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降りそそぐ灰色に
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それらの用事を終えたのは夕方くらいだった。
正座し、たまにひっそりと足の痺れをどうにかしようとしながらおばさんの背中を静かに見ているだけの学に、少しだけ心配は過ったが。
漸くスマホを眺め、ハッとした。
16:14。10分ほど前から何件か着信が入っている。
すっかり吹っ飛んでいた。バイト先には数日分、欠席の連絡を入れたのだけど。
今日はスタ練だった。
おばさんのことも学のことも目に入りはしたが、「では、すみません…」と声を掛ける。
おばさんは頭を下げたのか震えているのかはわからなかったが、多分了承したのだと思う。
学が正座したまま、あたしを見上げた。
不安とか、そんなのは感じたし何を言えばいいかと思ったが「おばさんを」と、思いもしてない単語を吐き、あたしは美智佳の実家を出た。
最後ちらっと、学がおばさんの側で背を撫でたり、していたようにも見えた気がする。
あたしは急いで電話を掛け直し、自宅へ戻りギターを持ってスタジオに向かった。
結果、片付けには間に合った。
「茜、」
逆に迷惑だなという視線をメンバーから感じ、「ごめん」と謝る。
「あーあーまぁ、ダチが死んじまったんだってさぁ」
ボーカルの金髪トシロウが、非常に面倒臭そうに言った。
「あーダチか、んなら仕方ねぇよな」
シャツに汗を湿らせたシンジが、そう肯定的に言いながらドラムセットを片付ける。
「友達?どっかの人?聞いてないけど」
みよ子が自分のベースをしまいながら興味もなさそうに言う。
仕方はないけど、誰一人こちらを見てもいない。
「違う。近所の幼馴染みだった子。
突然でさ。ごめん、なんか手伝うことある?」
「幼馴染みぃ?ナニソレぇ」
「そんなのいたんだ、ウケんね」
「おらお前らやめろよそうやって。
悪ぃな茜。ちっとこの台いいか?あと3分しかねぇんだ」
「てめぇらも終わったなら手伝ってくれよ」とシンジが言うのに、多分、あたしを結構待ってくれてこうなったのかなと捉えることにした。
「あーいや俺は先に会計してくるねん」
「男だろぉ、お前」
「ハイハイいーからさっさとやんないとね。ほら、早くして茜も」
みよ子と共にシンジを手伝い、なんとか全てを返却し、終わってしまった。
まぁ、そう。エレキギターなんていなくても、ベースとドラムさえいればなんとなかならなくもないのだ。
「あ…そうだ、今日撮ったのとかある?」
「あーはいはいっと。いま送るわ。俺様の声けっこー調子良いから合わして」
トシロウからその場で動画ファイルが送られてくる。後で聴いておかないと。
問題はこいつのナルシストさのせいで、声強め録音がされていないといいんだけど。
察知したのか「あ、俺もあるぞ」とシンジがわざわざ、グループチャットにファイルを上げてくれた。こっちの方がいいのかもしれない。
トシロウのもトシロウので、確かにギターとしては助かるが。
「今日は結構よかったよねー。最近マジなんか不調って感じだったじゃん?ウチら」
「まぁなぁ…」
「そう?俺はいつでも美声だぜ?」
「そーゆーの気付かないからこっちが大変なんだっつーの。リズム隊なんだと思ってんの。今日も音ズレてっかんねトシロウ」
「あ?なんだこのクソアマっ!そんなんこいつがいないからだろうがっ!」
「まぁごめんってば。どっちも聴いて考えるよ」
不機嫌になって先に駅へ向かうトシロウの背に「最近着いていけないんだよね」とみよ子が呟いた。
「あんたいないとマジあいつ下手だって思ったし」
…まぁ確かになんとなくこっちも、声で音を変えたりはしてるけど。
でも、ライブでは互いが無我夢中でそんな余裕もない。
「ついにバックレてどっか行っちゃったかと思った。あんたならあいつの横じゃなくても出来んじゃん?あたしあいつと別れよっかな」
「そんなんないよ」
これでも必死だ。
大体、過去にライブで音がトシロウに合わなくて、それがベースやドラムにも伝染して大惨事になったことがある。
その後勝手にトシロウが楽屋に引っ込み、前座が3曲で終了したという経緯があるからいまのスタイルにしているのだ。
こんな勝手なバカ野郎と思ったら、トシロウは楽屋の隅でかなり落ち込んでおり、それから「全く」とみよ子は付き合い始めた。
多分、それがよくなかったとも、言えなくはない。
それから全員でトシロウを甘やかしているのだから、これは連帯責任と言えるだろう。
「まぁまぁ。お前は今日はアレのご機嫌取りしてくれや。アレはお前がいればなんとかなんだろ。
そんなことより茜、お前今日は大丈夫なんか?」
「ん?あぁまぁ。なんか、実感ない感じってゆーか…」
美智佳の死を素直に悼んでやる、にしては、心配な面がありすぎてそれどころではないのも事実だ。
パッツン前髪のみよ子がどうも、あたしをじろっと見、次にシンジを見ては「あーあーはいはい」と少し先へ小走りする。
「あっそ、じゃああたしはもう帰ります~だ。バーカ!」
「え、」
よくわからないまま嵐のように、みよ子は駅へ走って行く。
