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Hydrangea
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久しぶり、と言うにはあまりにも時が経ってしまったような気がする。
私がここで暮らしていたのはもう何年前だろう。まだ、私は8歳の子供だった。
8歳からいままで、何度かこの東京には訪れた。その度に、マリちゃんとは連絡を取っていたが予定が合わなかったりして、結局二人に会うのは実に8年ぶりである。今回、8年越しにようやく二人と予定が合って、会えることになった。
私が最後に見たのは20代で、夜の彼方へ消えていく二人だった。具体的な年齢を当時は知らなかったが、今ごろ30代くらいだと思う。
あれから私は遅れた分の勉強を3年でこなし、小学校はちゃんと12歳で卒業した。
みっちゃんが言った通り、学ぶことはたくさんあって、1年生から3年生までの遅れはかなり辛いものがあった。だけど特別学級を必死に一年で脱し、5、6年生は普通の子と同じように過ごした。
そして今年、父が選んだ地元の高校に夏休み前まで通ったのだが、環境に馴染めず、私は高校に行かなくなってしまった。
父がそんな私を見て、好きな高校を選ばせてくれたので、この地を選んだ。学生用の寮なども田舎と違って東京にはたくさんある。
そして現在、引越しが終わって3日。一息吐いたころである。
一人で東京都内に出掛けるのは、何度か来たことがあるとはいえ、まだまだ慣れない。人もたくさんいて、駅なんて何口のどこを出ればいいかわからない、たくさんあるから。
待ち合わせの駅についてキョロキョロしながら歩いてると、みんなが私の横を平然と通りすぎていく。当たり前のことなのに、人が多すぎてなんだか萎縮してしまう。
通路の真ん中、途中で立ち止まってしまった。人の邪魔になってしまうのに。
後ろから歩いてきた人に肩がぶつかって、仕方なくノロノロと歩き始めた、そんなときだった。
「大丈夫ですか?」
後ろから声を掛けられる。振り返ると、私の記憶の中に眠っていたみっちゃんに似た人が声を掛けてくれた。スーツ姿の、いかにも新入社員と言った感じだった。
「あ、はい…」
「具合悪いんですか?取り敢えず、改札出ます?目の前だし」
その人も一緒に着いてきてくれて、私は無言で改札を出た。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。ちょっと、人が多くてびっくりしちゃって…」
「あぁ、上京したてとか、ですか?」
「はい。
でも、大丈夫です。具合悪いとかじゃないんで」
「送って行きましょうか?」
…なんだろう、大丈夫だって言ってるのにな。親切すぎる人だなぁ。
「いえ、ホントに大丈夫ですから」
「顔色悪いですけど」
しつこいなぁ。親切にしてもらったのに申し訳ないけどそう思ってしまった。マリちゃん早く来ないかなと思ってメールを送ってみると、少ししてから着信が入った。
「もしもし?」
『もしもし、何口?』
「えっとね…」
すると、電話を片手にキョロキョロしているマリちゃんを発見した。長身でオレンジ色のパーカーという、なんとなく目立つ感じ。一目でマリちゃんだってわかった。
手を振ると、マリちゃんは気付いたらしく、手を振り返えして来てくれた。
バツが悪そうに、みっちゃんに似た人はそのまま立ち去った。
「よう小夜!でっかくなったな!」
「久しぶり!」
「今のは?」
「なんか…ちょっと迷っちゃったと言うかね…人がいっぱいいてびっくりしてたら声掛けてくれたんだけど…」
「あー、ナンパか。小夜美人になったもんなー。ダメだぞ、ほいほい着いてっちゃ」
「ナンパだったのかな…」
「大体ね、知らないやつに声かけられたら、道聞かれたとかでも疑ってかかった方がいいよ。そのまま、着いて来てくれとか言われてどっか連れてかれました、殺されましたとか言ったら洒落にならんからな」
「はーい…」
東京怖いな…。
「あれ?みっちゃんは?」
「あー、ちょっとね、少しだけ遅れる。つか、行くか、光也さんとこ」
相変わらず忙しいなぁ。マリちゃんも、あんまり変わらないし。ちょっと大人っぽくなった気がするけど。
マリちゃんに促され、着いて行く。駐車場まで行き、赤い車の前まで行くと、先にマリちゃんは運転席に乗り私が車を出してくれた。
なんだか、車の至るところに傷があった。少し出て止まり、助手席に乗り込んだ。
タバコの消臭剤の匂いがした。
なんとなく、懐かしい。
「車、傷だらけだね」
「光也さん運転めっちゃ下手なんだよ」
「そう言えば一緒にいたとき、運転してるの見たことないかも」
「だろうな。じゃなきゃ今頃お前生きてないよ。俺も何度死にかけたか」
どうやら相変わらず仲良しみたいで良かった。
「小夜、今いくつになった?」
「16!」
「早いなぁ、もう高校生?」
「そうよー」
「あれから何年だ?」
「8年!」
「なんだかんだで会えなかったもんな」
「マリちゃんは何歳になったの?」
「おっさんに歳を聞いちゃダメだよ」
「えー」
