私、悪役令嬢おたすけ課 ~魔法少女は公務員です?!~

ビオラン

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対貴族令嬢 案件

異世界統制省の男性職員

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 本部に帰ると、課長が誰かと話している。後ろ姿しか見えないが、悪役令嬢おたすけ課の者ではなさそうだ。白いマントをしている背の高いシルエットに、私は見覚えがない。

「おお、エミリー帰ったか」
 課長が帰還した私に気付いてこちらを見た。すると、課長と話していた人物も課長と同様、こちらに振り向く。

ーー私は振り向いた人物を見て、思わず悲鳴を上げていた。

「ぎゃーーーーー! 男がいるーーー! 」

 そう、まぎれもなく目の前にいたのは男性だったのだ。銀髪に長身で、白い制服にマントをつけている見慣れない姿。そして、金色の瞳がギラリとこちらを訝しげに見ている。

 何故私が、男性がこの場にいるだけで悲鳴を上げたのか、それはずばり珍しいからである。

 ここ魔法省は基本的に魔法少女が職員であるため、魔法少女以外の者、特に男性がいることが珍しいのだ。魔法少女以外でも魔法自体は使えるが、ほとんど他の省の職員など別の職業に従事している。

 故に、男性がこの空間にいることが非常に珍しい光景なのである。

 「ぎゃー」とまでは言う必要はなかったかもしれないが、悲鳴を上げたくなるほど驚いたのだ。

 しまった、失礼なことをしてしまったと、理性が働いた時にはすでに遅し。課長と、その男性に凄く怪訝な顔をされた。

 男性は私を指差すと、課長にめんどくさそうに聞く。

「この子ですか? 例の騒いでたって奴は」
「いかにも」
「……これは、仕方ないですね」

 なんだろう、悲鳴を上げた私も悪いが、私のことをすでに知っているような感じである。しかも問題ありな感じで。首を傾げる。

「こらエミリー、初対面の者に対して悲鳴を上げるのではない」
 課長が呆れたように、私を叱った。

「紹介しよう、この方は異世界統制省、世界管理局、世界間移動部、転生・転移課の方だ」
 男性は紹介に預かったとばかりにズイッと前に出る。

 異世界統制省、それは異世界に関する情報を全て管理している省である。その業務内容は既存の異世界の維持管理から新規発見、異世界間移動の整備など多岐にわたる。

 私でも把握している程度には重要な機関だ。そして、私の仕事に直結している省でもある。
 私がいつも異世界に行く際には、この異世界統制省の世界間移送部が管理する扉を使用しているのだ。

 そして、この機関にいるメンバーはこの世界でのエリートが集まる。故にここのメンバーは幹部候補生に当たるのだ。そんな幹部候補生に向かって、いきなり初対面で悲鳴を上げてしまったのを私は即座に後悔してしまった。

 ーーやらかした。いきなり幹部候補生に対して、最悪な第一印象を植え付けてしまったらしい。

 取り急ぎ、もう引き戻せないとは思いつつも、慌てて真面目に挨拶をした。

「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。私、この度悪役令嬢おたすけ課に正式配属されました、エミリーと申します。男性がいる状況に驚いて心にもなく悲鳴を上げてしまいました」

「へー、一応礼儀は叩き込まれているんだな。君、ヒーロー局で暴れたんだって? 俺の耳にまで入ってきたよ。」

 金色の瞳が興味深そうに私のことを見ている。その目は面白いものを見るような、そんなどこかからかいが混じっている。

 あの時のか……! 私はマジカル戦士の案件の際の、後先考えない行動に今更ながら後悔した。追加戦士課を出せと、ヒーロー局の前で騒いだことはやはりまずかったらしい。私の知らないところにまで、噂が回っているようだ。少し血の気が引くような感じがした。

 配属早々、周辺にまで最悪な印象を植え付けてしまったかもしれない。

 ただ、あの時の私の行動は、人を救うためのことで、別にすべてが間違いではない。ヒーロー局の対応もまずかったのだから、少し訂正しておきたくなった。

「暴れてはおりません、対応の遅れを言及しただけですもの。ただ、やり方がまずかったのは一理あるかと思いますので、そこは反省しております」
「自分の行動に、責任は感じているのか。なんだ、ただの考えなしではなかったのか。」

 男性は感心するかのごとく、面白そうに私を引き続き見ている。エリートとはいえ、上から目線の態度、いや人をからかうような態度にカチンときながらも、失礼が無いように私は愛想笑いを返しておいた。

「ちなみに、そこまで私の噂が出回っているのですか?」
「俺の周りは情報通が多くてな、どんな噂でもすぐに耳に入るんだ。だから俺の所が特殊だと思えばいいさ。安心しろ。そんなに広くは広がってない」

 私がとても警戒をしていたのが伝わったらしい。というか、真っ青な顔をしていたのだろう。

 私の様子を見て少しからかいすぎたと反省した……のかは不明だが、安心させてくれるような発言で返してくれた。あれ?意外といい人なのかもしれない。

 少し感動したような表情をしていると、照れ隠しなのか、男性は話を変え始めた。

「まあいい、今日はエミリーだったかな、君に依頼をしたくて来たんだ。」

 ーーどうやらからかいに来ただけではなく、ちゃんと本題があるらしい。

「私にですか。あ、ところでお名前はなんと言うのでしょうか?」

 すると、横にいた課長が固まった。男性はいきなり挙動不審そうに、言葉を詰まらせ始めた。

「な、名前か? ……名前を教える必要がいるか?」
「はいどなたの依頼か分からないじゃないですか。」
「まあ、それもそうか……」

 あれ? 私なんか変なことを言っただろうか? 自己紹介の延長で……仕事を依頼する前に名前を聞いておかないとと思い、何気なく聞いたつもりだったのだが。余計なことを言った気はない。

 課長は横で、無表情のまま止まっている。私は課長に助けを求めたが、課長の目はスススーと逸らされてしまった。

 男性は戸惑いながら口を開いた。
「私の名前はヴィンセンティアという。ヴィンセントと呼んでくれ。よろしく」

「それはファミリーネームだろう」

 すかさず課長が口を挟んだ。
 ヴィンセントと名乗る男性は「余計なことを……」と課長のことを恨めしそうに睨む。課長はまた目を逸らした。

 フルネームではないと?なんだろう、フルネームを伝えない所に何かあるのだろうか?

「ん? 名に何かあるのですか?」
 私が思わず聞くと、男性は君には関係ないと、私の質問を突っぱねた。

 しかし、私の好奇心は止まらない。「教えてください!」と、グイグイ迫ってみた。
 課長も、「教えてやれ」と促してくれている。

 しばらく悩むように髪の毛をかきむしるとついに観念したのか、ヴィンセントと名乗る男性は渋々口を開いた。
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