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飛車
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「~っ、やっぱ美味しくないなぁ!」
「高麗人参と丁度よく」
「ならない、不味い!
てゆうかさ、僕から言うのもなんなんだけど、高麗人参って高いって松本先生が言ってたよ?」
「そりゃあまぁ…せやけど土方さん持ちですし」
「…さっきのボロ刀、貸してよ。ついでに頼んでおくから」
「………」
色々を考えた。
多分沖田は、経費だとかなんだとかではなく、安い刀鍛冶に自腹で仕事を与えているのだ。
無名の刀を治す鍛治など、困窮している。
「…わての生計を考えるんなら、その前に」
沖田は錫杖刀の柄の先をキュッと握り「やらせて」と言った。
「まだ諦めてないから、いまあんたの不味い薬を飲んでるわけだし…」
意外と、優しい青年なんだな。
持ってる刀も明らかに、他の幹部よりも安手の物だ。しかし、仕事量的にはきっと、金はある。
「…免じてお頼みしますが、なんや、そうもなんか湿臭く言わんでくださいよ。明日にはくたばりそうな挨拶ですやん」
「ははっ、憎まれ口は本当、天下一だよね」
さて、用は済んだ。金清楼にそろそろ行かねばなと「また来ますね」と去る間際に沖田が「ありがとうね」と言った気がしたが、聞こえなかったことにしよう。なんせ、あの小生意気な沖田総司だ。
それでいい、それがいい。
一応、毎度挨拶をしてから出ることにしている。
先程土方もいたしなと副長室に寄り「では、また明日」と帰ろうとしたが、今度は土方が「あー、そうだ」と、久方ぶりにちゃんと声を掛けてきたので振り向く。
土方はふと紙をペラっと翳し「岡田以蔵は先日土佐に移送され処刑されたようだぞ」と述べた。
紙を見た瞬間にわかることだ、そんなこと…。
「頭の武市にも処刑とくだされたらしい。土佐勤王党は実質解散だな」
「……そうですか」
「…坂本龍馬については、何かあったら報告をくれ。
とは言っても、今は幕府の重鎮と仲良しみたいで…なかなか手も出せない」
当て付けだろうか。
それなら、もう挨拶も済んだしとまた帰ろうとするが「まぁ待て、」と言われれば仕方ない。皮肉にも、金をそれなりに貰っている恩義という意識が掠め、また振り向く。
随分寝ていなさそうだ。しかし、土方は真面目な面で見上げてきた。
これは…何か確証、戦略…そういった志士の魂、熱い何かを含んでいる。
それもそうか、なんせこの負けん気が随分コケにされているのが現状なのだから。それに…関係があるのなら、若干面倒ではあるが…。
「…そこに、怪しい影があるのは分かってるよな?お前も。
ちょこまか小賢しく、動き回ってる奴が」
…それは。
彼はニヤッと笑い「お前にとっちゃ因縁だよな」と、まるで悪戯を仕掛ける子供のような口調。
…宛なんてひとつしかない。だが、それは確証ではなく…。
皮肉にも、義父を殺したあの風景が頭をチラつく。これは、あれに似た状況。
「…今日のところは、これにて」
本当に去ろうとする背後から「考えといてくれ」と言われた。
だとしたら、因果応報とはこのことかもしれないが。どうやら生きるということは、繰り返すらしい。どれだけ捨てても。
花街に向かう短い道程で、一度息を吸い直す。
「高麗人参と丁度よく」
「ならない、不味い!
てゆうかさ、僕から言うのもなんなんだけど、高麗人参って高いって松本先生が言ってたよ?」
「そりゃあまぁ…せやけど土方さん持ちですし」
「…さっきのボロ刀、貸してよ。ついでに頼んでおくから」
「………」
色々を考えた。
多分沖田は、経費だとかなんだとかではなく、安い刀鍛冶に自腹で仕事を与えているのだ。
無名の刀を治す鍛治など、困窮している。
「…わての生計を考えるんなら、その前に」
沖田は錫杖刀の柄の先をキュッと握り「やらせて」と言った。
「まだ諦めてないから、いまあんたの不味い薬を飲んでるわけだし…」
意外と、優しい青年なんだな。
持ってる刀も明らかに、他の幹部よりも安手の物だ。しかし、仕事量的にはきっと、金はある。
「…免じてお頼みしますが、なんや、そうもなんか湿臭く言わんでくださいよ。明日にはくたばりそうな挨拶ですやん」
「ははっ、憎まれ口は本当、天下一だよね」
さて、用は済んだ。金清楼にそろそろ行かねばなと「また来ますね」と去る間際に沖田が「ありがとうね」と言った気がしたが、聞こえなかったことにしよう。なんせ、あの小生意気な沖田総司だ。
それでいい、それがいい。
一応、毎度挨拶をしてから出ることにしている。
先程土方もいたしなと副長室に寄り「では、また明日」と帰ろうとしたが、今度は土方が「あー、そうだ」と、久方ぶりにちゃんと声を掛けてきたので振り向く。
土方はふと紙をペラっと翳し「岡田以蔵は先日土佐に移送され処刑されたようだぞ」と述べた。
紙を見た瞬間にわかることだ、そんなこと…。
「頭の武市にも処刑とくだされたらしい。土佐勤王党は実質解散だな」
「……そうですか」
「…坂本龍馬については、何かあったら報告をくれ。
とは言っても、今は幕府の重鎮と仲良しみたいで…なかなか手も出せない」
当て付けだろうか。
それなら、もう挨拶も済んだしとまた帰ろうとするが「まぁ待て、」と言われれば仕方ない。皮肉にも、金をそれなりに貰っている恩義という意識が掠め、また振り向く。
随分寝ていなさそうだ。しかし、土方は真面目な面で見上げてきた。
これは…何か確証、戦略…そういった志士の魂、熱い何かを含んでいる。
それもそうか、なんせこの負けん気が随分コケにされているのが現状なのだから。それに…関係があるのなら、若干面倒ではあるが…。
「…そこに、怪しい影があるのは分かってるよな?お前も。
ちょこまか小賢しく、動き回ってる奴が」
…それは。
彼はニヤッと笑い「お前にとっちゃ因縁だよな」と、まるで悪戯を仕掛ける子供のような口調。
…宛なんてひとつしかない。だが、それは確証ではなく…。
皮肉にも、義父を殺したあの風景が頭をチラつく。これは、あれに似た状況。
「…今日のところは、これにて」
本当に去ろうとする背後から「考えといてくれ」と言われた。
だとしたら、因果応報とはこのことかもしれないが。どうやら生きるということは、繰り返すらしい。どれだけ捨てても。
花街に向かう短い道程で、一度息を吸い直す。
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