天獄

二色燕𠀋

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ノットイコール

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 …本能ではすでに、敗北している。

 眼前にある波瀬のパンツのボタンをぐいっと口で引っ張り開け、チャックもようやっと噛んで下げる。

 一度チラッと波瀬を見上げるが、波瀬はただただ流し目で自分を眺めている。どうにもするつもりはないらしい。

 手が使えないだけにぎこちなく、噛みそうになる瞬間もあれど、下着の上からただただ、隠った熱を舌で愛撫した。

 少し動くだけでも手が痛い、寧ろ痺れてきている。

 眺めていた波瀬は「はっ、」と吐き捨てるように声を出し、今度は前髪を掴み上げてきた。

 生理的に涙が浮かぶ。

 自分の顔を眺めた波瀬は、気の強そうな嘲笑を浮かべている。

「随分飼い慣らされてんなぁ、あんた、」

 「誰だか知らないけど、」と、股間に顔を沈められた。
 さっきよりも息苦しい、流石に誠一ですらこんなに荒々しくはない。

 動きが抑制され、ぎこちなく唇で食むだけになったが、確実に熱く硬くなってきている。
 今度は無理にぐいっと輪郭を掴んで眺め、波瀬は静かに言う、「あんたのその顔超良いよ」と。

 まるで視姦するような視線。

 片手でジーパンを荒々しく下げられ、股間が掴まれた。
 「勃ってんじゃん」と、がしがし急速にしごかれ、すぐに吐精してしまった。

 はぁ、はぁと息を上げていると、出したばかりの精子が着いたその手でがっと、口を開けるように親指をねじ込まれ下顎を下げられる。
 殺した嗚咽に「あーって声出して、あーって」だなんて、本当にこいつは狂っているかもしれない。

 戸惑っているうちに荒々しくうつ伏せにされ、乾いたまま一気に二本指が入り「あ゛っ……、あがっ、」と声にすらならなかった。

 左足に力が入らない。滑り、崩れそうな姿勢は荒々しく首元から引き摺り上げられる。
 
 もうやめてくれ本当に苦しいと涙目になってくるのに、わかっている、股間は誤作動か、また熱を帯びる。

 ふーふーとこちらが何も出来ずにいる様を覗き込んだ波瀬は、ぐちゃぐちゃと口を犯してきた。

 もう、頭が真っ白になりそうだ。

 さらに息が上がり続け、喉が切れそうなほどの嗚咽。後頭部を乱暴に引っ張られより苦しい、痛い。

 …一つだけ、景色がフラッシュバックした。

 途端一気に焦燥、パニックが押し寄せ、はぁ、はぁ、と留まっていた涙も一緒に流れ落ちていく。

「…ゃっ、いや、ぅう、もう、やめ」
「勝手に喋ってんなよっ、あぁ!?」

 穏やかだった口調が豹変しひっく、と言葉が尻尾を巻いて逃げる。
 見計らったかのように、熱が一気に躊躇いもなく自分を引き裂き「ぅあぁ…っ、」と唸り声が出て行く。

 息が…苦しい。

 容赦なくがつがつと打ち付けられる行為に、後半は過呼吸にしゃくりあげて泣いていた。

 痛みに身体が痺れる、それが広がってあぁ、ヤバイ、殺されると思った最後、後ろから首をぐっと絞められ抑制される。
 苦しい、死ぬ、頭が真っ白になりかけたとき、波瀬がふるっと震えたのがわかった。

 首が解放され見上げると、波瀬の唇に歯形の血が滲んでいた。

 我慢でもしたのか…?……あれで…?頭おかしいわ、マジで…。

 ずるっと抜いた波瀬は、まるで燃え尽きたとでも言わんばかりにゆっくりと、拘束していたベルトを外し、下着とズボンをあっさり履き直した。

 …危ない、本当に殺されるかと思った…。

 漸く起き上がることが出来、作業台に座り痺れた手を回してみる。安心感に力が抜けた。

 これが生存危機本能なのか抜かれた拍子か、誤作動かもしれない。
 まだ少し元気の残る股間を見つめてきた波瀬は、それを握りゆるゆるとしごきながら「はいよ、」とウェットティッシュを渡してくれるが、そもそも痛かった。

 ……本当に別人だったのかもしれない。あっさりと始めのダルそうな雰囲気に戻っている。
 なんだったんだ、一体。

「…痛いからいい…取れる、」
「あっそ、」

 波瀬は手を離してタバコを吸い始め、脱がせたジーパンと下着を「はい」と渡してきては、ふぅ、と息を吐き座った。

「…グッズの方は取り敢えず…まぁ2日、3日後くらいに来て。一個見本作っとくわ」

 それから何かの薬を飲んだついでに「はい」と、自作だろうシンプルなピルケースにカプセルを6錠入れ、渡してくれた。

「一回2錠、一日最大6錠までね。それ、大丈夫なやつのはずだから。
 ヤバかったら……非ステロイドも渡しとくわ。死にたくなったら飲んでみて」
「……うん」
「処方薬はデパスかなと踏んだけど、あってる?」
「……あってる」
「ふん、そ。多分それの方が安心するよ。まぁ使いやすいのが一番良いけどね。試してみてそっちの方が合うなら教えるから、次は医者にそう言ってみて。
 残念ながら、あんたにはハイになる薬はやれない。まぁ、少しの幸せと考えよ?」

 は?
 …ホントにマジでなんなんだこの違い、誰だこいつは。混乱しそうだ。

「…少しの、幸せ……」
「多くを求めるから効かないの、あんたみたいな人は。難しくなく、緩く考えた方がいいよ」

 最後にもう一度だけ深めの、けれども優しく撫でるようなキスをしてきた。

 血の味がする。

 意図はバレたような気がするけど、あくまで自分のことを考えてくれる発言をするこの男が、ただただ不思議だった。
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