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対貴族令嬢 案件
調査依頼と異世界への扉
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男性は諦めたように名乗り始めた。
「私の名は、タロウ。『タロウ・ヴィンセンティア』だ」
ーーブッ
あ、しまった噴き出してしまった。
課長が目の前で私のことを呆れて見ていた。しかし、その肩は少し揺れている。多分笑いをこらえているのだろう。いや、無表情で笑っているのだろう。
タロウは恥ずかしそう、いや少し怒り気味で私を問い詰めた。
「なんだ、私の名前に何か文句でもあるのか?」
「いえ、なにもございません。……ちなみに長男ですか?」
「そうだ、それがなにか?」
「いえ、何もありません」
多分このやり取りを何度もしているのだろう、早く終われという圧の入った返答をされた。
ちなみに私が何故噴き出したかって? それはずばりギャップだ。
整った顔立ちをしていてスタイルも良く、見た目は多分美形の域に入る人物だと思われる。しかしその美形さに反して、タロウという名がしっくりこなかったためだ。別にタロウの名が悪いとかではない。ギャップがありすぎて思わず反応してしまっただけなのだ。
「も、もう名前のことはいいだろう。私のことはヴィンセントと呼べ」
「え、タロウさんでもいいじゃないですか」
「な?!」
「あ、すみません。もうタロウさんのイメージしかなくて、そんな長い名前を覚えるの難しいです。」
呆れたように額に手を当て、天を見上げるタロウ。課長が「いいではないか」と横でなだめている。課長に言われて再び髪をかきむしるように悩んだタロウは私をギロリと睨んだ。
「好きにしろ……!」
怒りと呆れの入ったような、半ばヤケクソでタロウは言った。
かくして、私はタロウと呼ぶことを許可?されたのだった。
「時に、タロウさん。依頼とはなんでしょうか?」
「はぁ……話が大きく脱線してしまったな。実は俺が管轄しているところで、悪役令嬢おたすけ課の事案と思われるのを発見したんだ。本人に確認したら、是非ともお願いしたいということらしく、話をここに持ってきた」
「というわけだ。 帰って早々で申し訳ないが、新しい任務を君に言いつける」
課長が、やっと任務の話だと言わんばかりに前にでた。
「ここに慌てずに帰ってきたということは、前回の案件が成功したのだろう?」
あ、そういえば、ジェシカの案件について報告をすっぽかしていた。
「あ、課長、私今回の案件の報告してません。」
「馬鹿者。帰還早々いきなり騒いだりするからだ」
私は慌てて姿勢を正すと、「エミリー、只今帰還しました! 無事ノン悪疑惑の令嬢を救出いたしました!」と、とりあえずビシッと敬礼をした。
「もう遅いわ! まぁ今回も上手くいったんだろ。一応報告は受けておかないとな」
そう言うと、課長はいつも通りカードとバッジにより報告の処理を行い始めた。
タロウはその報告のやり取りを「これが噂のバッジによる報告方法か……」と興味深そうに見ている。
そんなタロウの様子を気に留めることなく、課長は報告処理を続ける。そして、終わると内容を確認したようにこう言った。
「お、今回は魔法が使えなくて難儀したらしいな」
「そうなんです。私の可愛らしさを活かして貴族になりすま……」
「説明はいらん」
「あ、はい」
武勇伝を伝える前に止められた。ケチ。
「だが……前回難儀したのを考えると、今回は魔法が使えるため比較的簡単かもしらん」
「そうなのですか?」
なんだ。魔法が使えるならば今回も上手くいけそう。
安心したように、私が浮かれ始めた時、タロウが止めるように口を挟んだ。
「いや、安心する訳にはいかないと思う。今回、君に対応してもらうのは『乙女ゲーム』の世界に転生した少女の所に向かってもらう。少し面倒だぞ」
「お、乙女ゲーム?!」
「そうだ。すでに運命がいくつか決まっている環境だ。その中での対応力が問われるだろう」
「まためんどくさそうなところですね。」
「だから君を派遣するのではないか」