「あー…えっと…」
シンジと二人になってしまった。
……あぁ、これは凄く厄介だな。
正座し、たまにひっそりと足の痺れをどうにかしようとしながらおばさんの背中を静かに見ているだけの学に、少しだけ心配は過ったが。
漸くスマホを眺め、ハッとした。
16:14。10分ほど前から何件か着信が入っている。
すっかり吹っ飛んでいた。バイト先には数日分、欠席の連絡を入れたのだけど。
今日はスタ練だった。
おばさんのことも学のことも目に入りはしたが、「では、すみません…」と声を掛ける。
おばさんは頭を下げたのか震えているのかはわからなかったが、多分了承したのだと思う。
学が正座したまま、あたしを見上げた。
不安とか、そんなのは感じたし何を言えばいいかと思ったが「おばさんを」と、思いもしてない単語を吐き、あたしは美智佳の実家を出た。
最後ちらっと、学がおばさんの側で背を撫でたり、していたようにも見えた気がする。
あたしは急いで電話を掛け直し、自宅へ戻りギターを持ってスタジオに向かった。
結果、片付けには間に合った。
「茜、」
逆に迷惑だなという視線をメンバーから感じ、「ごめん」と謝る。
「あーあーまぁ、ダチが死んじまったんだってさぁ」
ボーカルの金髪トシロウが、非常に面倒臭そうに言った。
「あーダチか、んなら仕方ねぇよな」
シャツに汗を湿らせたシンジが、そう肯定的に言いながらドラムセットを片付ける。
「友達?どっかの人?聞いてないけど」
みよ子が自分のベースをしまいながら興味もなさそうに言う。
仕方はないけど、誰一人こちらを見てもいない。
「違う。近所の幼馴染みだった子。
突然でさ。ごめん、なんか手伝うことある?」
「幼馴染みぃ?ナニソレぇ」
「そんなのいたんだ、ウケんね」
「おらお前らやめろよそうやって。
悪ぃな茜。ちっとこの台いいか?あと3分しかねぇんだ」
「てめぇらも終わったなら手伝ってくれよ」とシンジが言うのに、多分、あたしを結構待ってくれてこうなったのかなと捉えることにした。
「あーいや俺は先に会計してくるねん」
「男だろぉ、お前」
「ハイハイいーからさっさとやんないとね。ほら、早くして茜も」
みよ子と共にシンジを手伝い、なんとか全てを返却し、終わってしまった。
まぁ、そう。エレキギターなんていなくても、ベースとドラムさえいればなんとなかならなくもないのだ。
「あ…そうだ、今日撮ったのとかある?」
「あーはいはいっと。いま送るわ。俺様の声けっこー調子良いから合わして」
トシロウからその場で動画ファイルが送られてくる。後で聴いておかないと。
問題はこいつのナルシストさのせいで、声強め録音がされていないといいんだけど。
察知したのか「あ、俺もあるぞ」とシンジがわざわざ、グループチャットにファイルを上げてくれた。こっちの方がいいのかもしれない。
トシロウのもトシロウので、確かにギターとしては助かるが。
「今日は結構よかったよねー。最近マジなんか不調って感じだったじゃん?ウチら」
「まぁなぁ…」
「そう?俺はいつでも美声だぜ?」
「そーゆーの気付かないからこっちが大変なんだっつーの。リズム隊なんだと思ってんの。今日も音ズレてっかんねトシロウ」
「あ?なんだこのクソアマっ!そんなんこいつがいないからだろうがっ!」
「まぁごめんってば。どっちも聴いて考えるよ」
不機嫌になって先に駅へ向かうトシロウの背に「最近着いていけないんだよね」とみよ子が呟いた。
「あんたいないとマジあいつ下手だって思ったし」
…まぁ確かになんとなくこっちも、声で音を変えたりはしてるけど。
でも、ライブでは互いが無我夢中でそんな余裕もない。
「ついにバックレてどっか行っちゃったかと思った。あんたならあいつの横じゃなくても出来んじゃん?あたしあいつと別れよっかな」
「そんなんないよ」
これでも必死だ。
大体、過去にライブで音がトシロウに合わなくて、それがベースやドラムにも伝染して大惨事になったことがある。
その後勝手にトシロウが楽屋に引っ込み、前座が3曲で終了したという経緯があるからいまのスタイルにしているのだ。
こんな勝手なバカ野郎と思ったら、トシロウは楽屋の隅でかなり落ち込んでおり、それから「全く」とみよ子は付き合い始めた。
多分、それがよくなかったとも、言えなくはない。
それから全員でトシロウを甘やかしているのだから、これは連帯責任と言えるだろう。
「まぁまぁ。お前は今日はアレのご機嫌取りしてくれや。アレはお前がいればなんとかなんだろ。
そんなことより茜、お前今日は大丈夫なんか?」
「ん?あぁまぁ。なんか、実感ない感じってゆーか…」
美智佳の死を素直に悼んでやる、にしては、心配な面がありすぎてそれどころではないのも事実だ。
パッツン前髪のみよ子がどうも、あたしをじろっと見、次にシンジを見ては「あーあーはいはい」と少し先へ小走りする。
「あっそ、じゃああたしはもう帰ります~だ。バーカ!」
「え、」
よくわからないまま嵐のように、みよ子は駅へ走って行く。
「あー…えっと…」
シンジと二人になってしまった。
……あぁ、これは凄く厄介だな。
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