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当のライブ当日、ゲネリハ前。
メンバーと待ち合わせをすると、速攻で半井が肩を組み「ちょーっとカラオケ行こうぜ」と、ライブハウスとは逆方面に向かい始めてしまった。
「何、どうしたの、」
「いいか、今日のゲネリハはホンットーに位置と照明以外カラオケにいるからな、帰りもすぐ帰るよ~」
「…どうしたっていうの」
後ろから着いてきた黒田が「疑い度MAXの人が出てきちゃったんだよ」と言った。
「…疑い度MAX?」
「…ジョニーヘルのシルバさん」
…誠一もその名前を口にしたな。
「…シルバさんがどうしたの」
「…まだわかんないけど、さとちゃんのことを心配してくれたヤツの先の先にいた。俺たちはその人のことを懸念してたんだよ」
「…確かに良い噂聞かないけど…」
はっと半井は肩を掴んで止まり「わかんないけど、」と俯く。
「あの人がどうか、俺達は近寄れないでしょ。でも良い噂は聞かない、いまの状況はそういう人と絶対になんか、ない方がいい。俺の予感だ」
「…うん。まぁ、半井が言うなら」
「まぁ、良い噂聞かないって言っても酒癖が悪」
場の空気を少し解そうとした口調の黒田がピタッと、言い留まった。
はっと見ると当のシルバと、あの髭と筋肉が駅方面から歩いてきたようだ。
「あぁ、ラッキーちゃん達じゃん」とシルバが笑った。
シルバはアー写でしか見たことがない。
ちょっとチリチリ頭で毛先だけ金髪。なんとなく痛んだ格好をした人。
本当にそのままだった。
……目に、光がないと思った。
そして、筋肉の頬に付いた派手な傷にも目がいった。
何も根拠はないが慧の直感が告げた、確かにこの人、どの道あまり良くなさそう。
彼はにかっと、まるで人好きそうな笑みを浮かべ「俺、今日ポリシーのサポに入ったの」と言った。
「JOHNNY-HELLのsilvester。よろしく。初めて会うよね、ラッキーちゃん達」
そう言われてしまうと「初めまして」と返すしかない。
シルバはころっと悲しそうな表情をし、「痛ましい事件だったよね」と言った。
メンバーが強張る。
今日の対バンだ、丹後の事をこちらが知っているのは不自然ではない、むしろ当然。
しかし、「だったよね」。だったね、ではなく。
この話し方は慧を意識しているようにも思えるのは考えすぎか…メンバーは慧よりも情報を仕入れているし反応を宛にするのは尚早。
シルバはまたすぐに表情をニコニコに戻した。
この違和感は間違いじゃないかもしれない、と…これも直感の域でしかない。
「…まぁ、今日は丹後の追悼も込めて楽しくやろうと思う。君たち、学校の後輩なんだってね」
ふっと、彼は笑顔のまま半井を見て「キリスト教なんだね?」と聞いた。
多分、首に下げたネックレスだ。
「…はい、」
「あぁそう、いいねぇ。でも世代じゃないか。
ところで、どっか行くの?」
黒田がふと半井の肩を叩き「ちょっとセトリを考えようかなって」とシルバに言う。
なんとなく、より空気が張ったような。
「楽屋は…下っ端がいると邪魔ですし」
「あそう?」
まるで緊張感が走り、両者がすれ違う。
ほっとしたタイミングで「そう言えばさ」とシルバが言い、またぐっと息を飲んだ。
「ライブ後、丹後の追悼会をやりたいんだ。
君たち、参加してくれるよね?」
しかし、こちらの同意不同意は関係ないらしい、「またね」と、ポリシーはライブハウスに向かっていく。
3人が見えなくなったところで「なんなの…」と肩を落とした半井に真鍋が「完全なる牽制でしたね」と言った。
「…真鍋、言わなくても」
「いや、でも逆にその飲み、参加しなくて済みませんか?半井さんがいないなら」
「…ん?俺行っちゃ」
「浅井健一です。ユダというバンドで出している曲から多分、ジョニーヘルもシルヴェスタもきてる」
