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第四話
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ここ最近でまず最初の予定、町内会の祭りである土曜日がやってきた。町内会といっても俺たちが住んでるところの隣の区だ。
俺は行かないつもりだったので特に目覚ましを掛けたりはしなかったのだが、もれなく小夜に起こされてしまった。
「みっちゃん起きて!」
「んー?」
朝の10時。最初は何で休日なのに起こしたかなと疑問で仕方なかった。
「ほら、祭りだよ」
と真里に言われて漸く思い出したのだ。
「えー?…行かないよ」
「はぁ?」
「どしてー?」
そう小夜に言われちゃうと答えに困る。
「うーん、遥子姉ちゃんと喧嘩してるから会いたくない」
「ダメだよ仲直りしないと!行こ!」
「んー…大人の事情があるんだよ、小夜」
「大人の事情?」
「そうだよ」
全然納得してねぇな。
「…遥子お姉ちゃん、よく勝海くんと竜太郎くんが喧嘩してるとき言ってる。…どうして喧嘩したの?って。喧嘩は悪い方がちゃんと謝って、悪くない方はちゃんと許してあげないとだめだって」
「……」
「ほら、8歳に言われてるぞ。
逃げるのって確かに楽だよ。考えなくていいし。特に人間関係はな。ただ逃げた後ってすっげー後悔するよね、大体がさ」
「……あーもー!」
どいつもこいつもわかってねぇな。
「わかったよ、行くよ!」
半ば不貞腐れて出かける準備を始めた。
ずっと無言で用意をしていると小夜が、「何かみっちゃんご機嫌斜めだ」と真里に内緒話しているのが耳につく。我ながら子供っぽいとちょっと虚しくなる。
大体こんな時間から起きたはいいが何時から始まるんだ?
「何時から?」
「10時くらいだっけ?何かすげぇ長い時間やってんだよね」
「どーゆー祭り?」
「お神輿担ぐんだって!勝海くんと竜太郎くんが!」
一般的なお祭りか。どうがんばっても姉貴やヒロさんと会うことになりそうだな。
「やっぱり、二人で行ってきなよ…」
こうなりゃ、行かない体勢を見せようと、ヘッドフォンをつけてCDを聞き始めるが、真里にヘッドフォンを奪われた。溜め息しか出ない。
出る直前まであんまり何も考えないようにする。
「りんごとわさびも連れてっていい?」
「ダメ。なくなるよ?」
「持ってるよちゃんと!」
出かける直前にこれで難航。真里がひたすらに「ダメだって」と言っても小夜は、「見せてあげたいよ!りんごとわさびにー…」となかなか言うことを聞かない。
仕方ないなぁ。
「じゃぁ今日はりんごね」
それだけ言ってりんごを鞄に突っ込み、俺は先に玄関を出た。二人はそれからしんとして着いてきた。
三人で電車に乗っても話をせずにずっと音楽を聴いていることにした。最早ベストアルバムを聞く勢いである。今度ライブ行くことになったし、ガムシロでも聞こう。
前頭葉の全てが孤独
探して見つからなかったもの
記憶を取り出して見つけたものは
右手で掴んだ 過去の左手
人がちょっと夢中になってきた頃、ふと右耳が現実に戻ってきた。真里が、勝手に俺のイヤホンを外し、自分の左耳につけたのだった。
「これがガムシロってやつ?」
「そうだけど?」
あからさまに不愉快な顔をしてやるがお構いなし。
…左耳の方がベースよく聞き取れるのに。
動脈が呼吸を止めたら
灰が全てを元に戻した
夢を見るのは怖くなかった
ただそこに朝がなかった
血が汚れてるなんて
誰も言ってないよ
真っ青で空虚で淡白
僕を照らす唯一の光
「歌詞暗いね」
「うん。物凄くね」
わりと静かめの曲だから余計暗くなるんだよなぁ、この曲。
「声がさ、この人ちょっと落ち着くんだよなーどんな曲歌っても」
