天獄

二色燕𠀋

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その後

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  色々な話を思った以上にしたところで解散し、案の定慧をおぶっているが「そういやアラタの兄貴」と半井は言った。

「ん?」
「波瀬くん知ってるんすよね」

 おぶられながら「新さんえっちしたーい!」とTPOがガバガバでテンション高めな慧の要望をBGMに「まぁ」と答える。
 慧には一度、後頭部で頭突きをしておいた。

「…もしかしてあっさりなんもなく出て来たのって」
「いやぁ実際出て来れたんじゃ普通に悪いことしてないんじゃない?俺悪い人だし」
「そうなんすね…」

 なんとなくメンバーの背を見送り、テキトーにタクシーを捕まえた。
 ふにゃふにゃしている慧を見て、これじゃ確かに大変だわなと、メンバーを同情する。

 可哀想にモヒカンと黒田。本当にバカだなと「くぉら慧」と一発デコピンをすると「痛っ!」と返ってくるので喉をすりすりした。

 でも、いいなぁ第二次青春。バカな方が楽しそうだなと思えば、膝に頭を乗せた慧が「ふふふふ」と笑った。

「なんだなんだ」
「いーヤツでしょ」
「そーだな、可哀想だわマジで…」
「そーなの…ホントに迷惑掛けちゃって…」
「開き直るなや!野郎なんだからしっかりしろバカ!」

 色々考える。それを察することが容易だからこそ「ま、いいもんなんだな…」なんて、言ってみたりする。

「俺にはなかったからな」

 互いにきっと複雑だ。
 「ふふ、」と慧が笑うのみなのも互いに了承なのだ。

 喉仏をすりすりするのも「気持ちい」と寝てしまいそう。なんとなくこの、女にはないコリコリした、でも自分より小さい出っ張りが妙に癖になり、好き。

「…紹介してくれてありがと」
「…ん?」
「なんか、色々わかったというか、まさかそうされると思ってなくてあまり対応もよくなかったから、あとでよう言っといて」
「…んー」

 それはなんだかこそばゆい。
 しかし自然と笑い合える、これがもしかすると、幸福ホルモンというやつかもしれない。

 家の前で、きっと酔いもさっきよりかは覚めているのだが、敢えておぶって帰ると「新さんえっちしたい」とまた始まってしまう。

「そんなんだからお前はダメなんだよ?」
「でももういいじゃないですか?」
「んー俺もなんか疲れてたしお前も寝るだろうからじゃあ風呂一緒に入りましょ。朝起きてたらね」

 付き合いましょ、となってから慧はよく、そう言うようになった。そこは少し…ほっとするような。

 多分第二次青春の感覚としては「いまめっちゃ付き合いたてでラブラブなの~!」なんだろうから多分これくらいでないと長持ちしない。

 なんとなくそんな気が勝手にしているし、慧もそれをわかっていて敢えて言っている節がある。

 実際それほど互いに…まぁ男なのだから嫌いではない行為だが、そこまでガツガツしていない。
 慧はぶっちゃけ性欲薄めな現代っ子だし、自分もそれなりに落ち着き始めている。部下や上司には「落ち着く前に、落ち着きましょう」と最近言われるくらいには。

 だからこそ多分、相性は悪くないが。

 しかし結構とんでもない話を聞いたし言ったな。どのみち一回互いに眠るのが丁度良い。

 ……と、思っていたのに。

 翌朝新は違和感で起きた。
 歳甲斐もなく朝勃…なんと、慧が潜り込み普通に咥えていたのだ。

「えっ、」

 すう、と一度吸い「おはようございます」とニコニコしながら髪を耳に掛け抱きついてくるので「え、はい」と、慧の背を支えながら…硬直してしまった。

 慧はいつも、なんとなく咥えた後は自分からキスをしてこないけど、おはようキッスは付き合う前から日課ではあった。

 勿論、慧は狙ったのだ。

 仕方ねぇなとキスをすれば、朝にしては大分血圧高めの深いキスをし合う。

 喉をすりすりする。
 「ふふ、」と笑う振動まで、まるで脳にまで響きそうで、はむっと少しやってしまう。
 慧も何となく、目尻あたりにあるらしい、黒子に唇で触れてくる。

 その間にしごくのも忘れない。

 珍しくて戸惑ったが、慧は満足そう、キスをし終わればまるで「はい、次」と言わんばかりにまた潜り込むのだから「待て待て待て待て」と一回、慧の額をぐっと押さえつけた。

「起きてるじゃないですか、どっちも」
「起こしたんだろどっちも!」
「じゃ、」
「待て待てえ?そうくる?」
「昨日えっちしたいって散々言った」

 なんなら慧は「えっちしたひ…」と言いながら寝落ちした。
 バカなのかこいつはと「お前な、」と制するが全く構わない慧に「おぉふ…」と変な声が出た。

「なんでそんなことは覚えてんだよ貴様、」
「えーしたくないんですか?」
「これ見てしたくないわけないけど一回倫理について考えろ、」
「ごちゃごちゃと~」

 あっさり自分で脱ぎ、自分でローションをしているがわぁ、なんだか汗でわかった、こいつバッチリ風呂まで入りやがった…と、そこまでされれば新の性格上相手のなんかそういうのを蔑ろにするのは躊躇われる…。

 と、慧はわかっている。

 これたまにはいいな、襲ってる感なのに同意、と、ぶっちゃけ待ったしあんまもう無理!と慧はゆっくり腰を下ろした。

 「くっそマジかっ…!」と抗えない新に「28時間ぶり」と、出演者拷問平和テレビかよと思いつつ、珍しく互いにあっさり終わったが、いつも通りそこからが長かった。慧はどうやら後戯が好きなのだ。

「…いやスパン短っ、」
「でも昨日飲んじゃったから」
「意味わかんないし」
「鼻血出ちゃうなって。血流良いと。家くも膜下家系なので」

 …年上には大体健康の話をすれば効くというたちの悪い処世術を使いやがる。

 案外強かだというのも、付き合ってから知った。

 いつも捨てられた猫みたいだったくせに。いや、捨てられた猫ほど捨てられないものもないのだ、確かに。
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