「え?」
「お手並み拝見と行こうじゃないか」
タロウはニヤリと笑って私を見た。
◇◇◇◇◇◇
私は、いつも通り異世界に転移するために扉の前に立った。いつもは一人だが、今回はタロウと一緒である。
にしても、この扉、いつ見ても不気味である。何度来ても慣れない。
一見ただの茶色の扉なのだが、人が前に立つと中央にぎょろりとした目が開くためだ。
これは、魔法省の職員であるのを確かめるための、センサーの役割をしているものだが、いつもこの目で見つめられると、怖くて何故か冷や汗が出てしまうのだ。
しかし、タロウはもう慣れたと言わんばかりに扉に向かって転移の準備を始める。
「扉よ、世界番号860に飛ばしてくれ」
「ショウチシマシタ、セツゾクジュンビシマス」
この扉はタロウたち異世界統制省の中にある、異世界の入り口を管理する機関と繋がっている。
異世界に繋がる道はすべて異世界統制省で管理され、異世界に移動する際だけこの扉と接続される仕組みになっているのだ。
噂によれば、世界の入り口は厳重に管理され、一般の者は入ることが許されないのだが、世界の入り口が一空間に集められておりその光景は非常に幻想的らしい。
そんなことを思い出しながら、こちらが指定する異世界番号を検索、接続している扉の前で私達は待つ。
「そういえばタロウさんは、異世界統制省の異世界の入り口を管理する空間に行ったことはあるのですか?」
「タロウ呼びが定着してしまったのが気に食わないが……まあいい。異世界の入り口か? 行ったことはあるが、それを知ってどうするんだ」
「いや別に、どんなところなんだろうかと思っただけなんです。噂ではとても綺麗だと聞いて」
「別に教えるほどのところでもない。複数の入り口が一つの空間に集まっているだけの場所だ」
タロウ呼びが気に食わないのか、はたまた元々少し性格が冷たいのか。とてもサクッと返されてしまった。
私が不貞腐れていると、丁度接続の準備が整ったらしい。
「セツゾクカンリョウ。ホンニンカクニンカンリョウ。トビラヒラキマス」
そう告げると、扉が開かれたのだった。
虹色に輝く結界のような膜を越えると、目の前は異世界だ。
「私の名は、タロウ。『タロウ・ヴィンセンティア』だ」
ーーブッ
あ、しまった噴き出してしまった。
課長が目の前で私のことを呆れて見ていた。しかし、その肩は少し揺れている。多分笑いをこらえているのだろう。いや、無表情で笑っているのだろう。
タロウは恥ずかしそう、いや少し怒り気味で私を問い詰めた。
「なんだ、私の名前に何か文句でもあるのか?」
「いえ、なにもございません。……ちなみに長男ですか?」
「そうだ、それがなにか?」
「いえ、何もありません」
多分このやり取りを何度もしているのだろう、早く終われという圧の入った返答をされた。
ちなみに私が何故噴き出したかって? それはずばりギャップだ。
整った顔立ちをしていてスタイルも良く、見た目は多分美形の域に入る人物だと思われる。しかしその美形さに反して、タロウという名がしっくりこなかったためだ。別にタロウの名が悪いとかではない。ギャップがありすぎて思わず反応してしまっただけなのだ。
「も、もう名前のことはいいだろう。私のことはヴィンセントと呼べ」
「え、タロウさんでもいいじゃないですか」
「な?!」
「あ、すみません。もうタロウさんのイメージしかなくて、そんな長い名前を覚えるの難しいです。」
呆れたように額に手を当て、天を見上げるタロウ。課長が「いいではないか」と横でなだめている。課長に言われて再び髪をかきむしるように悩んだタロウは私をギロリと睨んだ。
「好きにしろ……!」
怒りと呆れの入ったような、半ばヤケクソでタロウは言った。
かくして、私はタロウと呼ぶことを許可?されたのだった。
「時に、タロウさん。依頼とはなんでしょうか?」
「はぁ……話が大きく脱線してしまったな。実は俺が管轄しているところで、悪役令嬢おたすけ課の事案と思われるのを発見したんだ。本人に確認したら、是非ともお願いしたいということらしく、話をここに持ってきた」
「というわけだ。 帰って早々で申し訳ないが、新しい任務を君に言いつける」