あー眠くなってきたな。寝ちゃおうかな。
と思ったのも束の間で、少しこくっとなったところで目的の駅に着いてしまった。
なんか今日はタイミング悪いな。仕方なくイヤホンをしまう。
電車から降りて改札を出たところに姉貴たち家族がいた。
「勝海くん、竜太郎くん!」
小夜が真っ先に掛けていき、真里が軽く頭を下げた。勝海と竜太郎は祭り用の法被を着ている。子供らしくよく似合っていた。
「小夜、危ないから走っちゃダメだよー。
勝海、竜太郎、よく似合ってるな」
俺は姉貴とヒロさんに目も合わせなかった。そんな態度からか、相手二人もどうしていいかわからないようだった。
「会場どっちですか?」
真里がそう切り出すと、「あっちやで!」と、指を指しながら案内してくれる。俺たちはそれについていく形になった。
一番後ろから俺だけとぼとぼついて行くと、ヒロさんが俺のところに来る。
「光也くん」
「すみません、邪魔ですよね。今すぐ消えますよ」
真里と姉貴は前で喋ってて気付かないだろうし。踵を返そうとすると、「違う」と腕を掴まれた。仕方なく立ち止まると、真里がそれに気付いたらしい。
「どうしたの」
「いや、なんでもねぇよ」
「あそう。早く行こ?」
俺の肩をぽんぽんと叩いて促す。ヒロさんには一睨みして真里は歩き出した。仕方なくまた俺は前に進むしかなくて。
「子供のために、大人の事情は一回忘れよう。
酷なこと言ってごめん」
真里が謝るなんて珍しい。
けど真里が謝る必要なんてないんだ。
「そうだな…。
いや、真里が謝ることはないよ。ごめん」
悪いのは、俺なんだ。いつまでも真里や姉貴に甘えてる俺が悪い。
けど今はそれよりもまず、真里が言うように小夜の楽しみに専念してあげよう。
小夜と勝海と竜太郎はもうすっかり仲良しになっている。小夜にとっては初の同世代の友達なんだ。
「すっかり仲良しなんだな」
「光也さん嬉しそうだね」
「いや、初の友達なんだろうなと思ってさ」
親ってこんな心境なのかな、やっぱり。
少しまえまでは世界に、あんなに怯えていた小夜が、今ではこんなにも毎日楽しそうで。たったそれだけで少し大きくなったように見えて。
「子供の一日の変化ってさ、俺らなんかより遥かにでかいんだな」
だからふと、後ろから小夜を抱き上げ、肩車をした。「きゃー」とか言いつつ楽しそうだ。
「小夜、御輿みてぇだな」
そう言って真里が笑った。
俺は行かないつもりだったので特に目覚ましを掛けたりはしなかったのだが、もれなく小夜に起こされてしまった。
「みっちゃん起きて!」
「んー?」
朝の10時。最初は何で休日なのに起こしたかなと疑問で仕方なかった。
「ほら、祭りだよ」
と真里に言われて漸く思い出したのだ。
「えー?…行かないよ」
「はぁ?」
「どしてー?」
そう小夜に言われちゃうと答えに困る。
「うーん、遥子姉ちゃんと喧嘩してるから会いたくない」
「ダメだよ仲直りしないと!行こ!」
「んー…大人の事情があるんだよ、小夜」
「大人の事情?」
「そうだよ」
全然納得してねぇな。
「…遥子お姉ちゃん、よく勝海くんと竜太郎くんが喧嘩してるとき言ってる。…どうして喧嘩したの?って。喧嘩は悪い方がちゃんと謝って、悪くない方はちゃんと許してあげないとだめだって」
「……」
「ほら、8歳に言われてるぞ。
逃げるのって確かに楽だよ。考えなくていいし。特に人間関係はな。ただ逃げた後ってすっげー後悔するよね、大体がさ」
「……あーもー!」
どいつもこいつもわかってねぇな。
「わかったよ、行くよ!」
半ば不貞腐れて出かける準備を始めた。
ずっと無言で用意をしていると小夜が、「何かみっちゃんご機嫌斜めだ」と真里に内緒話しているのが耳につく。我ながら子供っぽいとちょっと虚しくなる。
大体こんな時間から起きたはいいが何時から始まるんだ?
