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二
5
露は不機嫌かもしれないなぁと思ったが、家の扉の前に商人であろう男と…漁師の八兵衛が、その男から家を守るように立っているのが見えてくる。
只事ではないのだと、「どうしましたか」と声を掛けた。
八兵衛が「こいつがしつこくここにいたから」と説明する中、商人は構わず「貴方が三味線屋の竹島さんでしょうか」と商売笑顔を浮かべている。
「………」
栄が留守の際、露はこういった相手を追い返しているはずだ。
しつこくという八兵衛の言い分からして、ふと退いてくれた八兵衛に軽く頭を下げ、襖を開け部屋を見る。
露は………。
あずきを抱き、台所の奥にしゃがみ込んでいた。
「おとう、」と安心した表情をしたので、まずは側に行き「どうした?大丈夫か、」と声を掛ける。
「大丈夫……あの人、おとうを待ってたみたいで、」
「…何かされてはいないか?」
小声で聞けば「何もないけど…」と耳元で「帰ってくるまで待つって聞いてくれなくて…」と言った。
「…ハチさんが気付いてくれて、家に入れないようにしてくれたの」
「…そうか、お留守番ありがとう。ごめんな、怖かっただろう?」
露の頭を撫で、甘味屋で買った土産の包みを開く。
「八兵衛さんに…お茶を煎れておこう。でも、露のご褒美だから、全部食べてしまってもいいよ」
「…よもぎ餅だ。ありがとう。ごめんなさい、上手くお留守番出来なくて…あの人はお客さん…?」
「いや。
話をつけてくるから、気にしないで。あずきにはあげてはいけないよ?喉に詰まってしまうからね」
露の頭をぽんぽんとし、踵を返して「外で」と男に言う。
「八兵衛さん、すみませんお世話になりました」
「いいんだよ、大丈夫だったかい?」
「はい、ありがとうございます。よもぎ餅にありついてますよ。
……貴方は誰ですか?随分と強引な方で…。こちらの方がいてくれたようで何よりですが、娘に何か御用ですか?随分と怖がってしまっているのですが、何か…」
「いえ、そういうつもりではないですよ、幼子なんて!この方が大袈裟に」
「実際娘が怖がっているので、こちらの方は心配してくれたのですよ。
……失礼しましたね、娘も幼いとはいえ…嫁入り前の女性を怖がらせてしまうのは…ちょっと…」
「違います、貴方に依頼をしたくて遥々やってきたもので、帰ってくるのを待たせて頂いたんです、ちゃんと、ここで!」
「娘には男の方を入れるなと言いつけてありますし、私がいない時には日を改めて貰ってくれと言っています。ちなみに居座ってまで依頼したかったことはなんでしょう?直しですか?木材ですか?
…八兵衛さん、ありがとうございました、後で伺います」
「いいんだよぅ!気にしねぇでくれ。
おい、あんたな、ちったぁ考えろよ、目先の事で依頼先に迷惑かけんじゃねぞ!ここにはおいらも、杣人も出入りするんだからな!」
八兵衛がそう一括し「後で魚持ってくるな!」と川に戻った。
栄が襖の前に仁王立てば「……ご無礼、失礼しましたね」と、相手がムスッとする。
「こちらに三味線屋がいると伺ったので、皮など如何かと伺ったのです」
「つまり修理依頼ではなく、売りに来たのですかね?
無礼返しとして、こちらは最近、質の悪い鞣し屋が多くなりまして、少々困っているところです」
「えっ」
三味線屋も追い返しているらしいし、先日柳澤にも周知したところだ。流石にそろそろ、この辺では売れなくなってきのたか。
「一本向こうの三味線屋さんが同じことを仰っていたし…私も先日いつも通り山菜を取りに行きましたら断りもなく猫捕りが置いてあって…もし何かご存知でしたら是非情報が欲しいのですが」
「……山…って、その?」
家の裏の山を指さすので「はい。私の山です」と答える。
「三味線の材料以外にも使い勝手が良く……」
「あっ、山主さんだったんですね…木材もと思いましたがそうですか、失礼致しました…。
情報など掴みましたらお伺いしますね、本日は失礼しました!」
「はい、どうも」
そそくさと帰る男を見て、目の前で釣りをしていた八兵衛は早速「はっはっは!」と豪快に笑い、籠を見せてくれた。
「竹島の旦那、いいねぇ、粋だったよ。胸がこう、スッとしたね。
あれも例の皮屋ってことかい?」
「反応を見ると違法な業者なんでしょうねぇ…。
娘をありがとうございました。八兵衛さん、宜しければ夕飯は如何ですか?よもぎ餅も、恐らく露は取っといてくれているかと…」
「ははっ、じゃあ茶を貰うよ。飯はこの通り、平気だ。寄り道してしかも酒まで食らった日にゃぁ、女房がうるせぇんだ。
あずきは魚は食うようになったかい?」
「いやー…今は大豆を煮込んで潰したものをね」
話しながら八兵衛を招く。
露が「ハチさんありがとう!」と、よもぎ餅を並べ茶を入れて待っていた。
側にいたあずきを見て「おー!確かに小粒だな!可愛いなぁ、」と八兵衛はあずきに寄って行く。
「……八兵衛さん、猫嫌いなのかと思っていました…」
「それをあんたが言うかね!確かに食い荒らされるとこんちきしょうめってなるけど…あっちの方じゃよくあるからな…」
家より向こうの方、街あたりをさして言う。
「やっぱり街にはいますか…」
「そうだねぇ、放し飼いの令が出た時なんてもー、本当にダメだったよ」
「あずきはおいらがたらふく持ってきてやるから盗まねぇな!」とあずきを撫でる八兵衛に、「ふふ、」と露が笑った。
