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ノットイコール
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「そうなんだ…」
知らなかった。
症状を思い返し、「涙も出るし喉は枯れる、呼吸も辛くなるし、肌も赤くなるしそれほっとくと蕁麻疹出るかも」と、自然にポロポロと話していた。
「呼吸抑制もあるなら、軽度のアナフィラキシーってとこかな。回数を重ねる毎に悪化してダメなものも増えてくるし、最終的にはショック死する。
例えば、こっちが覚醒剤の一種成分の化学式。
で、こっちは合法の、一般的に売ってる漢方のやつの化学式。どう?」
波瀬は棚からファイルを取り出し、さっと二枚の紙を並べて見せてくる。カクカクとした六角形の図。
最早間違い探しの域だった。
「えっと…あ、ここ1本多い…だけじゃん、似てる…」
「そ。正体は風邪薬の一種成分。
これは普通でも身体が間違える率高いけど、踏まえて説明すると、アナフィラキシーの場合は身体の防衛反応なんだけど、まぁ…誤作動というか、みたいなもんだから、似てると身体が間違えちゃうことがあるわけね。
始めは問題ない物だったけど、後からダメになる、とかはある話。
発症中に別の物を身体に入れてしまっても、ビンビンに反応中だからそれもダメになることがあるし、未知数なんだよ。アナフィラキシーの発症期間、実は長いんだよ。一回症状を抑えても一ヶ月は制限あったでしょ」
「あぁ、うん、あった…のかな?」
「なんでダメになったか原因わかってんの?何でやった?」
「……その、ODで」
「過剰摂取の方か、医療品は成分がたくさん入ってるから原因の正確な特定はほぼ不可能だな。検査しようにもパッチじゃ出来ない薬品のパターンなんかだと、血管に入れちゃダメな薬もあるし」
「…すごーい…なんか、勉強になる…」
「まぁ、特定出来てないかもだけど…」
「覚醒剤系とだけ…取り敢えず…」
「何を持ってそうなのか、ぼんやりしかわからないけど、自らODするヤツがやることなんて大体決まってる。マジで死のうとして市販でもなんでも、種類はたくさん飲んだね?酒は?」
「…うん」
「まぁ、失敗したわけだ。
ホントに向精神薬、不眠薬なら日本じゃベンゾジアゼピン系が多く使われてるかな。うーん、覚醒剤系でアナフィラキシーで…タバコはさっき大丈夫だったよね?」
「…うん、うんそう、」
「あんまり言うと死に方教えるようなもんだからやめとくけど、なんとなくわかった気がする。
ちなみに覚醒剤やら脱法なやつと、精神薬系とか合法な医療品の違いは、興奮剤か抑制剤か、てところ。簡単に言うと」
「なるほど…」
「何がそんなに悲しかったの?」
これはこれでなんとか誤魔化せたかもしれないが、矛先は自分のことに向かってしまったようだ。
「さっきたくさん飲んだって言ったよね。併用禁忌とか調べたんでしょ。難しいし、余程」
「…芥川龍之介みたいなもん」
「は?」
「将来への漠然とした不安…みたいな」
「…まぁ、いいけど。あんたに売れそうなもん、なくはないよ。
ま、楽しくなれるか死にたくなれるかは博打だけど。病院へ行くのを奨めたいかな」
「…行ってる、無理。明日には死んじゃう」
「…ははっ。
あんたみたいなバカ、嫌いじゃないよ」
再び顔を寄せられたがやはり反射で背けてしまう。
波瀬は「大丈夫なやつだよ、多分」と静かに言った。
「…物とか、詳しく言ってないじゃん」
「欲しいんじゃなかったけ?
今のこの時点で俺が喋って問題もないんだから、試してみない?」
…そういう言い方をされてしまうと…。
了承、という概念になる前に、息が犯されてしまった。
わかればどんどん深く、楽しそうに舌を絡めてくる波瀬に、圧倒されてしまう。
随分ぐいぐいこられて戸惑ったのもある。
我に返り強めに胸板を叩くと、手は取られてしまうし息も苦しい。
躊躇いもまだある、舌を軽く噛んでやった。
ぱっと顔を離した波瀬の三白眼に、こいつが今までで一番ヤバイヤツかもしれないと感じた。
手の震えも関係ない、痛いほど握られ「悪い子だ」と底冷えする低音、波瀬の股間にぐりぐりと持って行かれた。
自分も引き下がれないしと、立つことにも躊躇いがある。
しかし多分、振り切れないのには…もうひとつ理由がちらついている。
「…あんた、虫も殺せない面して結構外れちゃってんだろ、」
…言い当てられる気がした。
「そーゆうの好きだよっ、ねぇ、」と力任せに立たされ、机に押さえつけられてしまった。
これは、自我保存本能なのか、抗えないとわかっている自分がいる、けど…。
後ろでしゅるっと、勢いよく革が擦れるような音がする。
何事だと、苦し紛れに背後へ顔を向けると、ベルトを外した波瀬が慣れた手付きで両腕をぐい、ぐい、と縛りあげてきた。
「きっと、ねっ、」
ベルトがめり込む痛さ、圧迫感に、喉から短い唸りが出ていく。
「死ぬか死なないか、落ちるか落ちないかのそれが楽しいんだろ?あんた」
言葉が胸に刺さる。
「だから死ねねーんだよ、」
またキツく絞られ答える間もなく、側にあった広めの作業台へ投げ飛ばされた。
……まるで別人だ。
迫ってきた波瀬はぼんやりとしたように自身の股を眺め、まるで促している。
選択肢など実は用意されていないのに、選択肢を与えているような態度。
どうするのか、それ自体もすでに楽しんでいるのかもしれない。
