私、悪役令嬢おたすけ課 ~魔法少女は公務員です?!~

ビオラン

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試験課題 特例(対マジカル戦士)案件

令嬢第二事例 試験報告3

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 再び前回と同じビルの屋上に向かうと、初めて会った時と同様に憂鬱そうな顔でしゃがみ込んでいる人物が見えた。

「メンドイーナ様!」
 私に気づき、立ち上がるメンドイーナ。

「あら、エミリーさんじゃないの! もう、私見放されたのかと! ……大変なのよ!」

 するとメンドイーナは駆け寄るなり私の襟元を掴み、思いっきり揺さぶってきた。あまりにも首が大きく揺れ、頭が割れそうだ。

「ちょ……ちょっと、分かりましたから落ち着いてください」
 フラフラとしながらも必死に抵抗する私を見て、我に返ったのか、メンドイーナは揺さぶるのを止め手を放した。

「あら、ごめんなさい! 大丈夫?!」
「だ、……大丈夫です」
 少しだけ酔ったらしく、私は吐きそうになりつつメンドイーナの話を聞いた。
「どうされたのですか?……うぷ」

「あなたが一度帰ってから、マジカル戦士が3人になってしまったのよ! これからは全員で攻撃してくる流れみたいで、あの子達あっという間に強くなっちゃうわ!」

 メンドイーナが指差す方を見ると、街を楽しそうに歩く3人の少女達の姿が見えた。1人はこの前マジカル戦士に変身をしたピンク髪の少女。そしてその他に青と黄色の髪色の少女がいる。どう見ても変身して仲間になったと思われる。

「しかも頼みの綱であるあなたはもう4話に入るのに一向に来ないし……私てっきりあなたに見放されたのかと……」

 なんと、私が元の世界に戻っている間に2話も進んでいたらしい。それは私が消えたと誤解を与えても仕方ない。時間差を考えるべきだったようだ。

「そんなことはありませんよ! 見放してなんておりません。私の世界とこちらの世界とでは時間の進みが違うようで、こちらの方が非常に進みが早いみたいです。だからそんな誤解を与えてしまったようで!」

 それにしても、少し本部に帰っていただけでもこの時間差が出てしまうのは想定外だ。悠長なことは言ってられないのかもしれない。今後は早めに動く必要がありそうだ。

「あら、そうだったのね。ごめんなさい。変な勘違いをして…………で、どうだったの?」
 誤解は解けたようだが、やはり結果が気になるらしい。謝罪もそこそこに、進捗を聞いてきた。

「今は悪役局にメンドイーナ様を悪役から解放できないか問い合わせを入れています。そのご報告のみをしに来たつもりですが……今の流れを鑑みるとこちらが思っていた以上に時間が無いのかもしれませんね」
「あら、そうなのありがとう。でもそうね、時間差がこんなにあるとは……間に合ってくれるといいのだけど……」

 やはりメンドイーナも時間がないことを察しているようだ。
 こうしてはいられない。
 私は急いで本部に戻り、リンデンの知らせを待つことにした。

 本部に帰る途中、3人のマジカル戦士が、メンドイーナ以外の悪役と戦っているのを偶然目にした。今回の悪役は男性のようだ。
「いけ! メンドー!」
 メンドーなんて安直な悪役名だれが考えたんだか……そんなツッコミたくなる衝動を抑えつつその場を通り過ぎた。

◇◇◇◇◇◇

 本部に戻るとリンデンと課長が何やら話をしている。私に気づいたのか、リンデンは血相を変えて近寄ってきた。

「おお、良いところに!」
「どうしたの、リンちゃん? もう申請書を持って行ってくれたの? はやーい!」

「ま、待つのだ。悪役救済部に資料を渡しに行ったんだがな……実はそこで突き返されてしまったんだ」
「え、じゃあ許可もらえ無かったの?」
リンデンは頷く。その反応に私はガックリと肩を落とした。どうやら、悪役辞退案は取り消しらしい。

「もしかして、悪役救済部で突き返されたってことは、悪役局まで行っても無い?」
 再びリンデンは頷く。通りで帰りが早いわけだ。
 申請書に不備でもあっただろうか?でも、課長とダブルチェックまでして出したものだ。突き返される要因は思い浮かばない。腑に落ちないので、理由を聞いてみた。

