Get So Hell?

二色燕𠀋

文字の大きさ
22 / 109
神様

4

しおりを挟む
 それから2人は、土佐の男の雄弁な語りを延々と聞かされた。

 異国がどう、日本はどう、蘭学はどう、思想がどう。確かに興味深い話ではあったが。

「ワシャぁ、才谷さいたに直柔なおなりや。坊さん、もしよかったら一緒にぉへんか?」
「いや、」

 本当に浪人だったら厄介だ。
 なんせ、変わり者。宛てなく旅をすれば死にかねない世の中だ。
 まぁ、宛は端からないのだが。

「そうか…残念じゃき。あんさんとは少し話したかった」
「すまない先を急ぐ。我々はあくまで修行の身だ」

 今回ばかりは翡翠も特に何も異論を発さなかった。

 はっきり言えば朱鷺貴には、この才谷直柔の話が絵空事に思えた節がある。
 確かに夢や未来もあり興味深くはあるが、現段階でこの男からは「隣の芝生は青い」と言われたような気分だったのだ。

 そんな事柄はまだ、どうでもいい。学も必要ではある、いつかその芝生の青さには気付けるくらいになるかもしれないが。

 男と別れてから翡翠は言った。

「なんや、夢は大きい人」
「そうだな」
「しかしまぁ、解らぬでもない。身の内としてはわてらよか立派かもしれまへんね」

 やけに皮肉っぽいなぁ。珍しく。

「しかし嫌いな性分です…。なんや、ヤクザのようで」
「…どうしたお前」
「騙されずよかった、いう話です」

 確かにまぁ、口が達者な印象はあった。

「興味持ったのか?」
「ええ。せやけどなんや、金を借りるときのような心境に至りまして」
「…というと?」
「胡散臭い、こんな印象ですね。商人やら、そういった浪人なんでしょうか、あん人」

 なるほど。
 ヤクザに言われれば納得だ、説得力がある。これは確実に世迷い事ではない。

 どうやら翡翠は数日前の高台寺こうだいじの浪人といい、こういった学を語る男は嫌いらしい。

「お前、学があるやつ嫌いだよな」
「まぁ、そうですね。学があったところで使えなければ死んでしまうやろ?」
「こうは考えないか翡翠。
 例えば刀の使い方、これも学の一つだ。しかし確かに、それでも抜けない俺には意味がない代物で…」
「あんさん、ホンマにそれ、意味あるんですか?」
「ない。坊主はそもそも人を殺さない」
「うーん…?」
「お前の暗器すら俺には使い方がわからんが、使い方を知って使えるお前は学を使いこなし身を守れるわけだ」
「はぁ…」
「しかし本来は俺が特殊だ。そもそも刀は抜き方すら武家でなければわからない。だが鞘から抜いてあれば、人を殺すことは誰でも出来る」
「つまり?」
「学はあって損はないが、有り難さは使ってみないとわからない、知らなければ尚更だ」
「それはつまりあの人の肩を持つのですか」
「いや。
 俺らと大差ない、と言いたいんだ。あの男はまだ使いこなしていない。
 しかし最初に言っていたな、今巡業なんて意味がないと。俺はその点で少し矛盾を感じた。日本を知らず外国ばかり言われても…そしてそれは巡業に入らないのか?とな」
「なるほど」

 つまり。

「自分の見たものしか信用ならない、まぁそれはわても同じですな」
「な。じゃ、仕事を探そう」
「巡業ですな」

 楽しそうに翡翠は言った。
 まだまだ我々は日本を知らないのだ。それは今だからこそ、生き残るために必要だ。

 あの男も口は上手いが結局同じこと。しかしまぁあれほど外国を褒める、売り込むような言い方が翡翠には微妙だったのだろう。

 それも巡業。国だと傲らずまずは自己だと、魅せられ業に走らなければいいがな、あの男。

「わては少しあんさんを見直しました」

 急に自分を褒める翡翠に内心朱鷺貴は驚く。
 なんだどうした。

「…どうした急に」
「いえ、なんとなくです」

 なにやら嬉しそうだ。それほど大した口上でもないだろうに。

「あんさん、しかし人を殺すのはやはり反対ですか」
「まぁ基本はな。だが、自分が死ぬとなればまた別だ」
「死は怖いですか」
「当たり前だ。死んだら全て終わる。それは仏だろうがなんだろうが、自分あってのもんだろ」
「はぁ、」

 やはりまた楽しそうに、「変な坊主や」と言った。

「何かを掛けて戦えませんな、あんさんは」
「そうだな。脱藩して国に命を捧げるとか、凄いわ」
「あらあら殺されますよ」
「あれも宗教のようなものだからな。あり得るな」

 また皮肉をと翡翠が笑う。
 つくづくこの坊主は純粋で己に忠実なんだ。これが、人のあるべき姿なのかもしれないと思わされる不思議。
 
 雑談ばかりしていれば、漸く件の寺に辿り着いた。
 寺の前ふと、朱鷺貴が「ここ、天台宗てんだいしゅうか?」と真面目な面で言う。

「さぁ」
「だったらマズイな」
「何故ですか?」
「いやぁ…。
 真言宗と天台宗、宗派は大差ないが仲が悪いんだよ」
「は?」
「宗教にも色々あってだな」
「はぁ、国云々より小さな問題ですな。経は一緒なんですか?」
「まぁ…」
「じゃ、行きましょ」

 さっさと連れて行かれそうになるが「待て、」を掛ける。

「殺される、らしいらしい」
「はぁ?あんさんは坊さんやろ?なして」
「ほ、法力とか?」
「それ、あの幹斎さんが?」
「え、うん」
「多分嘘ですよ。さ、早く行きましょ。お金ないやろ?」

 身も蓋もない。
 しかし確かに、仕方ない。
 腹を括り、朱鷺貴はその寺、“天命寺てんめいじ”に向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

影武者の天下盗り

井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」 百姓の男が“信長”を演じ続けた。 やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。 貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。 戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。 炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。 家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。 偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。 「俺が、信長だ」 虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。 時は戦国。 貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。 そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。 その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。 歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。 (このドラマは史実を基にしたフィクションです)

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...