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二色燕𠀋

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 頬杖をついた加東が、こちらを眺めてくる。

 木村に昼間、「感想を聞かせてくださいね」と言った時よりも…なんだか、楽しそうなような。

 ロングアイランドアイスティーに戻る。

 見た目、味、香りも確かに紅茶みたいだ。
 いつも、飴やらチョコやら持ち歩き、いまだって濃そうな物を食べている、加東。
 なんだか腑に落ちたが…。

「……あ、これ…」

 僅かな時間差で来た。
 これは酔いそうだ。

 「結構強い?」と加東に聞けば、「飲みやすいですよね」と返ってくる。
 いまでもそれなりに酔っているにも関わらず、グラスの縁から香る僅なアルコール臭に気付くくらいの強さ。

「今日は飲みたかったので」

 昇が酒を返すと、加東は黒ネクタイを少し緩め、「はぁ、」と息を吐きそれを煽った。

「おい、だいじょぶか、加東」
「なんのこれしき、です」

 あっ。

 まるで子供の…いたずらっ子のような表情で加東が笑った。 
 自分も言えたものではないが、加東も実は結構、酔っているのかもしれない。

「先輩、お姉ちゃんみたい」
「…………。
 ん?お姉ちゃん?」
「俺の姉です。先輩みたいな人なんですよね」

 ふふっと笑う加東の言葉に、お姉ちゃんってどうなんだろうなと思いつつ、「そうかい…」と、返事に困った昇は麦焼酎を口に含んだ。

 しかしよく食う。
 これだけ食ってよく太らないなと、自分は少しずつセーブをしながら後輩を眺めた。
 
 よくは食うが少しゆっくりで、昇は加東のそれに合わせ、結局もう一杯頼み、二人で全てを片付けた。

 その頃には更に酔っていて、会計でカードを出したのは、覚えている。

「飲みすぎちゃいましたね」

 加東が時計を女子見しながらタクシーを拾ったのに同乗し、…その笑顔に気が抜けたのかもしれない。
 昇は少しだけ寝てしまっていた。

 もしかすると、自分は自宅を伝えていなかったかもしれないと気付いたのは、加東に「先輩、」と起こされ、肩を借りながらタクシーを降りた時だった。

「…ん?」

 夏風が絡むよう。

 降りた景色。
 ここがどこかという判断も鈍っていたが、店の並びはまるでごちゃごちゃしていて明るい。
 しかし、あまり人も通らない、少し涼しいと感じるような雰囲気のエリア。

 間違いなく自宅ではないなと昇の頭がまわったのは、加東が「もう少しですよ」と建物に入る、その表情に妙な明るい光が差したからだった。

「…んー?」

 看板が目に入る。
 外壁はライトアップされた一面の滝、おしゃれで大人な雰囲気の、「gold moon」。

 外壁の中の自動扉の側。
 重厚そうな金色の板には、お洒落な字体で「料金表」と書いてあった。

「…ん?」

 しかし、加東はそれに目をくれるわけでもなく進んで行く。

 受付は当たり前にタッチパネル式で、流石に「おい?」と、酒が少し抜けた。

「あぁ。先輩、お家言ってくれなかったので…」
「あ、うん……そーかも…?」
「目についたんでここにしました。一人じゃ入れないし」
「あ、そーだね…確かにね…」

 あまりに淡々と返されてしまったが「いや、でもここ」と、酔った頭でもツッコミを入れることは出来る。

「ラブホテルじゃん」
「はい」
「いや…」
「俺も帰らないんで、丁度よかったです」

 …あれ?

 あっさりと鍵を入手した加東は淡々と、「三階です」と言う。
 完全に加東のペースに乗せられた昇は「あ、はい」と従うが、まわらない頭で少し考えてみる。

「…普通…くる?」

 多分来ないだろう。

 まるで急ぐように昇とエレベーターに乗った加東は少し俯き、「すみませんね」と呟いた。

「い、いや、まぁ…」

 職場での天使ベールが、ない。
 …これはたまに気付く、加東がパソコンと対峙している時の顔だ。

「来たことないし」
「…あ、そう…なんだ」
「少し魔が差しただけなんで」
「…まぁ、確かにそんなに来るもんじゃないけど…」
「ホントにベッドってまわるんですかね?」

 酔ってるせいかもしれない。

 少し見上げてくる加東の目はキラキラしいる、が、眠そうというか…結構大人っぽい視線でこれは、どんな無邪気さなんだと頭が整理されていくのか、混乱していくのか。

「多分まわんね…」
「…そうなんですか?」
「ソレ多分かなり昔のやつだと思われる…」
「…泡風呂は?」
「それはある……と、思う…けど、」

 まともに受け答えしているがこれ、実際かなりシュールなんじゃないか?

 エレベーターがちん、と鳴りドアが開く。
 「305です」と、一貫して業務連絡じみた加東は、然り気無く(もなく)手を…繋いできて、やっぱり先を急くよう。

 …お姉ちゃんみたいって言われたけど、なんかこいつ弟みたいだけどもっとなんか、違うんですが、状況が。
 一人じゃ入れないしとは言っていたが、取り敢えず当初は一人でどこかに行こうと、していたんだろうか。
 俺も確かにあの、彼女とちょっとだけ過ごした家には帰りたくなかったしまず寝落ちるほどに酒も飲んだ、一人ではいたくなかったけど………、

 昇がぐるぐると考えるうちに、加東は鍵を回す。
 ぼやけていた状況が現実の輪郭を捉えた気がした。
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