天獄

二色燕𠀋

文字の大きさ
45 / 48
その後

1

しおりを挟む
「……あ、どうやら来るみたい」

 「飲んでる~」「ご飯大丈夫~」「ご飯食べにきたら~」という矢継ぎ早メールに「えー」「まぁじゃあわかった」と、意外な返信が簡素に来ていた。

 飲んでいたメンバーが揃いも揃って「え!?」「マジで!?」「うわ~楽しみ~」と沸く。

「ちょっと行ってくる」

 それだけ言い、一度真鍋を立たせ場を去るが、「やべぇな」だの「えどーする?」だのと騒ぐ黒田と半井はいつも通りだ。

 外に出れば少し温い風。よく、酔うと夜風が良いと言うけど、それを実感したことはいまのところない、酔っぱらっているからかもしれないけど。

 少しだけ返信をするとすぐ、飾り気のない国産車が少し先の車道に停まった。

 助手席から降りてきた新は「お疲れ多摩」と、腹に溜まりそうな声で言い、手を翳した。
 覗き込み、運転席の方へペコッと頭を下げると、彼はいつも通り普通に頭を下げ、車は去って行く。

 こうなって気付いたが、多摩はただどうやらシャイなだけなようだ。
 正直好かれてないのではないかと思ったが…いや、意外と止められたりしたのかなぁと見上げると、少しだけあのタレ目が鋭くなっていた。

 良い仕事じゃなかったのかなぁと感じたが、はっとしたように直した表情は普通に、“困惑”という感じだった。

「よぉ…」
「お疲れ様です~」
「あぁ、まぁ…」

 酒の勢いに任せましょ、と新の袖をちょいと引っ張り「すぐそこです」とビルを指す。

 「あぁえ、あぁ…」と困惑したままの新をエレベーターに乗せようとするが時間も時間、人通りが多いエレベーターは満員ではなかったが、ぱっと先に行ってしまった。

 …今日はネイビーシャツだしどっちかっていうと爽やか系なのにな…と頭に過る。ちなみにネクタイは絶対に灰色でないと怒られるらしい。

 ちん、と次のエレベーターは来たが、後ろで待っていた大学生集団に「どうぞどうぞ」と譲られる。

 二人きりでエレベーターに乗り込み「何階」と聞かれたので「3階」と答えた。露骨な大衆居酒屋だった。
 新がどんな反応をするのか、少し酒も入っているので気になったのはあった。魔が差したに若干近い。
 が、「へー、なんだかんだ初めて入るな民座」と、案外普通そうだった。

「そんな気がした」
「何があんの?」
「んー、なんでもある」
「そんな気がするわ…」

 3階につき席付近ですでに「波瀬くんかな」「マトリさんじゃね?」「いや女の子かもですよ~ハイシーのミヤコちゃんとか」と盛り上がるメンバーへ「はいはいお待たせ~」と、後ろから声を掛けた。

「あ、お帰」

 四者見つめ合った末、まず半井が「あっ!」と追い付いた。
 残り二人も「そっち!?」「……あ!あのヤ」と続く中、新が「その節はどうも」と低い声で軽く頭を下げる。

 真鍋が半井黒田の席へ移動し、空いた席に二人で座ると、三人はテーブルにまるで三つ指をつき「その節は!」と頭を下げた。

 新が明らかに半井を探しているので「半井はモヒカンになったよ」と伝え、メニューを渡した。

「…マジで!?」
「あはい~」
「うわ劇的アフターだわ…。君は特にその節もどうも」
「いえいえ~」
「なんでそうなったの」
「失恋しちゃいまして」

 残り三人で「そーだったの!?」となる。

 あとはテキトーに「そうだよ?」「え、だからって」とやり取りを始めてくれたので「何にする~」とこちらはこちらでやり取りをする。

 「あー山ハイあるんだそれでいいわ」とテーブルを見つめる新に「あ片付けよ片付けよ」とそれぞれ始まった。全部残り一個か一口の皿達。

 前にある刺身を食べようかという半井に「ダメ!それ俺食べる!」と制しておく。マグロは半井から醤油皿に逃げてきた。

「あ馬刺し食いたい、みんな食えんの?」

 「民座で食えないものは大体ないんで適当に頼んでもらって大丈夫ですよ」と黒田が言うのにいや、お前の鳥内臓系は大体俺に来てるけどねと思いつつ「刺し盛り食べたい」と新に伝えた。

「慧マジで刺身好きだもんな~」
「あ知らなかったわ、今度捌いてやるよ」

 間。

「あと串とか置いときゃあ、もつ煮は?ダメなヤツいそう」
「黒田以外は大丈夫」
「んーまぁいっか、テキトーにいいね?」

 はい、どうぞ!と皆声が揃い、新がテキトーに物を頼んでいった。
 何気に家では食べられなそうな物ばかりなのが「意外と貧乏性だよな」と思わされる。

 一通り頼み終わるとまず、真鍋が「いやビックリした…」と目を丸くする。

「そう来たかって感じだよね」
「つまりあれからなんっすか!?」
「んー」
「まぁ…」
「…恋人的なのは…最近…だよね?」

 ちょっと照れたのは束の間。三人揃って「あーね」となった。
 あ、これ凄く掘り返されそうだな。

「ここ数ヶ月マジで落ち着いたなと思ったら、ついにそこまで来たかっていう…」
「さとちゃん読めませんもんね…」
「確かにそう言えば全く気配がなかった…。
けど黒田には言う資格ないと思う、お前彼女出来たとか」
「いやお前のモヒカンもな。まぁ俺はそーゆーのしない派というか、慧これ結構マジなヤツだね?」
「あまぁ、はい…」

 頼んだ酒と新用のお通しが来て「はいかんぱーい」と全員でやったが、一口飲んで「これ兄弟のヤツっすか」と真鍋が直球ストレートで来た。

 「あ、」「あ!」と黒田と半井が真鍋を見る中「いやいやいやいや」と、新はジャケットを脱ぎ、無意識に背中をポリポリ掻く。

 それで三人黙った空気に苦笑しかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

処理中です...