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あれから1ヶ月が経ち、俺の身体には特に問題は起きていない。ましてや何の変化も感じない。実際俺の身体は老化をしないはずなのだが、それをこの短期間で感じることは難しいだろう。
説明会で知ったのだが、今回の治験者候補は完全にランダムで決められたそうだ。それは選定を公平にする為であり、そういう訳で身体に異常の無い健康体の俺が選定されたわけだ。
治験は他の国でも進められており、現状大きな問題は起きていない。それもあってだろう、あの不老不死の薬は世界中で求められ始めている。世界各国の政府は国民の不老不死化による人口爆発を阻止する為に、薬を広く普及をさせないように、薬の販売額を高額にする動きだ。要は、政治家を含む富裕層のみが入手できるようにしているわけだ。当然の通り、この動きに対する抗議活動が世界中で活発になってきており、一部で暴動も発生しているようだ。テレビから流れる報道に、俺は複雑な感情でいた。
俺は月に一度、以前の施設で定期検査を受けなければならない。検査自体には億劫なのだが、あの田舎の雰囲気は月一の気晴らしには丁度良い。元々、田舎の祖母の家で育ったので、俺にはそういう環境の方が合っていた。
ある日の検査の帰りに、施設の最寄り駅の近くに駄菓子屋を見つけた。30円のラムネを買い、店の前にあるベンチでそれを食べながら、少し冷たくなった風に夏の終わりを感じた。
ふと目を向けた先に、奏が見えた。こちらに向かって歩いてくる。彼女と目が合い、笑顔で会釈をしてくれた。俺は彼女に話しかけた。
「こんにちは。検査帰りですか?」
「はい、今帰りです。ここ、私も前に見つけて通ってます。」
「そうだったんですか。俺は今日見つけました。ここ、落ち着きますね。」
「はい。私こういう雰囲気好きなんです。」
ニコニコしながら奏は駄菓子屋に入っていった。中のおばちゃんと話をしているようだ。
「ラムネも無くなったし、帰るか...」
俺が帰ろうとした時、彼女が店から出てきた。
「あの、もしよかったら少しお話しできますか?ちょっとお願いしたいことがあって...」
俺は予想外の展開に動揺した。
「あ、はい。大丈夫ですよ。」
買い物を終えた奏とベンチに座り、彼女の話を聞いた。どうやら彼女は例の薬の普及を制限しようとしている政府に対しての抗議活動に参加しているようで、今その活動メンバーの人数が不足しており、俺に手伝いに来てほしいという内容だった。正直なところ、俺はそういった活動に参加することを億劫に感じてしまう人間だ。だが、彼女に対しては初めて会ったあの時から、特別な感情を持っていた。
「いいですよ。」
俺は彼女の要望を受け入れた。
帰り道に活動内容などについて話を聞いた。早速来週に署名活動に参加することになり、俺たちは連絡先を交換した。途中まで電車が一緒だったが、車内では特に会話はなかった。勘違いかもしれないが、たまに見える彼女の横顔は少し寂しげに見えた。
彼女の降りる駅が近づいてきた。
「今日は急なお願い聞いてもらってありがとうございました。また来週、よろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。」
ドアが閉まり、電車が動き出す。ホームから手を振ってくれる奏に、俺も手を振り返した。
帰宅後にテレビをつけると、ここ最近頻繁に報道される例の抗議のニュースが流れた。先の見えないこの状況に、俺の頭は思考を停止させ、チャンネルを変えさせた。
説明会で知ったのだが、今回の治験者候補は完全にランダムで決められたそうだ。それは選定を公平にする為であり、そういう訳で身体に異常の無い健康体の俺が選定されたわけだ。
治験は他の国でも進められており、現状大きな問題は起きていない。それもあってだろう、あの不老不死の薬は世界中で求められ始めている。世界各国の政府は国民の不老不死化による人口爆発を阻止する為に、薬を広く普及をさせないように、薬の販売額を高額にする動きだ。要は、政治家を含む富裕層のみが入手できるようにしているわけだ。当然の通り、この動きに対する抗議活動が世界中で活発になってきており、一部で暴動も発生しているようだ。テレビから流れる報道に、俺は複雑な感情でいた。
俺は月に一度、以前の施設で定期検査を受けなければならない。検査自体には億劫なのだが、あの田舎の雰囲気は月一の気晴らしには丁度良い。元々、田舎の祖母の家で育ったので、俺にはそういう環境の方が合っていた。
ある日の検査の帰りに、施設の最寄り駅の近くに駄菓子屋を見つけた。30円のラムネを買い、店の前にあるベンチでそれを食べながら、少し冷たくなった風に夏の終わりを感じた。
ふと目を向けた先に、奏が見えた。こちらに向かって歩いてくる。彼女と目が合い、笑顔で会釈をしてくれた。俺は彼女に話しかけた。
「こんにちは。検査帰りですか?」
「はい、今帰りです。ここ、私も前に見つけて通ってます。」
「そうだったんですか。俺は今日見つけました。ここ、落ち着きますね。」
「はい。私こういう雰囲気好きなんです。」
ニコニコしながら奏は駄菓子屋に入っていった。中のおばちゃんと話をしているようだ。
「ラムネも無くなったし、帰るか...」
俺が帰ろうとした時、彼女が店から出てきた。
「あの、もしよかったら少しお話しできますか?ちょっとお願いしたいことがあって...」
俺は予想外の展開に動揺した。
「あ、はい。大丈夫ですよ。」
買い物を終えた奏とベンチに座り、彼女の話を聞いた。どうやら彼女は例の薬の普及を制限しようとしている政府に対しての抗議活動に参加しているようで、今その活動メンバーの人数が不足しており、俺に手伝いに来てほしいという内容だった。正直なところ、俺はそういった活動に参加することを億劫に感じてしまう人間だ。だが、彼女に対しては初めて会ったあの時から、特別な感情を持っていた。
「いいですよ。」
俺は彼女の要望を受け入れた。
帰り道に活動内容などについて話を聞いた。早速来週に署名活動に参加することになり、俺たちは連絡先を交換した。途中まで電車が一緒だったが、車内では特に会話はなかった。勘違いかもしれないが、たまに見える彼女の横顔は少し寂しげに見えた。
彼女の降りる駅が近づいてきた。
「今日は急なお願い聞いてもらってありがとうございました。また来週、よろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。」
ドアが閉まり、電車が動き出す。ホームから手を振ってくれる奏に、俺も手を振り返した。
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