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天獄
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いつでもがしゃんと割れそうなそれ。
それはきっと、ステレオグラムと同じ…目が覚める貧血の頭痛が、いつも怖くて仕方なかった。
ベッドの上で彼は慈しむように、震える手を取りキスをする。
そしてその手をすりすりと頬擦りしながら「海行きてぇ」と一言言った。
「……東京湾?」
「違うって。普通の海。真っ青で、何もないとこ」
そしてその、痕の付いた首筋を舐め、「全くバカ野郎」と言うのが少し、染みる。
喉仏に深いキスをする彼に「くすぐっ……染みる、痛い、」と笑って髪を撫でた。しっかりした髪。安心する。
「お前が悪いんじゃない?多分」
答えを言うつもりもないけれど、その息は熱く食べられ、そして深く、深くと息苦しくなった。
互いに呑み込むその言葉も。
少しだけ泣きそうになる。
何かを、愛したいと感じるときに。どうしてだろう。胸から、痙攣するこの痛みは、とくとくと流れてしまう。
それに江崎は頭を撫で、絡まってくる。それだけでいつも満たされ、なのに泣きそうだった自分が、不思議でしょうがなかった。
「…会わなきゃよかったんだね、きっと」
ここは深い深い白。
手も足も震えそうなその広大な何かは、いつでも自分を見下ろしている。
触れる唇はいつだって優しい。
どこだって痺れるように、喉から自然と僅かに声が出る。
あぁ、とても甘い。全て食べられてしまいそうな。くいっと身体が捩れるそれに、彼はゆったりと「気持ちいい?」と聞く。
「うん……」
溶けそう。
身体がゆったり溶かされていく。
いつかこのままなくなってしまうんじゃないかと、少し引き攣った声が出る。
はぁ…、あぁ、溢れて行く、このキラキラが。
とっても綺麗なんだと、温い刺激も食べ尽くす彼の髪をくしゃっと撫でた。
見上げる彼はいたずらっ子のような顔で、すうっと息を吸うように。熱い、貴方の中を感じる、堪らない。死んでしまいそうだけど、もっともっと、殺して欲しい。
あと一歩、そう思った瞬間に彼は、側に戻ってきて口を溶かす。
底のない、溺れる先の場所。
「新さんは…?」
くっと入り込んできた彼に、どうしようもなくなる、くしゃくしゃと髪を撫でもっと、もっと深くと眉を潜めた。
「ん?」
「…気持ちい…?」
ぎゅっと、一気に苦しくなったそれに、暖かい、あぁ、熱いなと、ふと死になくなるこの感情は、ただただ迫り、すぐ側にあって。
「…好きだなぁ、」
初めから、どこでもなかったのかもしれない。何も自由でなくて、息もしにくいこの場所は。
あとで考えても多分、何も出てこないから。
見下ろす彼の目にある小さな黒子。
切れ長いタレ目。すぐ側にある。
はぁ、と一息吐いて心が痺れた。
麻痺したそれをゆっくりと、解すようなこの痛みが、溺れそうになる、誰かはそれを快楽と呼ぶのかもしれない。
貴方はいつでも、ここに生きていると言ってくれる人。
ここまで来れたなら、それでいいや。
それは、酷く寂しい。でも暖かくて、優しい時間。
背筋が痺れる。
あぁ、今日もまた生命の意味を殺したと、側に降ってきた彼がふと口を開けたので、溺れそうなほど、深く口付けた。
希死念慮について、考えてみるが…。
ぷはっと口を離した江崎が「…言わせろ、」と小突いてくる。
「んー」
「あえ」と言うのを食べてしまう。全部欲しい、染み込むほどに。
「っはぁ!」と離し、「あえ」と言うのをまた食べちゃう。いつも呑み込んで、抱え込んで、言わないのが悪い。
「このやろ!」とぐしゃぐしゃ、と一度頭を抱え、額にキスをして「会えて」まで言ったのをまた食べてやれば、良い加減びしっとデコピンをされ「言わせてくれよ、」と頬までキスをしてくるのに「んー…」と言えば、ついでに喉仏をずりずりと触られた。
「怒ってんの?」
顔を両手で掴んだ彼はそれでもニコニコしているので「何?」と聞いてやることにした。
「会えてよかったよって、」
甘やかすように、それからしっとりとキスをしてくるのに、ついつい伏せ目になればやり返しか、二口、そして痕の付いた喉まで落ちるのに「染みる…!」とどちらともなく笑い合い、またしっとりと汗をかいた。
とても、大切な人。
流れ着いた先、ここにいたい、ここでずっと、もっとずっと、側にいたいと───
「………ところで重要なこと聞きたいんだけど?慧さん」
「はい?」
「君、お家はどうしたんだい?」
……どこか行きそうになっていたけど。
でもまぁ、と、取り敢えずにこっと笑った慧はペロッと一口息を、飲み干してやる。
「さあ?」
けして美しくもなく歪で、どこにも行き着かない。ここまで来たよと手を振り返す。
