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破壊衝動
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いつか、ここから落ちたときのことを考える。だけどいつでも、下から太陽を見上げる足元の見えない浮遊感が気持ち悪かった。
見上げた天井には真っ黒で、命を燃やすような色をした瞳がある。
小さな黒子と綺麗な目、ビー玉みたい、子供のような。でも暗闇だ。江崎か誠一が言っていた、“人を殺したヤツの目には光がないんだ”と。
目が合うと静かに、彼は息を食べてしまった。
本当はどんなものなのか、その血生臭さを追いたくなるときがある。俺は、一体どこにいるのと探すときと同じ切迫だ。
江崎がふと、片手で首に触れてきた。
親指ですりすりと喉仏に触れるそれは彼の癖だ。愛でるのか、殺すのかわからないそれは妙に心地が良くて。
「少し、痩せたよな」
それはどうかなと「そうかなぁ」と言っておいた。
胎内回帰願望について考える、人は、極論誰にでも奥底にそれが眠っているのだという。
手を伸ばそうとして気が付いた、左手が微かに震えている。
特に江崎に気付かれなかったので、首筋にキスをしてくる彼の後頭部に回しておいた。少し硬い髪質。しっかり芯があってクセになる。
少しだけまだ、整髪剤の匂いが残っていた。
足の震えには気付いたらしい、すっと太股を撫でるのに「くすぐったい、」と言うけれど、胸を愛撫する口先で「大丈夫そうか?」と江崎は穏やかに聞いてきた。
「足、震えてるけど」
「…大丈夫、」
少し、怖いだけ。
「…新さん、」
「…ん?」
「自分が、」
「ほら、乗っけて」と左足を抱えられる。少し楽になった。その力加減に安心することが出来る。
太股から緩やかに胴の方へ滑る江崎の指先に言葉を呑んだ。たったそれだけで痺れ、壊れそうになって。
きゅっとしがみついて、この手を離せなくなりそうな。
「どうした」
「…もしも、例えば、自分が何者か…泥沼に溶けて消えたらって、考えたとき」
それは、まるで光に包まれた景色だった。
泥々に溶けた涙の先にいた人は、自分をじっと、青ざめた顔で傍観していた。
力が入った左足を少し撫でてくれる。
覗き込むように自分と目を合わせた江崎はまた優しく、ゆったりと確実に…溶けそうな程気持ちが良いキスをくれる。
「何が残るのかなって、」
「…慧」
「取り残されるのは」
自分だけが置き去りにされていた、あの綺麗なステレオグラムの教会で。
どうして生まれてきたのだろうかと、母親が泣きながらそれを眺め、股を濡らしていた日に感じた。何も綺麗なものはない、それはただの汚されたものだったのだと。
何が現実かわからなかった。
ただ、ただ江崎は何も言わずに見下ろし、抱えるように頭を撫でてくる。
背中の竜の三白眼と目が合った。
ただただゆっくり、静かにしっとりとお互い抱き合った。
熱い感情に汗ばんでゆく、呼吸も、鼓動も早くなるそれは生き急いで、ぐっと泣きたくなる頃に、どんな感情を飼い殺してきたのだろうと叩きつけられるような。
江崎とのセックスは何故かいつも、死にたくなる。
自分に気を遣っていつだって正常位で、ゆっくりと形なく思考まで溶かされていく、停止してしまいそうになる、それが、酷く満たされてゆくなんて。
降ってくるような余すことのない感情、細かな刺激に、自分は生きていると、血生臭さを染み込ませるような舌触りに、耳を塞ぎたくなる。
真っ正面から「お前の声、好きだよ」と寂しそうに心を刺してくるようなそれに、殺されてしまいたいと、自分は随分と江崎に甘やかされていた。
奥底に引っかかるその感情。ずるずる、ずるずると引っ張り出されそうなそれは、なんの形もなくただただ隙間も余裕もない、自分自身の僅かな麻痺。
そっと押され、撫でられてはピリピリとサイケデリックで、針が刺さるように、自分を「生」へと引き戻す。
あぁ、こんなにも、こんなにも、ただ誰か、助けて欲しいと薬をたくさん飲んだ日。
あの痺れと苦しいアレルギーに、世界は狭くなり呆然と虚無へ投げ出された。ただの、自己満足以外になんの景色もなかった。
形を保てない砂糖のようだと今付けで考える。それは、恐怖に近い震えで。
声にならない息を吐いたとき、はぁっ、と苦しくなる。確かに、これは堪らないのかもしれない。
「…久しぶりで死にそう…」
そう素直に言って側に降ってきた江崎に「っははは!」と笑ってみるのが所謂虚無なのかもしれないと思うと。
「…痛くないか、大丈夫か」
「…新さん上手いから…」
「はぐらかすなよ全く」
寂しいと知っている。
だからこそあと一歩、踏み入れられない自分がいた。
踏み入れたら最後、本当のこと、一番悲しみそうなことを口走りそう、そこまで甘えてしまうのは辛かった。
「また考えてんな、お前は」
疲れた顔でニヤッと笑い、キスをしてくる人。
優しい人。そんな目で見ないでと、閉じて、知られぬうちに顔をしかめた。
