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奥庭に散る業火の仕業
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のんちゃんがコーヒーを飲む。その間が生々しい。
「そんなときに俺たちの共通の友達が死んじゃってさ。
傷心しちゃってね…もう、それだけでなんだか最近雰囲気が重くて。
丁度ね、そいつ、ベースやってたんだ。高畑と特に仲良くて。それで高畑、決心したみたい」
「そこに入ろうと」
「うん。
俺はまぁ、リーダーだし、というかね、もう二人には賛成で。
だけど一人で考えてみたら、やっぱ、こう、寂しくてさ。どうしよっかなって」
「うん」
「解散せずに長期休止、これもありかもしれないけど、束縛な気もしちゃって。いま明るい言葉をたくさん考えて二人に声を掛けたいけど、なんかなぁって」
亀ちゃんは「そっかぁ…」と言いコーヒーを飲んだ。
「でも解散だとさ、やっぱり二人も悲しいと思うんだ。だから、うん…解散って告げてあげるべきか悩んでる」
「のんちゃん。
けどのんちゃん、やっぱりなんて言うんだろ、無理にポジティブじゃなくてもいいけどさ、まぁ、のんちゃんってそーゆー人ですよね」
亀ちゃんはふと笑った。
「のんちゃんはどうしたいんですか」
「まぁ、やっぱり…しがみつこうが、売れなかろうが、解散って寂しい。二人が脱退を決めてから、色々考えてる。俺がこんなに寂しい、けど二人もそうみたいだから、どうしたらいいのかなって」
「のんちゃん、俺さ」
俺が話せば二人は一気にこちらを見てきた。何を語ろう、口上を延べようか。
「俺も少し前まで、一人で三味線やってたんです。
普通三味線って、相方を作るもんなんですが、俺は特定の太夫を持たなかったんです。
俺、凄く世話になった人がいて。その人とずっとやってたんですけどね。その人は研修第一生でした。凄く熱心で味があって、少し年上だったんですが、俺にも丁寧で。
けどね、ある日死んじゃって…。
そのまま俺はもう、誰とも組まず、その場その場でやってきました。これは、反抗心も多分ありました」
「反抗心?」
「古い仕来たりは今でもまぁ、生きていて。
その人ね、なかなか稽古をつけてもらえなくて、だけどだから、演目によって、それが上手い先輩や師匠のところに通いつめるような、そんな人だった」
思い出す。
冬の日の、寒そうなあの人を。
「ジャグジー…」
「でも決めたんです。だから俺はそうやって我が道を行こうと。何にも捕らわれず、自分勝手に近い気持ちでも。
今になって、これは俺なりに受け止めたのかもしれないと、思い始めたときに今の相方に声を掛けられた。
最初はまた一度きりかと思ったけど、彼が、『君なら、今の君でなければ』と、言ってくれた。だから今に至るんですよ」
あのときの演目は、丁度父親の最後の公演だったなぁ。
「やっぱり俺も忘れられない」
いつだってあの人は、どんなときでも認めてくれて、笑顔で優しかった。
「新しく何かを始めるのはまぁ、勇気がいるけど、正直反抗心より今の方が、あの人喜ぶかな、とか思って。考えたら一人は、そう」
「ジャグジーありがとう。
決めた」
ふとのんちゃんが、哀愁を越え、しかしまだ希望は少し先、夢を観ているような、そんななんとも言えない笑顔で言った。
「解散しない」
そう、はっきりと。
「けど、一人でやる」
「のんちゃん?」
「だって、もし…。
解散って、寂しいし切ないよ正直。だから一人でやる。うん、グラシアは。
この思いは俺が持ってる。それでやってく。だってきっとファンも悲しい。だからやる。一人でポジティブに前を向いてやる」
「何それのんちゃん」
亀ちゃんがのんちゃんを見て、目をキラキラさせて言う、「カッコいい」と。
「けど一人ってやっぱくじけるときもありますよ。
それ聞けて良かった。
実はあたしも解散センチメンタル、でもファックだったんで、なんか新しい」
「え、そうだったの!?」
「はい、まぁ」
「じゃぁ」
今度ののんちゃんの笑顔は凄く、さっぱりとした物だった。
「曲作るときは呼ぶかもね。
でも孤独は共有したくないから、サポートでもいい?ほぼメンバーみたいだったとしてもさ」
「え?マジ?」
「うん」
「あぁ…」
思わず感嘆した。
なかなかないよその感性。俺にはそんな強さはなかったよ。
「カッコいい」
「ありがと。
きっとこれから俺、笑われちゃうかも。でもいいや。ジャグジー、俺君の話聞いたらそう思った」
そうなのか。
「音楽しか俺にはないから」
「ははぁぁ…」
もう。ひれ伏しちゃう。なにそれ。
でも、わかるような気がする。
「のんちゃん。
また飲もう。共有とかいいから。俺、のんちゃん好きだ」
「えっ、依田、それ」
「そうじゃなくて。いやそうだけど。
のんちゃん、これからも…」
夢を観せてください。
夢を観てください。
それはのんちゃんには言わなかった。それこそ俺の押し付けだ。
色々な人を考えさせる、楽しませる、感慨に持ち込む。音楽の根本はそう、執念やら、火に燃えるような情熱だ。
ですよね、月代太夫。
俺はどうだろう。
文楽を愛し、自分を愛し、まわりを愛して来ただろうか。
のんちゃんのおかげで、少しだけ考えた。
だらだらしてはいけないのだと。俺たちはいつでも、夢を売って届けてるんだから。
「やっぱ、三味線早く直さなきゃ」
明日、ちゃんと師匠に見せなきゃ、自分を。父から離れても立派にやりたい、昔の相方を引きずっても、意思を注ぎたいと。
