Trance & R-ZE

二色燕𠀋

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 まさか、帰って来てベッドも血塗れ、風呂場にいるとも思わなかったらしい。
 血を水に晒してみようとして状況はわかった、結束バンドは腕に少し食い込んだ程度だった。

 帰って来たシルバに「何やってんの」とあれを嗅がされ、生きた気分に戻される。

 感覚はわからないが多分、「死ぬ気にもならないようにしてやるよ」と、プラスチックの匂いは増した気がする。

 離脱症状なのか作用の喧嘩なのか元からなのか酩酊感もあるし、力がより入らなくなった。

 水が出しっぱ、つまり水道は通っていたし、一日一回は浴槽に湯を溜め一緒に入って捨てていた。確かに、血行促進だ。

 何日目かは、わからない。
 何度かシルバは外に出て行ったし、朝のニュースもやっていた。

 シルバがいないときは、あの匂いがしない、その瞬間、異常なほどの虚無と頭痛に襲われる。多分、それほど持続性のない薬の離脱症状だ。

 そして昨日、シルバは言った「思ったより早かったな」と。

「なんでだろうな、仲間にもちゃんと伝えてるのにな?愛されてんね、お前」
「シルバさんは?」

 少し黙った後に「さぁな」と言った。

「なぁさとちゃんよ、お前の恋人って何してる人?」

 そして今日は、外に出ていない。
 そろそろかもしれないなと思ったが、限界はとっくに越えている。

 そうなると少し、丹後が羨ましかった。
 自分もセックス大好きだったらな、テクノブレイクだなんてと、それも受け入れてきて「シルバさん」と声を掛ける。

 声を掛けるだけで「なんだよ」と乗っかって触れてくる。確かに良い加減何もかもが快感になっていた。

 あれから何回?それどころじゃない。ずっと眠れていないから。興奮剤的なものかもしれない。
 注射も何回かされたが、気分によって水は口移しされる。

 動かないで死ねる方法と言えば舌を噛むしかないのかもなと、状況に慣れ頭がまわらないことにも慣れてきていた。

 ひたすら真っ直ぐに希死念慮か快楽かの二択。

「あーあ、舌から血ぃ出てるよ」

 そうしてキスをされるのも痛くなってしまった。酷く血が出る。もう快楽の先の逃げ場を失くしたようだ。

「さとちゃんさぁ」
「……あぃ、」
「彼氏にはなんて呼ばれてんの?」

 ふと、我に返った。

 シルバはたまに、例えば半井の名前を出したり黒田の名前を出したり、自分が死にそうになるとこうして現実に引き戻してくる。

 たちが悪い。
 …まるで、大切な人の名を、思い浮かべるような。

「…かれし?」
「忘れちゃった?」
「…いない」
「好きな人とか」
「わかんない」
「あっそう、なんて呼ばれてんの?」

 そして言う、「今日は彼氏プレイしようよ」と。

「かれし、プレイ」
「そ。一番気持ちいい」
「あのね、」

 笑える。

「一番気持ちいの、ここまで」

 お前には無理だけどね。

 腹に触れると「へぇ」とつまらなそうにシルバは言った。
 ただ、情緒不安定なのはどちらも変わらない、あっちもあっちで苦しそうなようにも見える瞬間が…ある。

 それくらいは冷静だった。

「流石、クソド淫乱だね」
「ふふ、ははは」
「楽しい?」
「たのしい。
 ねぇ、寂しーんでしょ?」
「……可愛いねお前、バカみたい」

 相手が背中に手を回し「彼氏どんなプレイすんの」と、がつっと入れてくる。
 「んぁぁ、」と、相手が喜びそうに喘ぐ自分、あぁ死にそう、殺してくれれば…互いに死んじゃえば良いのにね。

「んもっと、声低い」
「…あっそ」
「ねぇ、彼氏プレイなら…」
「ん?」
「早く殺せよ、クソ野郎」

 「元気だなぁ」と言うシルバははっと自分を離し、次には背面座位で持ち上げる。そして布を嗅がせながら「殺してなんてやらねぇよ」と楽しそうに囁いた。

「…んあぁっ、あっ…、だ、め…それ神父が」
「良い声だよねぇ。死にたいなら彼氏の名前呼んでみ?殺したくなるかもしんない」
「…えざきさん」
「江崎さん。なんて呼ぶの?」
「さとい」

 耳元で「慧」と呼ばれた。確かに、妄想でもしとこ、と思えば「あぁっ……」と、結構早めにイッた。

「若いねぇ、いいなぁ、まだだね」
「ん…まだ、」
「元気だなぁ」
「もっと奥、シルバさん」
「…殺してやりたくなるな、確かに」
「どうして、…こんなこと、してるの?」

 後ろ手に取られガツガツ突かれるが「ちがう」としか出てこない。

「ちがう、こんなじゃない、」
「でもよさそうだけど」
「ちがう、違う、もうやめて、殺して、お願いもう」
「は~いお薬~」

 また吸わされてぐっと背が伸びる。でも、まだ違う。現実と妄想のギャップが酷い。
 もう頭の血管もう全部切れてる気がするよと、「しぬ」と口から出た。

「死ぬほどいい?」
「…もう……無理、」
「慧」

 あぁ助けて。
 もう本当にダメだ。何もかも狂ってる。もう多分、自分じゃない。

「…たすけて、っぁ、たすけて、お、お願い、も…ムリ、たすけて、殺して、あぁっ、死にたい、ああっ、」

 …誰に言ってんだよ全く。

 顔を歪め「死ねばぁ?」と、シルバが言う。何回目だろ、そう言われたの。

「ぅっ…はぁ、っう…っ、」

 嗚咽が漏れていく。
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