「何時から?」
「10時くらいだっけ?何かすげぇ長い時間やってんだよね」
「どーゆー祭り?」
「お神輿担ぐんだって!勝海くんと竜太郎くんが!」
一般的なお祭りか。どうがんばっても姉貴やヒロさんと会うことになりそうだな。
「やっぱり、二人で行ってきなよ…」
こうなりゃ、行かない体勢を見せようと、ヘッドフォンをつけてCDを聞き始めるが、真里にヘッドフォンを奪われた。溜め息しか出ない。
出る直前まであんまり何も考えないようにする。
「りんごとわさびも連れてっていい?」
「ダメ。なくなるよ?」
「持ってるよちゃんと!」
出かける直前にこれで難航。真里がひたすらに「ダメだって」と言っても小夜は、「見せてあげたいよ!りんごとわさびにー…」となかなか言うことを聞かない。
仕方ないなぁ。
「じゃぁ今日はりんごね」
それだけ言ってりんごを鞄に突っ込み、俺は先に玄関を出た。二人はそれからしんとして着いてきた。
三人で電車に乗っても話をせずにずっと音楽を聴いていることにした。最早ベストアルバムを聞く勢いである。今度ライブ行くことになったし、ガムシロでも聞こう。
前頭葉の全てが孤独
探して見つからなかったもの
記憶を取り出して見つけたものは
右手で掴んだ 過去の左手
人がちょっと夢中になってきた頃、ふと右耳が現実に戻ってきた。真里が、勝手に俺のイヤホンを外し、自分の左耳につけたのだった。
「これがガムシロってやつ?」
「そうだけど?」
あからさまに不愉快な顔をしてやるがお構いなし。
…左耳の方がベースよく聞き取れるのに。
動脈が呼吸を止めたら
灰が全てを元に戻した
夢を見るのは怖くなかった
ただそこに朝がなかった
血が汚れてるなんて
誰も言ってないよ
真っ青で空虚で淡白
僕を照らす唯一の光
「歌詞暗いね」
「うん。物凄くね」
わりと静かめの曲だから余計暗くなるんだよなぁ、この曲。
「声がさ、この人ちょっと落ち着くんだよなーどんな曲歌っても」
あー眠くなってきたな。寝ちゃおうかな。
と思ったのも束の間で、少しこくっとなったところで目的の駅に着いてしまった。
なんか今日はタイミング悪いな。仕方なくイヤホンをしまう。
電車から降りて改札を出たところに姉貴たち家族がいた。
「勝海くん、竜太郎くん!」
小夜が真っ先に掛けていき、真里が軽く頭を下げた。勝海と竜太郎は祭り用の法被を着ている。子供らしくよく似合っていた。
「小夜、危ないから走っちゃダメだよー。
勝海、竜太郎、よく似合ってるな」
俺は姉貴とヒロさんに目も合わせなかった。そんな態度からか、相手二人もどうしていいかわからないようだった。
「会場どっちですか?」
真里がそう切り出すと、「あっちやで!」と、指を指しながら案内してくれる。俺たちはそれについていく形になった。
一番後ろから俺だけとぼとぼついて行くと、ヒロさんが俺のところに来る。
「光也くん」
「すみません、邪魔ですよね。今すぐ消えますよ」
真里と姉貴は前で喋ってて気付かないだろうし。踵を返そうとすると、「違う」と腕を掴まれた。仕方なく立ち止まると、真里がそれに気付いたらしい。
「どうしたの」
「いや、なんでもねぇよ」
「あそう。早く行こ?」
俺の肩をぽんぽんと叩いて促す。ヒロさんには一睨みして真里は歩き出した。仕方なくまた俺は前に進むしかなくて。
「子供のために、大人の事情は一回忘れよう。
酷なこと言ってごめん」
真里が謝るなんて珍しい。
けど真里が謝る必要なんてないんだ。
「そうだな…。
いや、真里が謝ることはないよ。ごめん」
悪いのは、俺なんだ。いつまでも真里や姉貴に甘えてる俺が悪い。
けど今はそれよりもまず、真里が言うように小夜の楽しみに専念してあげよう。
小夜と勝海と竜太郎はもうすっかり仲良しになっている。小夜にとっては初の同世代の友達なんだ。
「すっかり仲良しなんだな」
「光也さん嬉しそうだね」
「いや、初の友達なんだろうなと思ってさ」
親ってこんな心境なのかな、やっぱり。
少しまえまでは世界に、あんなに怯えていた小夜が、今ではこんなにも毎日楽しそうで。たったそれだけで少し大きくなったように見えて。
「子供の一日の変化ってさ、俺らなんかより遥かにでかいんだな」
だからふと、後ろから小夜を抱き上げ、肩車をした。「きゃー」とか言いつつ楽しそうだ。
「小夜、御輿みてぇだな」
そう言って真里が笑った。
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