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第四話
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それから一ヶ月なんてあっという間に過ぎてしまった。なんの変哲もなく時間はただ過ぎ、いつも通り寝て明日が来て、を繰り返していくうちに過ぎてしまった。
その間ライブに行ったりしたが、変わったことといったらそれくらいなもので。
一ヶ月の間に何度かテストをやり、小夜はついに漢検3級レベルまで漢字を覚えた。
そして今日がお別れの日で、花火大会の日である。今日がお別れだと言うのは小夜には告げていない。水野さんと俺でマメに連絡を取り、今日になった。そうとは知らず小夜は、いつも通りに過ごしていた。
「ねぇねぇ見て!」
見せられた紙には、志摩光也、神崎真里、小日向小夜と完璧に書いてあった。
「すげぇじゃん」
「勉強いっぱいしたんだよ!」
「そうだな。じゃぁ今日はお祭りで何買って欲しい?」
「リンゴ飴!」
「よし、わかった」
「うぉ、大変だ!」
こっちでそんな話をしていると、急に真里が台所で大きな声をあげた。「なんだよ」と言って見に行くと、小鉢を指差した。あれから真里は約束通り、金魚を入れる小鉢を家から持ってきてくれたのだ。
見ると、金魚が水面に浮いていた。「なになにー」と小夜もやってくる。見せていいものか迷ったが、これも勉強だと思い、小鉢を見せる。
「どしたの…これ」
「死んでる」
「え?」
「小夜、お墓作ろっか」
「…死んじゃった?」
「うん」
小夜は俯いてしまった。俯いて、声をあげずに泣いていた。そんな小夜の頭を撫でる。
「一緒にお墓作ろ」
「…うん。
死んだらどうなるの?」
「…どうなるんだろうな。もう、逢えないな。
だから小夜も一生懸命生きねぇとな。
出会いがあれば、別れもあるんだよ」
子共ながらになんとなく、これはわがままを言ってももう戻らないとわかったのだろうか。妙に聞き分けよく、一緒に下の駐車場まで行き、スコップで穴を掘って金魚を埋めた。小夜は小さな手を合わせている。
「なんか、いなくなるって寂しいな」
「うん…」
「この気持ちは、忘れちゃいけないのかもね。
俺も小さいとき、買ってたクワガタ死んだとき、悲しかったな」
「お墓作った?」
「作ったよ。忘れちゃいけないなって思った。現に大人になっても覚えてる。小夜も、こーゆーこと、忘れない大人になれよ。
泣き虫なことは、恥ずかしいことじゃないよ。大人になったら泣けないからな。今のうちにいっぱい泣いとけ」
「不細工になっちゃうよ?」
「大丈夫、明日には治ってる。
さて、準備しよっか」
いろんな、単純だけど難しいことを、小夜からたくさん教わったな。しみじみとそう思った。
立ち上がって戻ろうとすると、真里が階段の手すりに寄りかかって見守っていた。手には、恐らく小夜の荷物らしき物を持っていた。
「これ…車入れとく」
「…ああ」
今日は荷物がかさばるかと思い、あらかじめレンタカーを借りてある。真里は、小夜の荷物を荷台に乗せる。その動作は、然り気無く。
先に小夜は階段を登って行ってしまって。
「言わなくていいの?」
「…うん。もうちょっとしたら…」
「…そうかい。
辛くなるのは、あんただよ?俺が言ってやろうか?」
「いや…大丈夫、大丈夫だから。
帰りに言う」
「…変な顔」
真里はちょっと笑って言った。自分が笑って返そうとして失敗したことには気付いた。
「どんな顔?」
「泣きたい方に傾いてる」
そう言われてなにも言葉を返せなくなった。
「…車先乗ってて」
「…はいよ」
「やっぱり、最後がいいと思うんだ。今日は…花火だから」
真里の顔が見れなくて、俯いてすれ違った。そのまま部屋に戻って玄関から小夜を呼ぶ。
「小夜」
「みっちゃん、あのね、荷物が…」
「真里が持ってきてくれたよ。さぁ、行こうか」
疑問顔のまま小夜は玄関まで来た。ふと、紫陽花の折り畳み傘が目についた。そっか、これ、一番最初に俺が小夜にあげたんだ。
「小夜、」
「ん?」
「雨降るといけないから、この傘持ってきな」
「降るの?」
「念のため」
「はぁーい」
「小夜、」
「ん?」
そのまま強く抱き締めた。この扉を開けたらもう、ここでの生活はなくなるんだ。この扉を開けたら小夜は、一歩大人へ近付くんだ。そう思ったら、居ても立っても居られなくなった。
「どしたのー?」
「小夜、今日は楽しもうな」
「うん、みっちゃん、なんか変だよ?」
「うん…変だよ」
思えばこの三ヶ月、何一つ楽じゃなかった。
気付いたら一人じゃなかった。一人でいれば充分なはずだった。何を求めて苦労して、何を求めてこんなところに来てしまったんだろう。
ページを開いたら白紙に戻るだけ、ただそれだけのことなのに。
単純に、最終的には楽しかったんだ、何もかもが。辛いことも苦しいことも全部含めて楽しくて、やっと生きてるって感じてたんだ。
最後に全部言おう。そう決めた。
「行こっか、小夜」
