心中 Rock'n Beat!!

二色燕𠀋

文字の大きさ
29 / 74
奥庭に散る業火の仕業

3

しおりを挟む
 のんちゃんがコーヒーを飲む。その間が生々しい。

「そんなときに俺たちの共通の友達が死んじゃってさ。
 傷心しちゃってね…もう、それだけでなんだか最近雰囲気が重くて。
 丁度ね、そいつ、ベースやってたんだ。高畑と特に仲良くて。それで高畑、決心したみたい」
「そこに入ろうと」
「うん。
 俺はまぁ、リーダーだし、というかね、もう二人には賛成で。
 だけど一人で考えてみたら、やっぱ、こう、寂しくてさ。どうしよっかなって」
「うん」
「解散せずに長期休止、これもありかもしれないけど、束縛な気もしちゃって。いま明るい言葉をたくさん考えて二人に声を掛けたいけど、なんかなぁって」

 亀ちゃんは「そっかぁ…」と言いコーヒーを飲んだ。

「でも解散だとさ、やっぱり二人も悲しいと思うんだ。だから、うん…解散って告げてあげるべきか悩んでる」
「のんちゃん。
 けどのんちゃん、やっぱりなんて言うんだろ、無理にポジティブじゃなくてもいいけどさ、まぁ、のんちゃんってそーゆー人ですよね」

 亀ちゃんはふと笑った。

「のんちゃんはどうしたいんですか」
「まぁ、やっぱり…しがみつこうが、売れなかろうが、解散って寂しい。二人が脱退を決めてから、色々考えてる。俺がこんなに寂しい、けど二人もそうみたいだから、どうしたらいいのかなって」
「のんちゃん、俺さ」

 俺が話せば二人は一気にこちらを見てきた。何を語ろう、口上を延べようか。

「俺も少し前まで、一人で三味線やってたんです。
 普通三味線って、相方を作るもんなんですが、俺は特定の太夫を持たなかったんです。
 俺、凄く世話になった人がいて。その人とずっとやってたんですけどね。その人は研修第一生でした。凄く熱心で味があって、少し年上だったんですが、俺にも丁寧で。
 けどね、ある日死んじゃって…。
 そのまま俺はもう、誰とも組まず、その場その場でやってきました。これは、反抗心も多分ありました」
「反抗心?」
「古い仕来たりは今でもまぁ、生きていて。
 その人ね、なかなか稽古をつけてもらえなくて、だけどだから、演目によって、それが上手い先輩や師匠のところに通いつめるような、そんな人だった」

 思い出す。
 冬の日の、寒そうなあの人を。

「ジャグジー…」
「でも決めたんです。だから俺はそうやって我が道を行こうと。何にも捕らわれず、自分勝手に近い気持ちでも。
 今になって、これは俺なりに受け止めたのかもしれないと、思い始めたときに今の相方に声を掛けられた。
 最初はまた一度きりかと思ったけど、彼が、『君なら、今の君でなければ』と、言ってくれた。だから今に至るんですよ」

 あのときの演目は、丁度父親の最後の公演だったなぁ。

「やっぱり俺も忘れられない」

 いつだってあの人は、どんなときでも認めてくれて、笑顔で優しかった。

「新しく何かを始めるのはまぁ、勇気がいるけど、正直反抗心より今の方が、あの人喜ぶかな、とか思って。考えたら一人は、そう」
「ジャグジーありがとう。
 決めた」

 ふとのんちゃんが、哀愁を越え、しかしまだ希望は少し先、夢を観ているような、そんななんとも言えない笑顔で言った。

「解散しない」

 そう、はっきりと。

「けど、一人でやる」
「のんちゃん?」
「だって、もし…。
 解散って、寂しいし切ないよ正直。だから一人でやる。うん、グラシアは。
 この思いは俺が持ってる。それでやってく。だってきっとファンも悲しい。だからやる。一人でポジティブに前を向いてやる」
「何それのんちゃん」

 亀ちゃんがのんちゃんを見て、目をキラキラさせて言う、「カッコいい」と。

「けど一人ってやっぱくじけるときもありますよ。
 それ聞けて良かった。
 実はあたしも解散センチメンタル、でもファックだったんで、なんか新しい」
「え、そうだったの!?」
「はい、まぁ」
「じゃぁ」

 今度ののんちゃんの笑顔は凄く、さっぱりとした物だった。

「曲作るときは呼ぶかもね。
 でも孤独は共有したくないから、サポートでもいい?ほぼメンバーみたいだったとしてもさ」
「え?マジ?」
「うん」
「あぁ…」

 思わず感嘆した。
 なかなかないよその感性。俺にはそんな強さはなかったよ。

「カッコいい」
「ありがと。
 きっとこれから俺、笑われちゃうかも。でもいいや。ジャグジー、俺君の話聞いたらそう思った」

 そうなのか。

「音楽しか俺にはないから」
「ははぁぁ…」

 もう。ひれ伏しちゃう。なにそれ。
 でも、わかるような気がする。

「のんちゃん。
 また飲もう。共有とかいいから。俺、のんちゃん好きだ」
「えっ、依田、それ」
「そうじゃなくて。いやそうだけど。
のんちゃん、これからも…」

 夢を観せてください。
 夢を観てください。

 それはのんちゃんには言わなかった。それこそ俺の押し付けだ。

 色々な人を考えさせる、楽しませる、感慨に持ち込む。音楽の根本はそう、執念やら、火に燃えるような情熱だ。

 ですよね、月代つきしろ太夫。

 俺はどうだろう。
 文楽を愛し、自分を愛し、まわりを愛して来ただろうか。

 のんちゃんのおかげで、少しだけ考えた。

 だらだらしてはいけないのだと。俺たちはいつでも、夢を売って届けてるんだから。

「やっぱ、三味線早く直さなきゃ」 

 明日、ちゃんと師匠に見せなきゃ、自分を。父から離れても立派にやりたい、昔の相方を引きずっても、意思を注ぎたいと。

 色々な考えが混じる。
 けどいいや、所詮文楽は三業一体だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...