「あーもう真鍋、空気を」
「いや、でもマトリさんも言ったでしょ。冗談じゃないですよあの人」
「……うっわぁ、」
なるほど。
理解し項垂れた半井は「ゲロ吐きそう…」と言った。
「…そこでくんの?陰湿すぎねぇ?なんなのあの人。別になんともねぇよ俺は……」
…精神的に半井が揺さぶられたらしい。
そこまであっちが知っているとは思えないが、半井は飲み会で慧の苛めを制御してくれている。そんなのがこうされては…と動揺、やりきれない雰囲気が漂った。
なら確かに…と慧は「半井、ごめん大丈夫だよ」と半井を軽く抱き締める。
「…少し、頭来たかも」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「…俺が悪いよ。いいよみんな気にしなくて。無理だと思うけど。
例えば杞憂だったとしてもあの人いま半井をバカにしたんでしょ?それだけで」
「…慧わかってんの!?あれ、揺さぶりでしょ」
「だから考えすぎかもしれないと思うけどみんなそう言ってるんでしょ、いま。
でも単純な話、目の前でああ言うのはどうかと思うんだけど」
「…待って、落ち着いてさとちゃん」
「落ち着ける訳ねぇだろ、あー最近の鬱憤が爆発した。なんなんだ外野はみんなして。蝿か、蝿取り紙買ってこよ。んの野郎大して売れてねぇくせに調子込みやがって」
「えっ」
「えっ」
「蝿取り紙って…何?」
「…待て待て慧、俺のことより」
「知るか。ぶっ殺」
「わーかった、わーかった慧。ごめんこっちも疑心暗鬼がすぎた、確かにいちゃもんだ、ごめん。落ち着きたいしそこの喫茶店入らない?今はまずステージ考えよ?な?」
そう言いつつ黒田はスマホを少し弄り「はいはいクーポン!見てケーキ!慧にあげるから~」と弱気になった。
…たまにある、ステージ前の滾りか何か。あまりに事がデカすぎて麻痺していた。
メンバー総意で喫茶店に入り、まずは温かいコーヒーをふうふうした。
メンバーと待ち合わせをすると、速攻で半井が肩を組み「ちょーっとカラオケ行こうぜ」と、ライブハウスとは逆方面に向かい始めてしまった。
「何、どうしたの、」
「いいか、今日のゲネリハはホンットーに位置と照明以外カラオケにいるからな、帰りもすぐ帰るよ~」
「…どうしたっていうの」
後ろから着いてきた黒田が「疑い度MAXの人が出てきちゃったんだよ」と言った。
「…疑い度MAX?」
「…ジョニーヘルのシルバさん」
…誠一もその名前を口にしたな。
「…シルバさんがどうしたの」
「…まだわかんないけど、さとちゃんのことを心配してくれたヤツの先の先にいた。俺たちはその人のことを懸念してたんだよ」
「…確かに良い噂聞かないけど…」
はっと半井は肩を掴んで止まり「わかんないけど、」と俯く。
「あの人がどうか、俺達は近寄れないでしょ。でも良い噂は聞かない、いまの状況はそういう人と絶対になんか、ない方がいい。俺の予感だ」
「…うん。まぁ、半井が言うなら」
「まぁ、良い噂聞かないって言っても酒癖が悪」
場の空気を少し解そうとした口調の黒田がピタッと、言い留まった。
はっと見ると当のシルバと、あの髭と筋肉が駅方面から歩いてきたようだ。
「あぁ、ラッキーちゃん達じゃん」とシルバが笑った。
シルバはアー写でしか見たことがない。
ちょっとチリチリ頭で毛先だけ金髪。なんとなく痛んだ格好をした人。
本当にそのままだった。
……目に、光がないと思った。
そして、筋肉の頬に付いた派手な傷にも目がいった。
何も根拠はないが慧の直感が告げた、確かにこの人、どの道あまり良くなさそう。
彼はにかっと、まるで人好きそうな笑みを浮かべ「俺、今日ポリシーのサポに入ったの」と言った。
「JOHNNY-HELLのsilvester。よろしく。初めて会うよね、ラッキーちゃん達」