名前のつかない、この足元に。せめて、美しい感情で這いつくばって嗚咽したいと思う、夜の日。
見上げた天井には真っ黒で、命を燃やすような色をした瞳がある。
小さな黒子と綺麗な目、ビー玉みたい、子供のような。でも暗闇だ。江崎か誠一が言っていた、“人を殺したヤツの目には光がないんだ”と。
目が合うと静かに、彼は息を食べてしまった。
本当はどんなものなのか、その血生臭さを追いたくなるときがある。俺は、一体どこにいるのと探すときと同じ切迫だ。
江崎がふと、片手で首に触れてきた。
親指ですりすりと喉仏に触れるそれは彼の癖だ。愛でるのか、殺すのかわからないそれは妙に心地が良くて。
「少し、痩せたよな」
それはどうかなと「そうかなぁ」と言っておいた。
胎内回帰願望について考える、人は、極論誰にでも奥底にそれが眠っているのだという。
手を伸ばそうとして気が付いた、左手が微かに震えている。
特に江崎に気付かれなかったので、首筋にキスをしてくる彼の後頭部に回しておいた。少し硬い髪質。しっかり芯があってクセになる。
少しだけまだ、整髪剤の匂いが残っていた。
足の震えには気付いたらしい、すっと太股を撫でるのに「くすぐったい、」と言うけれど、胸を愛撫する口先で「大丈夫そうか?」と江崎は穏やかに聞いてきた。
「足、震えてるけど」
「…大丈夫、」
少し、怖いだけ。
「…新さん、」
「…ん?」
「自分が、」
「ほら、乗っけて」と左足を抱えられる。少し楽になった。その力加減に安心することが出来る。
太股から緩やかに胴の方へ滑る江崎の指先に言葉を呑んだ。たったそれだけで痺れ、壊れそうになって。
きゅっとしがみついて、この手を離せなくなりそうな。
「どうした」
「…もしも、例えば、自分が何者か…泥沼に溶けて消えたらって、考えたとき」
それは、まるで光に包まれた景色だった。
泥々に溶けた涙の先にいた人は、自分をじっと、青ざめた顔で傍観していた。
力が入った左足を少し撫でてくれる。
覗き込むように自分と目を合わせた江崎はまた優しく、ゆったりと確実に…溶けそうな程気持ちが良いキスをくれる。
「何が残るのかなって、」
「…慧」
「取り残されるのは」
自分だけが置き去りにされていた、あの綺麗なステレオグラムの教会で。
どうして生まれてきたのだろうかと、母親が泣きながらそれを眺め、股を濡らしていた日に感じた。何も綺麗なものはない、それはただの汚されたものだったのだと。
何が現実かわからなかった。
ただ、ただ江崎は何も言わずに見下ろし、抱えるように頭を撫でてくる。
背中の竜の三白眼と目が合った。
ただただゆっくり、静かにしっとりとお互い抱き合った。
熱い感情に汗ばんでゆく、呼吸も、鼓動も早くなるそれは生き急いで、ぐっと泣きたくなる頃に、どんな感情を飼い殺してきたのだろうと叩きつけられるような。
江崎とのセックスは何故かいつも、死にたくなる。
自分に気を遣っていつだって正常位で、ゆっくりと形なく思考まで溶かされていく、停止してしまいそうになる、それが、酷く満たされてゆくなんて。
降ってくるような余すことのない感情、細かな刺激に、自分は生きていると、血生臭さを染み込ませるような舌触りに、耳を塞ぎたくなる。
真っ正面から「お前の声、好きだよ」と寂しそうに心を刺してくるようなそれに、殺されてしまいたいと、自分は随分と江崎に甘やかされていた。
奥底に引っかかるその感情。ずるずる、ずるずると引っ張り出されそうなそれは、なんの形もなくただただ隙間も余裕もない、自分自身の僅かな麻痺。
そっと押され、撫でられてはピリピリとサイケデリックで、針が刺さるように、自分を「生」へと引き戻す。
あぁ、こんなにも、こんなにも、ただ誰か、助けて欲しいと薬をたくさん飲んだ日。
あの痺れと苦しいアレルギーに、世界は狭くなり呆然と虚無へ投げ出された。ただの、自己満足以外になんの景色もなかった。
形を保てない砂糖のようだと今付けで考える。それは、恐怖に近い震えで。
声にならない息を吐いたとき、はぁっ、と苦しくなる。確かに、これは堪らないのかもしれない。
「…久しぶりで死にそう…」
そう素直に言って側に降ってきた江崎に「っははは!」と笑ってみるのが所謂虚無なのかもしれないと思うと。
「…痛くないか、大丈夫か」
「…新さん上手いから…」
「はぐらかすなよ全く」
寂しいと知っている。
だからこそあと一歩、踏み入れられない自分がいた。
踏み入れたら最後、本当のこと、一番悲しみそうなことを口走りそう、そこまで甘えてしまうのは辛かった。
「また考えてんな、お前は」
疲れた顔でニヤッと笑い、キスをしてくる人。
優しい人。そんな目で見ないでと、閉じて、知られぬうちに顔をしかめた。
名前のつかない、この足元に。せめて、美しい感情で這いつくばって嗚咽したいと思う、夜の日。
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