心中 Rock'n Beat!!

二色燕𠀋

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卯月と紅葉

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 依田はとても淡々と、「でもさぁ」と言いながら麻婆茄子と一升瓶を持ってきた。

 それを置いてからまた、箸と陶器を取りに行き、「俺ね、」と続けるのが最早マイペースを通り越してファンキーだ。おかしい。こいつなんか頭がおかしい。

「そう言えば高校の頃とかマジ、三味線しかやってこなくてさぁ、そうだバンドハマってモテまくってた奴ら見て羨ましかったよなぁ、とか思ってさぁ。
 それかなぁとかも思っちゃったの。
 ねぇ、亀ちゃんなんでバンドやってんの?」
「はぁ?
 んまぁ…、カート・コーバンじゃね?」
「は?」
「横文字だけど人名だよ。
 カート・コーバン。ニルヴァーナのボーカル。バイセクシャルかもとか言ってた妻子持ちのヤク中。ピストル自殺した人」
「えそれなんて刺激強いの。とても反抗期みたいな人生」
「アナーキーというかバイオレ」

 あ。

「穴が開いているの?バイな俺なの?」
「違う違う。うーん、なんで依田ってこう異文化コミュニ…異文化交流なんだろ。ねぇ流石に嘘臭いよねだってさっきわりと横文字出てきたじゃん」
「あ、そう!だからさぁ、俺、のんちゃんとお近付きになりたいから英語覚えようかなって」
「わかんないなにそれ、え?思考回路が吹っ飛んでねぇ?」
「だってあの人、外国人じゃん?」
「え違うよ?札幌さっぽろ人だよ?」
「えっ」

 焼酎を注ぎながら固まる依田。
 そう言えばあたしもこいつに会ったとき初見で言われたな!「東南アジアですか?」って。
 殺してやろうと本気で思ったわ、そう言えば。こいつ以外に言われたことがない。

 しかし依田はそうだ、ウチのメンバー全員に「TOSHIZOUとは…そちらの言葉でどういった意味なんですか?」だの「けんじ、さんは、つまりその…永住権とか」だの「MINAちゃんは、あの、みーな?」とか言っていたな。

 こいつの中では多分、英語を知っていれば皆外国人なんだ。

 お前は江戸か。開国前か。鎖国か。今度はのんちゃんまでか。曽根原なのに。曽根原そねはら朔夫のりおとかいう日本名前にしてもか。すげぇ画数多すぎる名前だが多分ドキュンネームにしては詩的すぎる名前でもか。お前ってスゴい。脳内変換技術が最骨頂だわ。心の中で毒吐き大渋滞。

「札幌って今日本だよね蝦夷えぞだよね」
「うん」
「あぁ~よかったぁ~!
 俺真面目にさぁ、師匠にぶっ殺される覚悟で語学留学するのかと待った、蝦夷ぉ!?」
「うん北海道」
「あぁ~、よかったぁ~、日本じゃん。あいぬ語わからんよとか思っちゃ」
「面倒臭い。大体普通に喋ったじゃん」

 お前のトークの方があたし的には宇宙電波交信だよバカ。心の中で毒吐く。

「あそうだね。舞い上がっちゃった。まぁ実はあんまりわかってなかったの、のんちゃんとの話」
「うん。…は?」
「だから語学留学しなきゃなぁって。でもダメかぁ。アイヌもあるからあの英語なのかぁ」
「ねぇ依田、根本的なこと聞いていい?お前って何学校卒業?」
「え?大阪府立上道中学校だよ?」

 わかる?と聞かれた。
 わかんねぇよただ知りたいことはわかったよ。

「中卒だよな。中学英語どうした」
「え?」

 キョトンとされた。
 は?

「understand?」
「は?」
「なんで?」
「英語って外国語だよ?俺日本人だよ?」
「いややるっしょ」
「え?」

 こいつアホだ。

「…じゃぁ何勉強したの?」
「うーん、国社数理…」
「え?英語やらない中学なの?」
「いや多分やったんじゃない?ただ俺行ってないから」
「は?」
「ほら、父が…」

 依田は少し切なそうに笑った。
 あぁ、なるほど。

「三味線ばっかだったんか」
「そーそー」
「とは言ってもなぁ…」

 あたしだって、
まぁ、高卒だけど。

「そういうのって、英語のスキル…あの、書き込むヤツかな?」
「あっ!
その手があるじゃない!流石高卒!スゴい頭良い!
 俺明日買ってくる!」
「いや止めときなよだって兄弟子とかししょーとかに殺されるでしょ芸道の鬼」
「え?床本読んでるフリ出来るよ、俺そういうのわりと得意だよ。
 エロ本しかバレたことないよ」
「エロ本開いて三味線弾いてんのかお前」

 一瞬同情してやった私なんだったの。
 「いやほら艶の」とか言い訳しようとしている依田に、「もうええアホ!」と、空いた麻婆茄子の皿を取り上げて流しに持って行く。
 「ちょっと亀ちゃ~ん」と情けない。

 これが“芸道の鬼”ねぇ。笑わせる。どんだけ文楽、人形浄瑠璃ってやつぁあ楽なんだ。

 大体ねぇ、依田いわく舞台合わせが一回とか調子こいとるわ、それがユネスコとかぁ、古いからってなんなん?ズルくない?大体このエロ本三味線が人気とか、はぁ!?

「ねぇ依田」
「えなに」

 シンクから話し掛ける。

「まさかそのエロ本てさぁ」
「あぁ、わりとちゃんとした袋閉じのねぇ、あの、多分亀ちゃんが想像してる“葛飾かつしか北斎ほくさい”みたいな春画じゃなく」
「うんありがとう。それ想像してなかった。
 あの写真的なやつを?いつどこで?」
「本番中穂咲兄さんの横で」
「死ねばいいなお前」
「いやでもあの日の兄さん声に艶が」
「死ねばいいなお前。素質あったなやはり」

 そんな気はしたんだが。
 まさかそーゆー素質だとは思わなかったよこのにやけ面。薄汚れた古典芸能だわお前のせいでなこのアホ面め。
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