「もう俺たちおっさんになっちまったよ。一緒にいたころ俺なんて20前半も前半だったもんな。てか学生だったよな」
私がここで暮らしていたのはもう何年前だろう。まだ、私は8歳の子供だった。
8歳からいままで、何度かこの東京には訪れた。その度に、マリちゃんとは連絡を取っていたが予定が合わなかったりして、結局二人に会うのは実に8年ぶりである。今回、8年越しにようやく二人と予定が合って、会えることになった。
私が最後に見たのは20代で、夜の彼方へ消えていく二人だった。具体的な年齢を当時は知らなかったが、今ごろ30代くらいだと思う。
あれから私は遅れた分の勉強を3年でこなし、小学校はちゃんと12歳で卒業した。
みっちゃんが言った通り、学ぶことはたくさんあって、1年生から3年生までの遅れはかなり辛いものがあった。だけど特別学級を必死に一年で脱し、5、6年生は普通の子と同じように過ごした。
そして今年、父が選んだ地元の高校に夏休み前まで通ったのだが、環境に馴染めず、私は高校に行かなくなってしまった。
父がそんな私を見て、好きな高校を選ばせてくれたので、この地を選んだ。学生用の寮なども田舎と違って東京にはたくさんある。
そして現在、引越しが終わって3日。一息吐いたころである。
一人で東京都内に出掛けるのは、何度か来たことがあるとはいえ、まだまだ慣れない。人もたくさんいて、駅なんて何口のどこを出ればいいかわからない、たくさんあるから。
待ち合わせの駅についてキョロキョロしながら歩いてると、みんなが私の横を平然と通りすぎていく。当たり前のことなのに、人が多すぎてなんだか萎縮してしまう。
通路の真ん中、途中で立ち止まってしまった。人の邪魔になってしまうのに。
後ろから歩いてきた人に肩がぶつかって、仕方なくノロノロと歩き始めた、そんなときだった。
「大丈夫ですか?」
後ろから声を掛けられる。振り返ると、私の記憶の中に眠っていたみっちゃんに似た人が声を掛けてくれた。スーツ姿の、いかにも新入社員と言った感じだった。
「あ、はい…」
「具合悪いんですか?取り敢えず、改札出ます?目の前だし」
その人も一緒に着いてきてくれて、私は無言で改札を出た。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。ちょっと、人が多くてびっくりしちゃって…」
「あぁ、上京したてとか、ですか?」
「はい。
でも、大丈夫です。具合悪いとかじゃないんで」
「送って行きましょうか?」
…なんだろう、大丈夫だって言ってるのにな。親切すぎる人だなぁ。
「いえ、ホントに大丈夫ですから」
「顔色悪いですけど」
しつこいなぁ。親切にしてもらったのに申し訳ないけどそう思ってしまった。マリちゃん早く来ないかなと思ってメールを送ってみると、少ししてから着信が入った。
「もしもし?」
『もしもし、何口?』
「えっとね…」
すると、電話を片手にキョロキョロしているマリちゃんを発見した。長身でオレンジ色のパーカーという、なんとなく目立つ感じ。一目でマリちゃんだってわかった。
手を振ると、マリちゃんは気付いたらしく、手を振り返えして来てくれた。
バツが悪そうに、みっちゃんに似た人はそのまま立ち去った。
「よう小夜!でっかくなったな!」
「久しぶり!」
「今のは?」
「なんか…ちょっと迷っちゃったと言うかね…人がいっぱいいてびっくりしてたら声掛けてくれたんだけど…」
「あー、ナンパか。小夜美人になったもんなー。ダメだぞ、ほいほい着いてっちゃ」
「ナンパだったのかな…」
「大体ね、知らないやつに声かけられたら、道聞かれたとかでも疑ってかかった方がいいよ。そのまま、着いて来てくれとか言われてどっか連れてかれました、殺されましたとか言ったら洒落にならんからな」
「はーい…」
東京怖いな…。
「あれ?みっちゃんは?」
「あー、ちょっとね、少しだけ遅れる。つか、行くか、光也さんとこ」
相変わらず忙しいなぁ。マリちゃんも、あんまり変わらないし。ちょっと大人っぽくなった気がするけど。
マリちゃんに促され、着いて行く。駐車場まで行き、赤い車の前まで行くと、先にマリちゃんは運転席に乗り私が車を出してくれた。
なんだか、車の至るところに傷があった。少し出て止まり、助手席に乗り込んだ。
タバコの消臭剤の匂いがした。
なんとなく、懐かしい。
「車、傷だらけだね」
「光也さん運転めっちゃ下手なんだよ」
「そう言えば一緒にいたとき、運転してるの見たことないかも」
「だろうな。じゃなきゃ今頃お前生きてないよ。俺も何度死にかけたか」
どうやら相変わらず仲良しみたいで良かった。
「小夜、今いくつになった?」
「16!」
「早いなぁ、もう高校生?」
「そうよー」
「あれから何年だ?」
「8年!」
「なんだかんだで会えなかったもんな」
「マリちゃんは何歳になったの?」
「おっさんに歳を聞いちゃダメだよ」
「えー」
「もう俺たちおっさんになっちまったよ。一緒にいたころ俺なんて20前半も前半だったもんな。てか学生だったよな」
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