色々な考えが混じる。
けどいいや、所詮文楽は三業一体だ。
「そんなときに俺たちの共通の友達が死んじゃってさ。
傷心しちゃってね…もう、それだけでなんだか最近雰囲気が重くて。
丁度ね、そいつ、ベースやってたんだ。高畑と特に仲良くて。それで高畑、決心したみたい」
「そこに入ろうと」
「うん。
俺はまぁ、リーダーだし、というかね、もう二人には賛成で。
だけど一人で考えてみたら、やっぱ、こう、寂しくてさ。どうしよっかなって」
「うん」
「解散せずに長期休止、これもありかもしれないけど、束縛な気もしちゃって。いま明るい言葉をたくさん考えて二人に声を掛けたいけど、なんかなぁって」
亀ちゃんは「そっかぁ…」と言いコーヒーを飲んだ。
「でも解散だとさ、やっぱり二人も悲しいと思うんだ。だから、うん…解散って告げてあげるべきか悩んでる」
「のんちゃん。
けどのんちゃん、やっぱりなんて言うんだろ、無理にポジティブじゃなくてもいいけどさ、まぁ、のんちゃんってそーゆー人ですよね」
亀ちゃんはふと笑った。
「のんちゃんはどうしたいんですか」
「まぁ、やっぱり…しがみつこうが、売れなかろうが、解散って寂しい。二人が脱退を決めてから、色々考えてる。俺がこんなに寂しい、けど二人もそうみたいだから、どうしたらいいのかなって」
「のんちゃん、俺さ」
俺が話せば二人は一気にこちらを見てきた。何を語ろう、口上を延べようか。
「俺も少し前まで、一人で三味線やってたんです。
普通三味線って、相方を作るもんなんですが、俺は特定の太夫を持たなかったんです。
俺、凄く世話になった人がいて。その人とずっとやってたんですけどね。その人は研修第一生でした。凄く熱心で味があって、少し年上だったんですが、俺にも丁寧で。
けどね、ある日死んじゃって…。
そのまま俺はもう、誰とも組まず、その場その場でやってきました。これは、反抗心も多分ありました」
「反抗心?」
「古い仕来たりは今でもまぁ、生きていて。
その人ね、なかなか稽古をつけてもらえなくて、だけどだから、演目によって、それが上手い先輩や師匠のところに通いつめるような、そんな人だった」
思い出す。
冬の日の、寒そうなあの人を。
「ジャグジー…」
「でも決めたんです。だから俺はそうやって我が道を行こうと。何にも捕らわれず、自分勝手に近い気持ちでも。
今になって、これは俺なりに受け止めたのかもしれないと、思い始めたときに今の相方に声を掛けられた。
最初はまた一度きりかと思ったけど、彼が、『君なら、今の君でなければ』と、言ってくれた。だから今に至るんですよ」
あのときの演目は、丁度父親の最後の公演だったなぁ。
「やっぱり俺も忘れられない」
いつだってあの人は、どんなときでも認めてくれて、笑顔で優しかった。
「新しく何かを始めるのはまぁ、勇気がいるけど、正直反抗心より今の方が、あの人喜ぶかな、とか思って。考えたら一人は、そう」
「ジャグジーありがとう。
決めた」
ふとのんちゃんが、哀愁を越え、しかしまだ希望は少し先、夢を観ているような、そんななんとも言えない笑顔で言った。
「解散しない」
そう、はっきりと。
「けど、一人でやる」
「のんちゃん?」
「だって、もし…。
解散って、寂しいし切ないよ正直。だから一人でやる。うん、グラシアは。
この思いは俺が持ってる。それでやってく。だってきっとファンも悲しい。だからやる。一人でポジティブに前を向いてやる」
「何それのんちゃん」
亀ちゃんがのんちゃんを見て、目をキラキラさせて言う、「カッコいい」と。
「けど一人ってやっぱくじけるときもありますよ。
それ聞けて良かった。
実はあたしも解散センチメンタル、でもファックだったんで、なんか新しい」
「え、そうだったの!?」
「はい、まぁ」
「じゃぁ」
今度ののんちゃんの笑顔は凄く、さっぱりとした物だった。
「曲作るときは呼ぶかもね。
でも孤独は共有したくないから、サポートでもいい?ほぼメンバーみたいだったとしてもさ」
「え?マジ?」
「うん」
「あぁ…」
思わず感嘆した。
なかなかないよその感性。俺にはそんな強さはなかったよ。
「カッコいい」
「ありがと。
きっとこれから俺、笑われちゃうかも。でもいいや。ジャグジー、俺君の話聞いたらそう思った」
そうなのか。
「音楽しか俺にはないから」
「ははぁぁ…」
もう。ひれ伏しちゃう。なにそれ。
でも、わかるような気がする。
「のんちゃん。
また飲もう。共有とかいいから。俺、のんちゃん好きだ」
「えっ、依田、それ」
「そうじゃなくて。いやそうだけど。
のんちゃん、これからも…」
夢を観せてください。
夢を観てください。
それはのんちゃんには言わなかった。それこそ俺の押し付けだ。
色々な人を考えさせる、楽しませる、感慨に持ち込む。音楽の根本はそう、執念やら、火に燃えるような情熱だ。
ですよね、月代太夫。
俺はどうだろう。
文楽を愛し、自分を愛し、まわりを愛して来ただろうか。
のんちゃんのおかげで、少しだけ考えた。
だらだらしてはいけないのだと。俺たちはいつでも、夢を売って届けてるんだから。
「やっぱ、三味線早く直さなきゃ」
明日、ちゃんと師匠に見せなきゃ、自分を。父から離れても立派にやりたい、昔の相方を引きずっても、意思を注ぎたいと。
色々な考えが混じる。
けどいいや、所詮文楽は三業一体だ。
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