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須尚正
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差し出した手を握ったキーボーは無言で頷いた。
REIZのセカンドアルバムの録音が始まったのだ。
前回と違い、今度はゆっくりとしたスケジュールで進めた。
時間に余裕があることに加えて、キーボーの耳の状態が心配だったからだ。
彼に無理はさせられない。
それに、緊張が高まると彼のアルコール依存度も高まるので、その面でも気を配らなければならなかった。
だから深夜の録音を禁止した。
併せて大音量によるミキシングも禁止した。
キーボーは不満そうだったが、頑として彼の体調優先を貫いた。
全10曲中5曲の録音が終了した日の翌日を休養日に当てた。
キーボーの耳と神経に与える負担を減らすためだ。
それに、タッキーとベスの体調も心配だった。
親子ほど年齢が違う若い2人と同じペースで仕事をさせるわけにはいかない。
慎重には慎重を期さなければならない。
*
休養日の夜、キーボーに夕食を誘われた。
軽く一杯いこうというような誘い方だったが、何か話があるような感じを受けた。
「卒業……」
落ち着いたレストランの奥まった席でシャンパンと前菜を楽しんでいる時、言いかけて彼が口籠った。
しかし、深刻な表情ではなかった。
自分の中で何かを確認しているような感じだった。
とても大切なことをきちんと話そうと、一旦声を止めたように思えた。
だから待った。
頷きもせず、何も言わず、前菜のテリーヌを口に運んで彼の声を待った。
すると、彼はシャンパンを飲み干して、グラスをテーブルに置き、視線を向けた。
「卒業することに決めたよ」
「そうか、決めたか」
「ああ。REIZの録音が済んだら、あと一つやって終わりにする」
そして、そのバンド名を静かに告げた。
えっ? それって……、
バンド名を言いかけて、言葉が喉の奥で絡まった。
それほど重みのあるロックバンドだった。
クイーン・クリムゾン。
70年代に世界のロック界を席巻した偉大なバンドだった。
ロック、ジャズ、クラシックを融合した緻密で華麗で優美で、しかし、時として暴力的なほど荒々しくドライヴするサウンドに誰もが度肝を抜かれたし、だからこそ何十年経っても彼らを上回るバンドは出現しなかった。
そのため、今でも伝説のロックバンドとして多くのファンから信奉されている。
そのバンドが再結成するという。
その再結成アルバムの録音エンジニアにキーボーが指名されたのだ。
なんということだ……、
改めて彼の凄さを認識した。
そして、血の滲むような彼の努力を想像した。
世界最高の録音エンジニアに上り詰めるための壮絶な努力を。
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