Get So Hell?

二色燕𠀋

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神様

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 天命寺の石段を登り門を潜った瞬間に、一人の幼い小姓が箒を片手に寄ってきて「法師様ですね!」と興奮したように言った。

 圧倒。
 これは予想だにしなかった反応。
 朱鷺貴にはただ心中、後ずさるような気概を持ち合わせた。つまりは、食い下がったのだ。

「あの、どこからいらしたんですか!」
「え、あの、」
「法師様だー!」

 何人か群がってきた。
 「人気ですねぇ、坊様は」と、翡翠すら苦笑していた。そんな翡翠も、薬箱を背負っているわけで。

「やはり、いらっしゃいましたねお薬屋さん!」と。

「え、なんやそれ」

 と困惑し始めるくらいに寺の若い小姓が2人に群がった。

「神は信じるものですね」
「よし、和尚おしょう様の元へお連れしよう!」

 それは有難いのだが…。
 間違いなく勘違いをされている。
 しかし「早く早く」と小姓たちに奥へ引っ張られるように促される。

「ちょっ、ちょっと待った!」

 思わず朱鷺貴が怖じけ付いてしまった。そしてふと、真横の木陰から「何をしているんですか」と。

 木に凭れ腕を組み堂々とした坊主が、小姓を制するように言った。

西運さいうん様!」
「もし、貴殿方はどちらから?」
「あぁ、えぇと…」

 朱鷺貴は漸く小姓から開放され、懐から幹斎の添え状を出した。

「…巡業の旅をしている、京、條徳寺の南條と申す」
「そちらさんは?」

 酷く挑戦的な、なんだか嘲笑うような態度の坊主。

 やはり、そんなものだ。

 しかし翡翠は、朱鷺貴に掠めた心配よりは大人な対応で「従者、翡翠と申します」と坊主に頭を下げた。

「ほぅ…」
「よろしければ旅の傍ら、こちらで少し修行の一貫として」
「あぁはいわかりました。最上僧へお通しすればよろしいですか?」
「は、はぁ…」

 なんだか鼻に掛かる態度でその坊主は小姓を使うように顎で奥の本殿に促した。

 それに小姓たちは閉口し、しかし大人しく「どうぞ」とすごすごし始めた。どうやら確かにその、西運と呼ばれた坊主はそこそこ偉いようだ。

「ウチには病人が居ります故、寄る前に身を改めて頂いたら如何だ皆の者」

 うわっ。
 出た、陰険。
 と心の中で朱鷺貴は思うが従者、翡翠は案外素直そうに「病人、ですか?」と坊主に訪ねた。

「はい。最上僧、八鶴やつるは死に病を煩っております故」
「そいで隔離してはるのですか?」
「隔離、とは少し語弊がある。療養して頂いております」
「病は、何を?」
「はぁ、見たところ薬をお持ちなんでしょうか?貴方は」
「そうだ、その為に共に旅をしている」

 流石にそろそろ雲行きが不穏だし、何よりこの気質は朱鷺貴が気に入らない。割って入れば「そうですか、」と、やはり西運は嘲笑う態度。

「…その伝承は條徳寺最高層の幹斎から教わった技だが、病によってはお役に立てるか?」
「はぁ、まぁ浪人でないのはわかりました。袈裟がちゃんとしていますね。私よりは偉い立場でしょうが、私にもそれは判断しかねますな。まぁ、会ってみたら如何でしょうか」
「あぁ。奥か?」
「そうですね、どうぞお気を付けて」

 いちいち腹が立つ物言いだな。

 小姓がちらちらと自分達を見るので「我々で行ける」と、低い声で朱鷺貴が制すれば「ご無礼」と、翡翠は笑顔ながら軽く頭を下げて朱鷺貴に着いていく。

 二人きりになってみて、「トキさん」と翡翠に声を掛けられた。

「あんさん、案外友好的じゃありませんな」
「…あぁいうのは胸糞悪いんだよ、高々坊主がしゃしゃり出やがって」
「まぁ、わかりますが。やけに突っ掛かりましたなぁ」
「そうか?」

 まぁ確かに。自覚はある。
 翡翠が突っ掛かりやしないかと思ったのだが、案外自分の方がそうしてしまったらしい。

「…わてはわりと慣れてるんで躱しましたが」
「慣れる?」
「そこ食いつかんでくださいな。わてかてそれ程ろくには生きとりませんから」
「…大人だなぁ、お前」

 何にイラつくのか。
 わかっている。

「…あぁ悪い。少し、昔を思い出したんだ」
「…満足しました?」
「いや。だが…」
「当たるならわてにしてくださいな。あんさん、言うて今の身分なんて日本では、素浪人と変わらんやろうて」
「そうだけど、」
「わてのイラつきはどうと?」
「…なんだよ、悪かったって」

 どうやら翡翠もああ見えてイライラはしたようだ。それには素直に謝れた。

「…あんさんのそゆとこ、まぁ嫌いじゃありませんが従者は身が持ちません」
「あぁ…」

 釈然としない。
 取り敢えず翡翠には、「身分って、なんだろうな」と投げ掛ける、試しに。

「生まれついたもんでしょ、」
「お前、元はなんだった?」
「はぁ、まぁ、町人と言ったところですかね」
「そうか」

 ならやはり。

「気にすることありまへん。今は俗世、捨てても捨てなくとも、ほとんどないんで」
「そのはずだな。やはり悪かったな」
「わかって頂けたなら従者として居る意味があります」
「その言い方止めよう。それは口上でいい」
「あら、」

 目をぱちくりとし、驚いたような表情をする翡翠を少しばかり微笑ましく感じた。それから笑顔で「優しい人やねぇ」と、態とらしい態度で言うのには、

「やっぱなし。ムカつく」
「なんでぇ?」
「ちょっと感心した俺がバカだった」

 それから翡翠はブスくれて「なんやねん」とそっぽを向く。

 考えてみればこれもまた、珍しい気遣いだったなと朱鷺貴は気付いた。
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