「なんかあったらまたなー」と帰って行く八兵衛を見送り、露も栄も夕飯の支度を始めた。
只事ではないのだと、「どうしましたか」と声を掛けた。
八兵衛が「こいつがしつこくここにいたから」と説明する中、商人は構わず「貴方が三味線屋の竹島さんでしょうか」と商売笑顔を浮かべている。
「………」
栄が留守の際、露はこういった相手を追い返しているはずだ。
しつこくという八兵衛の言い分からして、ふと退いてくれた八兵衛に軽く頭を下げ、襖を開け部屋を見る。
露は………。
あずきを抱き、台所の奥にしゃがみ込んでいた。
「おとう、」と安心した表情をしたので、まずは側に行き「どうした?大丈夫か、」と声を掛ける。
「大丈夫……あの人、おとうを待ってたみたいで、」
「…何かされてはいないか?」
小声で聞けば「何もないけど…」と耳元で「帰ってくるまで待つって聞いてくれなくて…」と言った。
「…ハチさんが気付いてくれて、家に入れないようにしてくれたの」
「…そうか、お留守番ありがとう。ごめんな、怖かっただろう?」
露の頭を撫で、甘味屋で買った土産の包みを開く。
「八兵衛さんに…お茶を煎れておこう。でも、露のご褒美だから、全部食べてしまってもいいよ」
「…よもぎ餅だ。ありがとう。ごめんなさい、上手くお留守番出来なくて…あの人はお客さん…?」
「いや。
話をつけてくるから、気にしないで。あずきにはあげてはいけないよ?喉に詰まってしまうからね」
露の頭をぽんぽんとし、踵を返して「外で」と男に言う。
「八兵衛さん、すみませんお世話になりました」
「いいんだよ、大丈夫だったかい?」
「はい、ありがとうございます。よもぎ餅にありついてますよ。
……貴方は誰ですか?随分と強引な方で…。こちらの方がいてくれたようで何よりですが、娘に何か御用ですか?随分と怖がってしまっているのですが、何か…」
「いえ、そういうつもりではないですよ、幼子なんて!この方が大袈裟に」
「実際娘が怖がっているので、こちらの方は心配してくれたのですよ。
……失礼しましたね、娘も幼いとはいえ…嫁入り前の女性を怖がらせてしまうのは…ちょっと…」
「違います、貴方に依頼をしたくて遥々やってきたもので、帰ってくるのを待たせて頂いたんです、ちゃんと、ここで!」
「娘には男の方を入れるなと言いつけてありますし、私がいない時には日を改めて貰ってくれと言っています。ちなみに居座ってまで依頼したかったことはなんでしょう?直しですか?木材ですか?
…八兵衛さん、ありがとうございました、後で伺います」
「いいんだよぅ!気にしねぇでくれ。
おい、あんたな、ちったぁ考えろよ、目先の事で依頼先に迷惑かけんじゃねぞ!ここにはおいらも、杣人も出入りするんだからな!」
八兵衛がそう一括し「後で魚持ってくるな!」と川に戻った。
栄が襖の前に仁王立てば「……ご無礼、失礼しましたね」と、相手がムスッとする。
「こちらに三味線屋がいると伺ったので、皮など如何かと伺ったのです」
「つまり修理依頼ではなく、売りに来たのですかね?
無礼返しとして、こちらは最近、質の悪い鞣し屋が多くなりまして、少々困っているところです」
「えっ」
三味線屋も追い返しているらしいし、先日柳澤にも周知したところだ。流石にそろそろ、この辺では売れなくなってきのたか。
「一本向こうの三味線屋さんが同じことを仰っていたし…私も先日いつも通り山菜を取りに行きましたら断りもなく猫捕りが置いてあって…もし何かご存知でしたら是非情報が欲しいのですが」
「……山…って、その?」
家の裏の山を指さすので「はい。私の山です」と答える。
「三味線の材料以外にも使い勝手が良く……」
「あっ、山主さんだったんですね…木材もと思いましたがそうですか、失礼致しました…。
情報など掴みましたらお伺いしますね、本日は失礼しました!」
「はい、どうも」
そそくさと帰る男を見て、目の前で釣りをしていた八兵衛は早速「はっはっは!」と豪快に笑い、籠を見せてくれた。
「竹島の旦那、いいねぇ、粋だったよ。胸がこう、スッとしたね。
あれも例の皮屋ってことかい?」
「反応を見ると違法な業者なんでしょうねぇ…。
娘をありがとうございました。八兵衛さん、宜しければ夕飯は如何ですか?よもぎ餅も、恐らく露は取っといてくれているかと…」
「ははっ、じゃあ茶を貰うよ。飯はこの通り、平気だ。寄り道してしかも酒まで食らった日にゃぁ、女房がうるせぇんだ。
あずきは魚は食うようになったかい?」
「いやー…今は大豆を煮込んで潰したものをね」
話しながら八兵衛を招く。
露が「ハチさんありがとう!」と、よもぎ餅を並べ茶を入れて待っていた。
側にいたあずきを見て「おー!確かに小粒だな!可愛いなぁ、」と八兵衛はあずきに寄って行く。
「……八兵衛さん、猫嫌いなのかと思っていました…」
「それをあんたが言うかね!確かに食い荒らされるとこんちきしょうめってなるけど…あっちの方じゃよくあるからな…」
家より向こうの方、街あたりをさして言う。
「やっぱり街にはいますか…」
「そうだねぇ、放し飼いの令が出た時なんてもー、本当にダメだったよ」
「あずきはおいらがたらふく持ってきてやるから盗まねぇな!」とあずきを撫でる八兵衛に、「ふふ、」と露が笑った。
「なんかあったらまたなー」と帰って行く八兵衛を見送り、露も栄も夕飯の支度を始めた。
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