そう言われてしまうと「初めまして」と返すしかない。
シルバはころっと悲しそうな表情をし、「痛ましい事件だったよね」と言った。
メンバーが強張る。
今日の対バンだ、丹後の事をこちらが知っているのは不自然ではない、むしろ当然。
しかし、「だったよね」。だったね、ではなく。
この話し方は慧を意識しているようにも思えるのは考えすぎか…メンバーは慧よりも情報を仕入れているし反応を宛にするのは尚早。
シルバはまたすぐに表情をニコニコに戻した。
この違和感は間違いじゃないかもしれない、と…これも直感の域でしかない。
「…まぁ、今日は丹後の追悼も込めて楽しくやろうと思う。君たち、学校の後輩なんだってね」
ふっと、彼は笑顔のまま半井を見て「キリスト教なんだね?」と聞いた。
多分、首に下げたネックレスだ。
「…はい、」
「あぁそう、いいねぇ。でも世代じゃないか。
ところで、どっか行くの?」
黒田がふと半井の肩を叩き「ちょっとセトリを考えようかなって」とシルバに言う。
なんとなく、より空気が張ったような。
「楽屋は…下っ端がいると邪魔ですし」
「あそう?」
まるで緊張感が走り、両者がすれ違う。
ほっとしたタイミングで「そう言えばさ」とシルバが言い、またぐっと息を飲んだ。
「ライブ後、丹後の追悼会をやりたいんだ。
君たち、参加してくれるよね?」
しかし、こちらの同意不同意は関係ないらしい、「またね」と、ポリシーはライブハウスに向かっていく。
3人が見えなくなったところで「なんなの…」と肩を落とした半井に真鍋が「完全なる牽制でしたね」と言った。
「…真鍋、言わなくても」
「いや、でも逆にその飲み、参加しなくて済みませんか?半井さんがいないなら」
「…ん?俺行っちゃ」
「浅井健一です。ユダというバンドで出している曲から多分、ジョニーヘルもシルヴェスタもきてる」
「あーもう真鍋、空気を」
「いや、でもマトリさんも言ったでしょ。冗談じゃないですよあの人」
「……うっわぁ、」
なるほど。
理解し項垂れた半井は「ゲロ吐きそう…」と言った。
「…そこでくんの?陰湿すぎねぇ?なんなのあの人。別になんともねぇよ俺は……」
…精神的に半井が揺さぶられたらしい。
そこまであっちが知っているとは思えないが、半井は飲み会で慧の苛めを制御してくれている。そんなのがこうされては…と動揺、やりきれない雰囲気が漂った。
なら確かに…と慧は「半井、ごめん大丈夫だよ」と半井を軽く抱き締める。
「…少し、頭来たかも」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「…俺が悪いよ。いいよみんな気にしなくて。無理だと思うけど。
例えば杞憂だったとしてもあの人いま半井をバカにしたんでしょ?それだけで」
「…慧わかってんの!?あれ、揺さぶりでしょ」
「だから考えすぎかもしれないと思うけどみんなそう言ってるんでしょ、いま。
でも単純な話、目の前でああ言うのはどうかと思うんだけど」
「…待って、落ち着いてさとちゃん」
「落ち着ける訳ねぇだろ、あー最近の鬱憤が爆発した。なんなんだ外野はみんなして。蝿か、蝿取り紙買ってこよ。んの野郎大して売れてねぇくせに調子込みやがって」
「えっ」
「えっ」
「蝿取り紙って…何?」
「…待て待て慧、俺のことより」
「知るか。ぶっ殺」
「わーかった、わーかった慧。ごめんこっちも疑心暗鬼がすぎた、確かにいちゃもんだ、ごめん。落ち着きたいしそこの喫茶店入らない?今はまずステージ考えよ?な?」
そう言いつつ黒田はスマホを少し弄り「はいはいクーポン!見てケーキ!慧にあげるから~」と弱気になった。
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