あじさい

二色燕𠀋

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第二話

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 真里がさっきのお姉さんに久保田千寿とれんとを頼んでくれた。来る間は水でしのぐ。

「で、恋愛相談って?」
「うん、いやね。好きな人いるんだけどさ」
「ほー」
「なんかそいつさ、ちょっと変わってるていうか、誰にでも優しいわけよ。
 だけど、誰にでもじゃないわけ。自分に犠牲を払ってでもってタイプなわけで。俺はそれ見てて、守ってあげたいって思うけど手出しが出来ないわけよ。
 だってさ、住む環境も違うし、何よりその人のことあんま知らないんだよね。知ろうとしても、教えてくれない」
「なんかさっきの俺の話と似てるな」
「そう。似てるなって思ったから、気持ちわかるかなって思って相談してみた」
「相手は真里に大してどんな感じなん?」
「等しく優しいっすかねー。確かなのは、相手はそーゆー好きじゃない」

 少し自傷と自棄が入り交じったような表情で、また一口酒を飲んだ。
 こんな表情、するんだな。

 正直、真里には女の影が全然なかったから、こういう話を聞けるのはとても新鮮な気分だ。

「でも相手のことわからんのになんでそーゆーんじゃないってわかるん?」

 こちらがそう尋ねると真里は笑った。
 なんだかそれは、諦めにも少し似たような、だけど少し期待するような、よくわからない笑い方だった。

「それは、そんな訳がないって言う確証があるから。なんでかは言わないけど、まぁ色々あって」
「まぁ…俺は真里を見てきたからなぁ。真里がそんなに言うんじゃそうなんやろな。
 男女の差はあるかもしれんが、知らないってことにはまぁ、意味があるんやない?日が浅いとか、長い付き合いなら逆に、相手は知られたくないこともあるんかもしれんし」
「と言うと?」
「まず、自分を犠牲にするヤツって、知らず知らずにやってるか、わざとやってるかだと思うんよ。知らず知らずなヤツの方がわりと自分のこと嫌いだと思うわ。わざとなヤツって結構自分のこと好きだと思うんよね、俺は。嫌いなヤツって嫌いだから自分が辛いことも平気で出来る、むしろ辛いとも思わんほど無なのかもしれんし、好きなやつは、好きだから見て欲しい、かまって欲しいってなるんかもしれん。
 こうなると、優しいゆうんは意味が変わってくると思うんよ」

 おお、わりと真剣に聞いてるな。

「自分嫌いなヤツは自分が無の分の穴埋めで優しいんやろし、自分が好きなヤツは、自分が良く見られたいから、もしくは自分に余裕があるからかもしれんよね」
「なんか今日饒舌だね、酒ってすげぇな」

 ホントは喋りたくなんてない。まるで自分を出しているようで。人へのアドバイスは、これがあるからあまり得意じゃないけど。

「いや真里が真剣みたいやからな。
 俺は優しいヤツなんて嫌いだわ。大体は優しさなんて楽してるようにしか見えんから」
「…なるほどね。
 参考になったよ。
 多分俺が好きな人は、自分が嫌いな方のタイプなんだろうな…」
「そーゆータイプなら、冷たくしたら落とせるんかね?逆に優しくかな?
 わかんね、俺はあんまり恋愛は得意じゃないや。その辺は真里の方が得意だろうから。
 てかこれは俺の偏見だし、男女差があると思う!」
「いやいやありがとうございます。こんなに真剣に答えてくれる人なんてまわりにいなかった。てか、なかなか面白い話だったわ、恋愛抜きで普通に」

 なんかそうにっこりとして言われるとちょっと居心地悪いなぁ~。

 居心地の悪さにタバコに火をつけた。真里も思い出したかのようにタバコを吸い始める。
 無言が居たたまれなくてまた酒をオーダーした。

「相変わらず強いな、光也さん」
「そうか?」

 少し回って来ている。そろそろ止めておかないとな。

「思いっきり潰れるってあんまないよね」
「それは若いヤツの特権や」
「いやあんたもまだ若いから」
「いや、この歳になると誕生日が嫌で仕方ないわ」
「てかあとちょっとで」
「言うな!」

 そこからはまた、他愛のない話ばかりをした。
 結局店を出たのは10時近かった。

 最近は小夜と一緒に寝ているし、朝からバイトが増えたからわりと早めに寝てしまう。この時間には寝ているからか、結構眠い。

 あぁそうだ、姉貴の家に行かなきゃな。
 思い出して真里と一緒に電車に乗る。

「あれ、光也さん、電車?」
「うん。ちょっと寄るとこあってね」
「え、もう新彼女?」
「いやいや。姉ちゃん家。
 あ、そうだ、電話しよ」
「いやいや電車の中だし!仕方ないなぁ…!」

 真里に引っ張られて始発電車を降りて電話をかける。言われてみればそうか、電車の中だ。

 やはり2コール目で姉貴は出た。
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