「ちなみに……なんでダメなの?」
「そもそも、任務として悪役に配置された場合、正式配属前に申し出ないと職業の扱いになるのだ。だから辞退する場合は例外を除いて退職届けを直属のボスに出す必要がある」
「あー、なるほどね」

 納得した。申請書の不備ではなかったようで安心だ。しかし、私は安心も束の間、さらに面倒なことを思い出してしまった。

 ーー悪役のボスは後半でないと登場しないということを。

 メンドイーナによると、悪役達でさえボスの真の姿は知らないらしい。そんな相手に退職届けを出すのは一苦労である。

 これはどうにか別の方法も模索する必要がありそうだ。

 それ以降、私は次にメンドイーナに会う前に対策案を出そうと、情報収集や先輩の意見などを聞きつつ、解決の糸口を探った。しかし、探せど一向に案は出ない。

 そしてついに私は思考がショートしたらしい。何を思ったか、退社後はマジカル戦士シリーズのアニメを大量に入手し貪るように見始めた。今思えばあの時の私はとても疲れていたのだろう。しかし、この何気なくアニメを見ていたのが今後に活かされるとはつゆとも思わなかった。

◇◇◇◇◇◇

 許可が出なかったことを伝えるため、再びメンドイーナが待つ世界へ。正直、対応案が出ていない状態で行くのは忍びないのだが、さすがにそろそろ行こうと決心した。

 世界に着くと、絶賛交戦中だったようだ。メンドイーナが3人の少女と戦っている。
メンドーなる怪物は少しだけパワーアップしていた。さすがのマジカル戦士もこれには苦戦している。

 すると、なにやら妖精が唐突にアイテムを与えたらしい……その瞬間、マジカル戦士はパワーアップし、新たな装備を手にしていた。

 そんな上手いことパワーアップして良いものなのだろうか。ふとそんなことを考えながら、メンドイーナに声をかけるべく、私は戦いが終わるのを待った。

 3人のマジカル戦士は新しいアイテムを持って何やら叫びだした。
「3つの力を合わせて! マジカル トリプル ビーム!!!」
 物凄い光と共に三色のカラフルなビームが放たれる。メンドーなる怪物に直撃すると怪物は溶けるように消えていった。

「「マジメニシマスー」」

 非常に強い攻撃アイテムをゲットしたらしい。恐るべしマジカル戦士。


 戦いが終わるとメンドイーナが半泣きでこちらへ突進してきた。
「あーーー良かったーーー!! あなた全然来ないから、本当に見放されたんだとどれほど思ったか!!」
「大丈夫です、また時間差の問題です! 見放してません!」
「だって今11話目よ?! どんだけ待ったと思ってる? もう私心配で! マジカル戦士も強化アイテムで強くなるし……!」

 よっぽど見放されたと思っていたらしい。時間差と言いつつもなかなか来れなくて悪いことをしたなと心底反省した。
 それにしても4話だったのが11話とは結構進んでいる。このペースだとかなり危ないかもしれない。数字で感じると、さらに焦りがでてきた。

「で、で、で! どうだったの?」
 こちらの焦りを知らないメンドイーナがグイグイと聞いてくる。気になるのは仕方ない。何も出来てないのを本当は伝えたくないが、伝えるしかない。腹をくくった。
「大変申し訳ございません。実は許可が出なくて……」

 私は今までの一連の流れを話した。


「じゃあ、結局助かる方法は分からず仕舞いってこと?」
「今のままでは……」
「……そう、やはり私は悪役になる運命なのね……」
 あからさまに肩を落とすメンドイーナ。
「お力になれず申し訳ございません。でも、やはり諦めるわけにはいきません。何か方法はないか探しましょう」
「そうね、まだ時間はあるもの。何か良い方法かあるかもしれないわ」
 一瞬、諦めモードに入ったメンドイーナだが、また方法はあるかもしれないと、気を取り直してくれたようだ。それから、2人で方法を一生懸命考えた。


ーーそして迎えた20話目、そこに悪役令嬢メンドイーナの姿は無かった……
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