こいつは、もしかすると真正のドSだ……。
心に攻め込まれた気がした。
知らなかった。
症状を思い返し、「涙も出るし喉は枯れる、呼吸も辛くなるし、肌も赤くなるしそれほっとくと蕁麻疹出るかも」と、自然にポロポロと話していた。
「呼吸抑制もあるなら、軽度のアナフィラキシーってとこかな。回数を重ねる毎に悪化してダメなものも増えてくるし、最終的にはショック死する。
例えば、こっちが覚醒剤の一種成分の化学式。
で、こっちは合法の、一般的に売ってる漢方のやつの化学式。どう?」
波瀬は棚からファイルを取り出し、さっと二枚の紙を並べて見せてくる。カクカクとした六角形の図。
最早間違い探しの域だった。
「えっと…あ、ここ1本多い…だけじゃん、似てる…」
「そ。正体は風邪薬の一種成分。
これは普通でも身体が間違える率高いけど、踏まえて説明すると、アナフィラキシーの場合は身体の防衛反応なんだけど、まぁ…誤作動というか、みたいなもんだから、似てると身体が間違えちゃうことがあるわけね。
始めは問題ない物だったけど、後からダメになる、とかはある話。
発症中に別の物を身体に入れてしまっても、ビンビンに反応中だからそれもダメになることがあるし、未知数なんだよ。アナフィラキシーの発症期間、実は長いんだよ。一回症状を抑えても一ヶ月は制限あったでしょ」
「あぁ、うん、あった…のかな?」
「なんでダメになったか原因わかってんの?何でやった?」
「……その、ODで」
「過剰摂取の方か、医療品は成分がたくさん入ってるから原因の正確な特定はほぼ不可能だな。検査しようにもパッチじゃ出来ない薬品のパターンなんかだと、血管に入れちゃダメな薬もあるし」
「…すごーい…なんか、勉強になる…」
「まぁ、特定出来てないかもだけど…」
「覚醒剤系とだけ…取り敢えず…」
「何を持ってそうなのか、ぼんやりしかわからないけど、自らODするヤツがやることなんて大体決まってる。マジで死のうとして市販でもなんでも、種類はたくさん飲んだね?酒は?」
「…うん」
「まぁ、失敗したわけだ。
ホントに向精神薬、不眠薬なら日本じゃベンゾジアゼピン系が多く使われてるかな。うーん、覚醒剤系でアナフィラキシーで…タバコはさっき大丈夫だったよね?」
「…うん、うんそう、」
「あんまり言うと死に方教えるようなもんだからやめとくけど、なんとなくわかった気がする。
ちなみに覚醒剤やら脱法なやつと、精神薬系とか合法な医療品の違いは、興奮剤か抑制剤か、てところ。簡単に言うと」
「なるほど…」
「何がそんなに悲しかったの?」
これはこれでなんとか誤魔化せたかもしれないが、矛先は自分のことに向かってしまったようだ。
「さっきたくさん飲んだって言ったよね。併用禁忌とか調べたんでしょ。難しいし、余程」
「…芥川龍之介みたいなもん」
「は?」
「将来への漠然とした不安…みたいな」
「…まぁ、いいけど。あんたに売れそうなもん、なくはないよ。
ま、楽しくなれるか死にたくなれるかは博打だけど。病院へ行くのを奨めたいかな」
「…行ってる、無理。明日には死んじゃう」
「…ははっ。
あんたみたいなバカ、嫌いじゃないよ」
再び顔を寄せられたがやはり反射で背けてしまう。
波瀬は「大丈夫なやつだよ、多分」と静かに言った。
「…物とか、詳しく言ってないじゃん」
「欲しいんじゃなかったけ?
今のこの時点で俺が喋って問題もないんだから、試してみない?」
…そういう言い方をされてしまうと…。
了承、という概念になる前に、息が犯されてしまった。
わかればどんどん深く、楽しそうに舌を絡めてくる波瀬に、圧倒されてしまう。
随分ぐいぐいこられて戸惑ったのもある。
我に返り強めに胸板を叩くと、手は取られてしまうし息も苦しい。
躊躇いもまだある、舌を軽く噛んでやった。
ぱっと顔を離した波瀬の三白眼に、こいつが今までで一番ヤバイヤツかもしれないと感じた。
手の震えも関係ない、痛いほど握られ「悪い子だ」と底冷えする低音、波瀬の股間にぐりぐりと持って行かれた。
自分も引き下がれないしと、立つことにも躊躇いがある。
しかし多分、振り切れないのには…もうひとつ理由がちらついている。
「…あんた、虫も殺せない面して結構外れちゃってんだろ、」
…言い当てられる気がした。
「そーゆうの好きだよっ、ねぇ、」と力任せに立たされ、机に押さえつけられてしまった。
これは、自我保存本能なのか、抗えないとわかっている自分がいる、けど…。
後ろでしゅるっと、勢いよく革が擦れるような音がする。
何事だと、苦し紛れに背後へ顔を向けると、ベルトを外した波瀬が慣れた手付きで両腕をぐい、ぐい、と縛りあげてきた。
「きっと、ねっ、」
ベルトがめり込む痛さ、圧迫感に、喉から短い唸りが出ていく。
「死ぬか死なないか、落ちるか落ちないかのそれが楽しいんだろ?あんた」
言葉が胸に刺さる。
「だから死ねねーんだよ、」
またキツく絞られ答える間もなく、側にあった広めの作業台へ投げ飛ばされた。
……まるで別人だ。
迫ってきた波瀬はぼんやりとしたように自身の股を眺め、まるで促している。
選択肢など実は用意されていないのに、選択肢を与えているような態度。
どうするのか、それ自体もすでに楽しんでいるのかもしれない。
こいつは、もしかすると真正のドSだ……。
心に攻め込まれた気がした。
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