いつだって頭の中で、波の音がする。耳鳴りのようなその先はと、暗いその目に考えた。
それはきっと、ステレオグラムと同じ…目が覚める貧血の頭痛が、いつも怖くて仕方なかった。
ベッドの上で彼は慈しむように、震える手を取りキスをする。
そしてその手をすりすりと頬擦りしながら「海行きてぇ」と一言言った。
「……東京湾?」
「違うって。普通の海。真っ青で、何もないとこ」
そしてその、痕の付いた首筋を舐め、「全くバカ野郎」と言うのが少し、染みる。
喉仏に深いキスをする彼に「くすぐっ……染みる、痛い、」と笑って髪を撫でた。しっかりした髪。安心する。
「お前が悪いんじゃない?多分」
答えを言うつもりもないけれど、その息は熱く食べられ、そして深く、深くと息苦しくなった。
互いに呑み込むその言葉も。
少しだけ泣きそうになる。
何かを、愛したいと感じるときに。どうしてだろう。胸から、痙攣するこの痛みは、とくとくと流れてしまう。
それに江崎は頭を撫で、絡まってくる。それだけでいつも満たされ、なのに泣きそうだった自分が、不思議でしょうがなかった。
「…会わなきゃよかったんだね、きっと」
ここは深い深い白。
手も足も震えそうなその広大な何かは、いつでも自分を見下ろしている。
触れる唇はいつだって優しい。
どこだって痺れるように、喉から自然と僅かに声が出る。
あぁ、とても甘い。全て食べられてしまいそうな。くいっと身体が捩れるそれに、彼はゆったりと「気持ちいい?」と聞く。
「うん……」
溶けそう。
身体がゆったり溶かされていく。
いつかこのままなくなってしまうんじゃないかと、少し引き攣った声が出る。
はぁ…、あぁ、溢れて行く、このキラキラが。
とっても綺麗なんだと、温い刺激も食べ尽くす彼の髪をくしゃっと撫でた。
見上げる彼はいたずらっ子のような顔で、すうっと息を吸うように。熱い、貴方の中を感じる、堪らない。死んでしまいそうだけど、もっともっと、殺して欲しい。
あと一歩、そう思った瞬間に彼は、側に戻ってきて口を溶かす。
底のない、溺れる先の場所。
「新さんは…?」
くっと入り込んできた彼に、どうしようもなくなる、くしゃくしゃと髪を撫でもっと、もっと深くと眉を潜めた。
「ん?」
「…気持ちい…?」
ぎゅっと、一気に苦しくなったそれに、暖かい、あぁ、熱いなと、ふと死になくなるこの感情は、ただただ迫り、すぐ側にあって。
「…好きだなぁ、」
初めから、どこでもなかったのかもしれない。何も自由でなくて、息もしにくいこの場所は。
あとで考えても多分、何も出てこないから。
見下ろす彼の目にある小さな黒子。
切れ長いタレ目。すぐ側にある。
はぁ、と一息吐いて心が痺れた。
麻痺したそれをゆっくりと、解すようなこの痛みが、溺れそうになる、誰かはそれを快楽と呼ぶのかもしれない。
貴方はいつでも、ここに生きていると言ってくれる人。
ここまで来れたなら、それでいいや。
それは、酷く寂しい。でも暖かくて、優しい時間。
背筋が痺れる。
あぁ、今日もまた生命の意味を殺したと、側に降ってきた彼がふと口を開けたので、溺れそうなほど、深く口付けた。
希死念慮について、考えてみるが…。
ぷはっと口を離した江崎が「…言わせろ、」と小突いてくる。
「んー」
「あえ」と言うのを食べてしまう。全部欲しい、染み込むほどに。
「っはぁ!」と離し、「あえ」と言うのをまた食べちゃう。いつも呑み込んで、抱え込んで、言わないのが悪い。
「このやろ!」とぐしゃぐしゃ、と一度頭を抱え、額にキスをして「会えて」まで言ったのをまた食べてやれば、良い加減びしっとデコピンをされ「言わせてくれよ、」と頬までキスをしてくるのに「んー…」と言えば、ついでに喉仏をずりずりと触られた。
「怒ってんの?」
顔を両手で掴んだ彼はそれでもニコニコしているので「何?」と聞いてやることにした。
「会えてよかったよって、」
甘やかすように、それからしっとりとキスをしてくるのに、ついつい伏せ目になればやり返しか、二口、そして痕の付いた喉まで落ちるのに「染みる…!」とどちらともなく笑い合い、またしっとりと汗をかいた。
とても、大切な人。
流れ着いた先、ここにいたい、ここでずっと、もっとずっと、側にいたいと───
「………ところで重要なこと聞きたいんだけど?慧さん」
「はい?」
「君、お家はどうしたんだい?」
……どこか行きそうになっていたけど。
でもまぁ、と、取り敢えずにこっと笑った慧はペロッと一口息を、飲み干してやる。
「さあ?」
けして美しくもなく歪で、どこにも行き着かない。ここまで来たよと手を振り返す。
いつだって頭の中で、波の音がする。耳鳴りのようなその先はと、暗いその目に考えた。
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