課長が、やっと任務の話だと言わんばかりに前にでた。
「ここに慌てずに帰ってきたということは、前回の案件が成功したのだろう?」
あ、そういえば、ジェシカの案件について報告をすっぽかしていた。
「あ、課長、私今回の案件の報告してません。」
「馬鹿者。帰還早々いきなり騒いだりするからだ」
私は慌てて姿勢を正すと、「エミリー、只今帰還しました! 無事ノン悪疑惑の令嬢を救出いたしました!」と、とりあえずビシッと敬礼をした。
「もう遅いわ! まぁ今回も上手くいったんだろ。一応報告は受けておかないとな」
そう言うと、課長はいつも通りカードとバッジにより報告の処理を行い始めた。
タロウはその報告のやり取りを「これが噂のバッジによる報告方法か……」と興味深そうに見ている。
そんなタロウの様子を気に留めることなく、課長は報告処理を続ける。そして、終わると内容を確認したようにこう言った。
「お、今回は魔法が使えなくて難儀したらしいな」
「そうなんです。私の可愛らしさを活かして貴族になりすま……」
「説明はいらん」
「あ、はい」
武勇伝を伝える前に止められた。ケチ。
「だが……前回難儀したのを考えると、今回は魔法が使えるため比較的簡単かもしらん」
「そうなのですか?」
なんだ。魔法が使えるならば今回も上手くいけそう。
安心したように、私が浮かれ始めた時、タロウが止めるように口を挟んだ。
「いや、安心する訳にはいかないと思う。今回、君に対応してもらうのは『乙女ゲーム』の世界に転生した少女の所に向かってもらう。少し面倒だぞ」
「お、乙女ゲーム?!」
「そうだ。すでに運命がいくつか決まっている環境だ。その中での対応力が問われるだろう」
「まためんどくさそうなところですね。」
「だから君を派遣するのではないか」
「え?」
「お手並み拝見と行こうじゃないか」
タロウはニヤリと笑って私を見た。
◇◇◇◇◇◇
私は、いつも通り異世界に転移するために扉の前に立った。いつもは一人だが、今回はタロウと一緒である。
にしても、この扉、いつ見ても不気味である。何度来ても慣れない。
一見ただの茶色の扉なのだが、人が前に立つと中央にぎょろりとした目が開くためだ。
これは、魔法省の職員であるのを確かめるための、センサーの役割をしているものだが、いつもこの目で見つめられると、怖くて何故か冷や汗が出てしまうのだ。
しかし、タロウはもう慣れたと言わんばかりに扉に向かって転移の準備を始める。
「扉よ、世界番号860に飛ばしてくれ」
「ショウチシマシタ、セツゾクジュンビシマス」
この扉はタロウたち異世界統制省の中にある、異世界の入り口を管理する機関と繋がっている。
異世界に繋がる道はすべて異世界統制省で管理され、異世界に移動する際だけこの扉と接続される仕組みになっているのだ。
噂によれば、世界の入り口は厳重に管理され、一般の者は入ることが許されないのだが、世界の入り口が一空間に集められておりその光景は非常に幻想的らしい。
そんなことを思い出しながら、こちらが指定する異世界番号を検索、接続している扉の前で私達は待つ。
「そういえばタロウさんは、異世界統制省の異世界の入り口を管理する空間に行ったことはあるのですか?」
「タロウ呼びが定着してしまったのが気に食わないが……まあいい。異世界の入り口か? 行ったことはあるが、それを知ってどうするんだ」
「いや別に、どんなところなんだろうかと思っただけなんです。噂ではとても綺麗だと聞いて」
「別に教えるほどのところでもない。複数の入り口が一つの空間に集まっているだけの場所だ」
タロウ呼びが気に食わないのか、はたまた元々少し性格が冷たいのか。とてもサクッと返されてしまった。
私が不貞腐れていると、丁度接続の準備が整ったらしい。
「セツゾクカンリョウ。ホンニンカクニンカンリョウ。トビラヒラキマス」
そう告げると、扉が開かれたのだった。
虹色に輝く結界のような膜を越えると、目の前は異世界だ。
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