことを思い返していた。
暫くしてドアが閉まり電車が動き出す。視線を窓の外に向けた時、駅の近くで歩いている奏が見えた。一瞬だったので確かではないが、彼女もこちらに気づいたように見えた。
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