this is

二色燕𠀋

文字の大きさ
6 / 46
one

6

しおりを挟む
 はぁ、はぁ……と、加東の息遣いが聞こえる。
 …っはぁ、っふあ、と、温度までわかる近さにどうにかなりそうで、しかしまだストッパーは外れていない。
 いっそ…好いなら外れればいいのにと、どこか隅の隅っこにそんな自分も混在しているカオス。

 …っふっ、はっ……っひっ…うぅ………っぅ、

 温度は高かった。
 ……不規則…動きがゆっくりになった、ような…。

 このカオス、そろそろ本当に耐えられない、メンタルがと、昇は恐る恐る薄目を開けた。

「………!?」

 目を見開いてしまった。

 加東が眉をしかめ、喉に痞るように泣いていた。
 加東も昇が目を開けたことに気付き、はっとしたように眼球をはっきり開ける。

 バツが悪そうに少し目を反らしてきたが、加東があまりにも大粒の涙を浮かべていたので「どうした…、加東」と声を掛け、ついつい目元に手を伸ばしてやっていた。

「…ぇえ?」
「………」

 …なんだ、この状況は。
 加東は完全に動き止め、戸惑ったように目を伏せる。

 これはもしかして何か…と、昇は兎に角、涙を拭ってやるに努めることにした。 

 ふと目を合わせたので「何かあったのか?」と昇が冷静に聞けば、加東はまた伏し目になりつつも、はっきり眉を潜めて「ぅうっ…、ふっ、」としゃくる。

 耐えられなそうに、ぼろぼろ、ぼろぼろと流れる涙を袖で拭い始めた。
 時計も邪魔になったようで、がちゃがちゃと外してまでも泣いている。

「あー……まぁ、」

 自然と昇は加東の背を擦り、なんなら少し力を入れ頭を胸に引き寄せ、「はいはいよしよし…」と宥める。

「……っう、あ、ぅあのっ、」
「んー……」
「ご、ごめんな、っさい、」
「んーまぁよしよし…泣いてろ泣いてろ」

 うぅ、ひっく、と腹の上でやられるのは若干重くて苦しいが、確かにこんなの、酔っていたとしても異常だよなと冷静になってくる。

 ケツはするっとしまってやる。
 伝わる体温はとても高かった。

 帰らないとも言っていたし、多分私生活で何かがあったんだろ……。

 横を見ると、さっき加東が放り投げたネクタイが目に入る。

 …黒ネクタイ?
 
 はっと加東の姿を眺めればそう、リクルートのように、上下黒のスーツで……。

「…もしかして、誰か亡くなったのか?」

 加東がぴくっ、とした。

 会社はスーツ指定だし、いつも派手な物は着ていないが、……うん、スタイリッシュな印象もなくはないというか…。
 いままで似合わないと思ったことがなかったというか、違和感もなく自然だっただけに、今日だって意識もしなかった。
 今時の子のお洒落は多様で、自分にはわからない面もあるとはいえ、どうして気付かなかったんだろう。

 一般的にこんなの、どう考えても喪服だろう。

「………姉、が、」

 …そうか。

「…ぅぎょぅ、命日っ、で、」
「うんわかったまずは落ち着け?」

 ひっく、ひっくと泣く加東に、まずは落ち着かせねぇとな…と、昇はそのまま暫く加東の背を撫で続けた。
 しゃくりが治まってきたところで「よし、」と、加東を横へ退かす。

 股間をしまい、「水でも取って」くるわ、と言おうとしたが、ちょんと裾を握られ敵わなかった。

 ふと、ぎょっとした。
 その、裾を握ってきた袖の隙間から見えた、いくつかの手首の傷に。

「…先輩」
「…なんだ?」
「も少し…」
「…わかった、けど、」

 これもいままで全く気付かなかった、何故だろう。
 
 加東は疲れたように笑い、目を閉じた。
 まるで、いつもの社内のあれじゃない。
 あれが……完全なる虚構なのだと思わせるような、そんな穏やかさまで備えて。

「…ん?……寝るの!?」

 返事もしないまま、すぐに小さく息をし始めた加東に「…マジかー」と、昇は思わず呟いた。

「…床じゃん…」

 てゆうか玄関じゃん。

 あまりに穏やかな表情に、けれど号泣も忘れられない、インパクトがあった。
 「全くなぁ…」と加東の頬を指ですりっとすると、涙のせいかぱりっと湿っていた。

 …この不安定さは、一人で家にいたら何を仕出かすかわからないレベルだったかも…。

 まぁ、しゃーないなと、まずは靴を脱がせる。が…。

「…あれ?」

 底上げしていることに気が付いた。

 予想よりも小さかったのか?と思ったら「はは…っ!」と笑えてしまった、笑っちゃいけないんだろうが。
 まぁそう、元から可愛い後輩なのだ。

 肩に腕を入れ、運べるもんなのかと思ったが、意外と重かった。
 さっきまでそんなの感じなかったのに。

 でもそういえばめっちゃ食ってたしな、てゆうか男だしなと、「おいちょっと起きない?」と声を掛けみるが「…ん?」と、一瞬起きたかどうかわからないような反応。

 少し苦労をしながらもベットに運べば「はーっ…」と、自分も相当疲れていた。

 そのまま半端にベッドへ寝転び、なんだったんだかなと息を吐けば疲れがどっときた。ふかふかベッドが思い切り凹んだのではないかというくらい。

 ぼんやり、健やかに眠っている加東を見て、昇も気付かぬうちに眠りについていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

処理中です...