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しおりを挟むその日の夕方、大学院の図書室の隅に座ったわたしの心の中に教授の言葉がこだまのように鳴り響いていた。
それは3人も同じようだった。
どれくらい時間が経っただろうか?
目を瞑って考え込んでいた神山がカバンの中から何かを取り出した。
メモ用紙だった。
それに〈日本の美〉〈和の心〉と書き込んだ。
彼はしばらくずっとその字を見ていたが、「うん」と頷いて、もう一つ書き込んだ。
〈差別化〉という文字を。
「日本の美と和の心が差別化につながる」
誰に言うでもなくぼそぼそっと呟いて、メモ用紙3枚を新たにテーブルに置き、1枚に1字ずつ書き込んでいった。〈美〉〈和〉〈差〉と。
彼は何かを探すように3枚の紙をじっと見つめ続けたが、「う~ん」と唸ったと思ったら、3枚を色々な順番に並び替え始めた。
ああでもない、こうでもないと並び替えていたが、それが止まった時、「これだ!」と声を強めてわたしたちを見た。
テーブルに置かれた紙は、上から〈和〉〈差〉〈美〉の順に並んでいた。
「わ・さ・び?」
首を傾げる3人に向かって神山は自信満々に言い放った。
「日本の美意識の中に〈わび〉と〈さび〉がある。時を経て朽ちていくものを慈しみ、足りなきを豊かな心で愛でる、そんな日本独特の精神を表している」
「そうか!」
西園寺が手を打った。
「現代建築は経年劣化によってその価値が落ちていく。しかし、古から続く木造建築では年を経るごとに価値が増していくんだ」
「そうだ!」
神山は大きく頷いて声に力を込めた。
「〈わび〉と〈さび〉を現代建築の中に取り込んで、山葵のようにピリッと刺激を与える!」
断言した神山は独創性と革新性を求める新たな試みに名をつけた。
和差美プロジェクト。
日本の美と和の心を差別化に生かす新たな試み。
それがどういう形になるのか、未知への旅が始まろうとしていた。
すると、それまで黙って聞いていた宮国がぼそっと言った。
「発足式やろうよ。寿司屋で」
*
翌日、グリーンを身に着けて4人が回転寿司屋に集まった。
西園寺はグリーンのジャケット、
神山はグリーンのパンツ、
宮国はグリーンのシャツ姿で現れた。
わたしはグリーンのハンカチを胸ポケットに飾っていた。
「和差美プロジェクトだからグリーンの物を身に着けろなんて誰が言ったんだよ。部屋中探して何もないから、慌ててグリーンのハンカチを買いに行ったよ」とボヤくわたしに耳を貸さないで、3人は品定めに集中していた。
「トロからだな」
神山が中トロの皿を取った。
「俺は、サーモン」
宮国だった。
「僕は~、ヒラメ」
西園寺が舌なめずりをした。
わたしは赤身のヅケから食べ始めた。
*
「回転寿司って日本人の発明だよね」
10皿を食べ終えたわたしに3人が頷いた。
「大阪の寿司屋さんがビール工場のベルトコンベアを見て、考えついたらしいですよ」
口をモグモグさせながら西園寺が言った。
「どこにでもヒントがあるものですね」
宮国が感心したように頷いていた。
そう、どこにでもヒントはある。
それを感じるか、感じないか。
それに気づくか、気づかないか。
それを見つけることができるか、できないか。
その違いは、飽くなき探求心と桁外れた持続力が有るか無いか。
何かを真剣に探し求め、求め続ければ、必ずいつか閃きが訪れる。
目を皿のようにし、耳をダンボにし、体中にアンテナを張り巡らせば、必ず幸運の女神に気づき、見つけることができる。
信じて探し求め続けるのだ。
わたしは自らに気合を入れた。
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