あじさい

二色燕𠀋

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第二話

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 前よりは小夜の体重に耐えられるようになった。こうやって抱えることも増えたからだろうか。

 耳元に聞こえる寝息。とても小さくて暖かい。背中に当たる小夜の腹も小さく動いている。

 この季節は確かに暑いけれど。家までそんなに長くないけれど、この、重い軽さがとても心地がよい。

 いつもよりゆっくりと歩くかたちになった。その途中、道路際の苗木で蝉が羽化していたのが目に入る。
 思わず、「小夜、小夜!」と声を掛けて起こした。

「ん~…」
「小夜、ほら見てごらん」

 小夜の顔を見ると疑問顔だ。俺は、小夜をおぶったまましゃがみ、「そこだよ、そこ」と視線で蝉の居場所を指してやる。しばらくすると小夜は蝉を指差し、「あれ?」と小夜は聞いてきた。

「そうそう」
「あれ何?」
「蝉だよ。羽化してる」
「うか?」
「はねにばけるって書くんだけどさ、蝉って小さい頃は土の中にいるんだよ。それが、木に登ってきて、大人になるんだ。大人になるには、羽が必要だし、体も大きくならなきゃいけないから、そうだなぁ、何て言ったらいいかな…着替え!子供から大人に着替えるんだ。それを羽化っていうんだよ。いまこれは、羽化してる」
「これセミ?白いよ?」
「空気に当たると、いつも見てるあの色になる。近くで見る?」

 小夜が頷いたのがわかったので、そのまま小夜を背中から降ろした。しばらく二人で蝉を見ていた。

 蝉はほとんど出ていたので、二人で少し眺めていたら羽が伸びた。

「すごい…」

 そこで俺はふと思いついた。

「小夜、隣に立ってよ。一緒に撮ってあげる」

 そう言うと小夜は、蝉の隣に立つ。だが、なかなかケータイ写真に一緒に入らない。

「うーん…」
「ねぇねぇ」
「ん?」
「一緒に撮ろう?みんな一緒」
「えー」

 ちょっと恥ずかしいな。けど、小夜がちょっと嬉しそうだから、しゃがんでケータイを前に出した。

「上手く撮れるかなぁ」

 小夜も少ししゃがんで、インカメラで位置を調節して撮ってみた。

「見せて見せて!」

 そうはしゃいで言うので、二人でケータイを覗いた。インカメラだから少しぼやけたような気もするけど、小夜が嬉しそうだから、まぁよしとしよう。

 そこから二人で歩いて帰ることにした。やはり眠いのか、あくびをしたり目を擦ったりしてる。

「お風呂入ったん?」
「入ったー」
「そっか。じゃぁ家帰ったら寝よう。遅くまで待たせちゃったな」
「お友達と遊んでた?」
「そうそう、バイト先の」
「私も友達出来た…。まだあんまり仲良くないけど…」
「おっ。楽しかった?」

 小夜は頷いた。

勝海かつみと竜太郎だろ?字は教えてもらった?」
「ムズかしかった」
「そっか。勝海も竜太郎も歴史の人からとった名前なんだってさ」
「おー」
「また勉強すること増えたな」
「むー」
「でも小夜はさ、蝉のこと教えてあげたら?きっとあいつら見たことないよ。俺だって初めて見たもん」
「そうなの?」
「うん。都会にはあんまりいないから。
そう言えば二人で写真撮ったの初めてだな」
「うん…!」

 これからもっと増えていくのかな。

「蝉ってね。
 みーんみーんって泣いてるじゃん?でも羽化してこうやって土の下から出てきたら一週間しか生きらんないんだぜ」
「えー?なんで?」 
「土の下でいっぱい生きてるから。さっき羽化した蝉は、小夜と同じくらい土の下で生きてるんだよ」
「じゃぁ、あと一週間?」
「そだね。
 一週間頑張って鳴いて、恋をして子供を土に産んで死ぬんだよ」
「そうなんだ…」
「小夜も早く大きくならなきゃな」

 小夜は黙って下を向いてしまった。

「小夜?」
「死んじゃうのか…」
「でも、一生懸命頑張ってるから」
「鳴かなかったら死なないの?」
「そんなことないよ。むしろ、鳴いてる方がきっと、生きられたって思うかもよ?小夜もさ、嬉しかったら笑うし、悲しかったら泣くし、ムカついたら怒るだろ?それと一緒だよ」
「…ずっとセミは泣いてるの?」
「あれはさ、小夜にはどう聞こえる?
 嬉しいって聞こえる?悲しいって聞こえる?」
「うーん…
みーんみーんって…」
「はっはっは!そうだね。あれは何か叫んでるかもしれんよ?よく聞いてみ?」

 それから小夜は、静かに、足音にすら気を配ってゆっくり歩いた。俺もそれに合わせてゆっくりと歩いてみる。

 聞いてみるとたくさんの種類の鳴き声があること。それもいつか小夜が、わかるといいな。
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