「うん!」
無邪気に笑う小夜の笑顔が唯一の救いになってた。
二人で家を出る。いつも以上に扉が閉まる音が響いたような気がした。
その間ライブに行ったりしたが、変わったことといったらそれくらいなもので。
一ヶ月の間に何度かテストをやり、小夜はついに漢検3級レベルまで漢字を覚えた。
そして今日がお別れの日で、花火大会の日である。今日がお別れだと言うのは小夜には告げていない。水野さんと俺でマメに連絡を取り、今日になった。そうとは知らず小夜は、いつも通りに過ごしていた。
「ねぇねぇ見て!」
見せられた紙には、志摩光也、神崎真里、小日向小夜と完璧に書いてあった。
「すげぇじゃん」
「勉強いっぱいしたんだよ!」
「そうだな。じゃぁ今日はお祭りで何買って欲しい?」
「リンゴ飴!」
「よし、わかった」
「うぉ、大変だ!」
こっちでそんな話をしていると、急に真里が台所で大きな声をあげた。「なんだよ」と言って見に行くと、小鉢を指差した。あれから真里は約束通り、金魚を入れる小鉢を家から持ってきてくれたのだ。
見ると、金魚が水面に浮いていた。「なになにー」と小夜もやってくる。見せていいものか迷ったが、これも勉強だと思い、小鉢を見せる。
「どしたの…これ」
「死んでる」
「え?」
「小夜、お墓作ろっか」
「…死んじゃった?」
「うん」
小夜は俯いてしまった。俯いて、声をあげずに泣いていた。そんな小夜の頭を撫でる。
「一緒にお墓作ろ」
「…うん。
死んだらどうなるの?」
「…どうなるんだろうな。もう、逢えないな。
だから小夜も一生懸命生きねぇとな。
出会いがあれば、別れもあるんだよ」
子共ながらになんとなく、これはわがままを言ってももう戻らないとわかったのだろうか。妙に聞き分けよく、一緒に下の駐車場まで行き、スコップで穴を掘って金魚を埋めた。小夜は小さな手を合わせている。
「なんか、いなくなるって寂しいな」
「うん…」
「この気持ちは、忘れちゃいけないのかもね。
俺も小さいとき、買ってたクワガタ死んだとき、悲しかったな」
「お墓作った?」
「作ったよ。忘れちゃいけないなって思った。現に大人になっても覚えてる。小夜も、こーゆーこと、忘れない大人になれよ。
泣き虫なことは、恥ずかしいことじゃないよ。大人になったら泣けないからな。今のうちにいっぱい泣いとけ」
「不細工になっちゃうよ?」
「大丈夫、明日には治ってる。
さて、準備しよっか」
いろんな、単純だけど難しいことを、小夜からたくさん教わったな。しみじみとそう思った。
立ち上がって戻ろうとすると、真里が階段の手すりに寄りかかって見守っていた。手には、恐らく小夜の荷物らしき物を持っていた。
「これ…車入れとく」
「…ああ」
今日は荷物がかさばるかと思い、あらかじめレンタカーを借りてある。真里は、小夜の荷物を荷台に乗せる。その動作は、然り気無く。
先に小夜は階段を登って行ってしまって。
「言わなくていいの?」
「…うん。もうちょっとしたら…」
「…そうかい。
辛くなるのは、あんただよ?俺が言ってやろうか?」
「いや…大丈夫、大丈夫だから。
帰りに言う」
「…変な顔」
真里はちょっと笑って言った。自分が笑って返そうとして失敗したことには気付いた。
「どんな顔?」
「泣きたい方に傾いてる」
そう言われてなにも言葉を返せなくなった。
「…車先乗ってて」
「…はいよ」
「やっぱり、最後がいいと思うんだ。今日は…花火だから」
真里の顔が見れなくて、俯いてすれ違った。そのまま部屋に戻って玄関から小夜を呼ぶ。
「小夜」
「みっちゃん、あのね、荷物が…」
「真里が持ってきてくれたよ。さぁ、行こうか」
疑問顔のまま小夜は玄関まで来た。ふと、紫陽花の折り畳み傘が目についた。そっか、これ、一番最初に俺が小夜にあげたんだ。
「小夜、」
「ん?」
「雨降るといけないから、この傘持ってきな」
「降るの?」
「念のため」
「はぁーい」
「小夜、」
「ん?」
そのまま強く抱き締めた。この扉を開けたらもう、ここでの生活はなくなるんだ。この扉を開けたら小夜は、一歩大人へ近付くんだ。そう思ったら、居ても立っても居られなくなった。
「どしたのー?」
「小夜、今日は楽しもうな」
「うん、みっちゃん、なんか変だよ?」
「うん…変だよ」
思えばこの三ヶ月、何一つ楽じゃなかった。
気付いたら一人じゃなかった。一人でいれば充分なはずだった。何を求めて苦労して、何を求めてこんなところに来てしまったんだろう。
ページを開いたら白紙に戻るだけ、ただそれだけのことなのに。
単純に、最終的には楽しかったんだ、何もかもが。辛いことも苦しいことも全部含めて楽しくて、やっと生きてるって感じてたんだ。
最後に全部言おう。そう決めた。
「行こっか、小夜」
「うん!」
無邪気に笑う小夜の笑顔が唯一の救いになってた。
二人で家を出る。いつも以上に扉が閉まる音が響いたような気がした。
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