『少女の夢は希望を連れて明日へと向かう』~日本初のスポーツ専門中学校創立物語~

光り輝く未来

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縦横斜め○△□隊

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「明来貴真心さん」

「はい」

 中学1年生になったわたしは勢いよく手を上げた。
 身長が低いので教室の一番前の席に座っているが、背中に感じる安心感が体をシャキッとさせていた。
 一番後ろの席には建十字と横河原と奈々芽がいるのだ。
 振り向くと、彼らは軽く手を上げて、小さく頷いた。

 窓に目を移すと、抜けるような青空が見えた。
 そして、遅咲きの桜が校庭で満開の時を迎えていた。
 わたしの心の中にも正真正銘の春が訪れていた。
 寒田と黄茂井が学内にも町内にもいないことが大きかったが、それだけでなく、大好きな三人組がクラスメートになるという幸運に心が躍らないはずはなかった。

 その三人組のことを、もう誰も三文字悪ガキ隊とは呼ばなくなった。
 中学1年生で身長が175センチを超えている3人に悪ガキ隊は似合わなくなっていたからだ。
 縦横斜め隊。
 それが彼らの新しい呼ばれ方だった。

「縦と横と斜め……、わたし全然気づかなかった」

 くすくす笑うのを3人はしらっと見ていたが、「縦と横と斜めがいるんだから、丸と三角と四角もいたりして」と何気なく口にすると、「おもしれ~。いるかもな。探してみるか」と3人が一斉に食いついた。

        *
          
「いたよ、丸」

 建十字が探し当てた。
 卓球部の丸岡まるおか勝人かつとだった。
 得意満面な建十字に、「やったじゃん、流石!」と横と斜めがハイタッチした。
 個人情報保護法の影響で生徒名簿が非公開になったため、他のクラスに誰がいるのかわからない状態で見つけたのだ。
 3人は大喜びだった。

「あとは、三角と四角か……」

 建十字が呟くと、「ミスミなら知ってるよ」と丸岡が言った。

「ミスミじゃなくて三角!」

 3人が声を揃えた。

「だから!」

 丸岡はノートを取り出して名前を書いた。

「えっ?」

 覗き込んだ3人は、一斉に驚きの声を発した。
 ノートに書かれていた文字は〈三角〉だった。

「これで、ミスミと読むんだよ」

 水泳部の三角優人みすみゆうとだった。

 次の日、丸岡が三角を連れてくると、「四角は知らないな~」と三角が首を傾げた。
「四角はヨスミとも読めるけど、ヨスミという名前も聞いたことないしな~」と丸岡も首を傾げた。
 追随するように縦と横と斜めが一斉に首を傾げた。

        *
          
「見~つけた!」

 わたしは喜び勇んで彼らの元に走っていった。

「四角、見つけたよ」

「ウソっ」

「本当」

「誰?」

 5人が食い入るようにわたしを見た。

「柔道部にいた」

 エヘンと自慢げに、わたしは鼻を高くした。

「しかくだ・りゅうと君」

「しかくだ?」

「しかくだって、どんな字書くの?」

 5人が興味津々の顔つきでわたしを見たので、ノートに書いて彼らに見せた。

「鹿久田隆人」

「へ~」

 彼らの驚きようは半端なかった。

        *

 縦横斜め○△□、全員が揃った。
 しかも彼らはそれぞれの競技で群を抜く才能を有し、その実力をいかんなく発揮する逸材だった。
 全員が1年生の時からレギュラーのポジションを獲得し、中学3年生の時にはそれぞれの競技で優勝、もしくは準優勝の栄誉を勝ち取った。
 当然のようにスポーツ関係者が注目した。
 その期待は大きく、将来日本を代表する選手になる逸材だと目されたほどだった。
 彼らはプレッシャーに負けることなくその期待に見事に応え、中学校卒業後も目覚ましい活躍を見せ続けた。

 建十字は野球の強豪校に進学し、3年生の夏、甲子園大会で準優勝をした。
 エラーによるサヨナラ負けという悔しい結果だったが、準々決勝と準決勝で連続完封と連続ホームランという快挙を成し遂げた。
 その活躍が評価され、ドラフト会議で1位指名をした『北海道ベアーズ』に入団した。
 その上、契約時に5年後の大リーグ挑戦の確約を得た。

 横河原はサッカーの強豪校に進学し、1年生からレギュラーに抜擢された。
 3年生の冬には、全国高等学校サッカー選手権大会でベスト4にまで進んだ。
 PK戦に負けて決勝戦には行けなかったが、大会の得点王となった。
 そのシュート力が評価され、Jリーグの強豪『東京ゴールデンアローズ』に入団した。
 プロでも1年目から活躍し、ヨーロッパのクラブチームからのオファーを待つ日々を過ごしている。

 奈々芽は駅伝の名門『緑山学院大学』に進学し、1年生からレギュラーの座を勝ち取った。
 正月の箱根駅伝では5区の山登り区間を任され、4年連続で区間賞を獲得した。
 卒業後は実業団の名門『松早電機』に入社した。
 マラソンで日本新記録を出すことと、オリンピック代表の座を射止めることを狙っている。

 丸岡は都立体育大学でスポーツ心理学を学び、卓球部のエースとして活躍した。
 大学卒業後は実業団の卓球チームに入り、キャプテンを任されている。

 三角は高校を卒業するとアメリカに渡り、大学と大学院でスポーツ生理学を学ぶと共に、水泳の名門チーム『サンタバーバラ・スイミングクラブ』で練習をしながら次のオリンピック代表の座を狙っている。

 鹿久田は丸岡と同じ都立体育大学に入学し、大学4年生の時に柔道の日本選手権で準優勝した。
 それが評価されてナショナルチームの特別強化選手となり、日本の無差別級を牽引する一人となっている。

 一方、わたしは都立教育大学に入学し、大学院に進学した。
 修士課程を卒業したあとは、ある目的をもって教育文化省に入省した。

 そのことを縦横斜め○△□隊にメールしたところ、奈々芽と丸岡と鹿久田が入省祝いを開いてくれた。
 大リーグへ行った建十字とヨーロッパのクラブチームに移籍が決まった横河原、そして、アメリカ留学中の三角はいなかったが、3人との久々の再会に心が弾んだ。

 ひとしきり食べて飲んで盛り上がったあと、わたしが具体的な所属先を告げると、奈々芽が首を傾げた。

「全国教育審議会?」

「そう、そこの事務局メンバーになったの」

「何やるとこ?」

「教育文化省の諮問機関で、教育全般に関して議論して、答申・報告をするところよ」

「ふ~ん」

 3人は不思議そうな顔をした。

「自分で希望したのよ」

「へ~、そうなんだ。で、貴真心は、そこで何がやりたいの?」

「今は内緒」

 わたしは唇に人差し指を当てた。

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