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橙色海岸にて名付ける
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『I will never brother you
I will never promise to
I will never hollow you
I will never brother you』
照明が赤や紫に光る。彼のしゃがれたやる気のない英語、狭いバーの、目の前にいる仕事帰りのおっさん方の視線。
そうそう、燃え上がっちゃうよねぇ、これ。
何よりカート、声がただれてるのが堪らないのよカート!暴れちゃう~暴れちゃう~!
『Pain』バシン『Pain』バシンって力が入っちゃうのよカート!
しかしダンスは大体1番で終わり。You know you're right、私は良い子よ。
「ふ~ぅっ!」
客席が沸いて普通にそれから接客。あぁ現実。正直暑いわ。
でもカートの後の店内音楽。あたしはママさんに頼み、のんちゃんの曲を入れたのだ。
何曲かダンスナンバーチックなジャパンオルタナティブを流して。たまにお客さんからも「雰囲気違うけどおっさんにはいいね、この曲」と評判がよかった。
もう「そうなんですよ~、これツキコのリスペクト」と、何故だかわからんがあたしはのんちゃんの営業じみたことしてる。だって、ねぇ。
『Let's dancing everybody there
Let's dancing everybody show
Let's dancing everybody there
悲しさなんて ぶっ飛ばしちゃえ』
耳に残る~。れっ、だんしん えびーぃばーでぃぜぃ、も、へい へい、も大差ないよ音楽って。
カートの英語がわかりにくいとかじゃなく!のんちゃんが舌足らずとかじゃなく。かっこい。
あー、ベースやりてぇなぁと、高畑さんのベース聞いていたら思った。
いいやい。悲しさなんてぶっ飛ばしちゃえmy いい子。なにそれセンスない。
「今日のツキコ、ノリノリだよね」
ママさんに言われて気付く。確かに今日、あたしは超機嫌が良いのです。
「ええ~、べっつにぃ~」
「ほらデレデレしてる。なに。気持ち悪いねぇツキコ」
いやぁだってさぁ。
いや、特になんもないんだけどさ。
仕事ってこーゆーとき、自分を忘れられていい。なんとなく最近センチメンタルだったから。
今だけある意味心機一転。依田が今日から家にいないのだ。大阪公演の時はゴッド師匠の家に泊まり込むのだそうで。
「行ぎだぐなぁぁい!」
とアホみたいに今朝方駄々をこねて朝御飯を作っていたあやつにあたしは、
隣に立ってケツ肉を掴んでやったのだ。
「いやぁぁ、エッチ亀ちゃんんん!」
朝からマジであいつ元気過ぎてもう、煙草の煙を顔面掛けしてやりましたわ。咳き込みながら味噌汁をかき回してましたよ、あいつ。
「気持ち悪いんだよクソ文楽」
「ホントにさぁ、なんで朝そんないつも機嫌悪いんだよ、よりブスになるよ亀ちゃん!」
「悪かったな、へっ」
もう一度むにゅっと掴んでぼんやりリビングにいましたよ。
朝はコーヒーに煙草だ、これに限る。セッター7ミリ。これくらいで丁度いい。
「もう見映えがおっさんだよね亀ちゃん」
「んぁ?あぁ」
「バンドさんってなんでそんなヤンキーチックなの?」
「そうでもねぇとやってらんないっしょ」
「あぁそう。
あ、亀ちゃんあのね。俺大阪行くんだけどなんかCD貸してくれない?のんちゃんの」
「あいいよ」
それから。
早朝テンション、ダルいながら寝不足な私は妙なハイテンションをかまし、
「あ、これ“有頂天”さんのレーベルから出したあんま売ってないやつ。
あ、これもいいな4曲だけど。のんちゃんってジャケットかっこいいよね。
あ、これ!わりかし最近!
ってかなんでCD?聴けんの?」
「うん。ほらこれ」
旅立つ前に依田は見せてくれました。
今やあまり、いや多分もう絶滅したであろうCDのデカいプレイヤーを。
それはあたしですら小さいときの代物だ。
「…マジで?」
「え、うん」
「まぁいいけどめちゃかさばるやん」
「そうなんだよ大きくてさー。最早撥一本置いてこうかな」
「いやあかんやろ。いや流石に鞄には」
これまた非常に珍しい。
もうなんだろ、旅行鞄。最早私世代で使ったのが最後なのではないか、みたいなあの、部活着入れみたいなやつを引っ張ってきたので。
「…あたしのキャリーバック貸してやろうか?んなの荷物入んのかし」
「女性ほど荷物は少ないから。大体これでもデカいよ、パンツと道具しかいれないもん」
「いや別に入れてよそこは」
「女の子ってなんであんなに鞄持ちたがるんだろ。小っせぇポーチ?バック?みたいなやつ3つ持ってる意味わかんないよね」
「あー、それはわかるわ」
結局。
音源はケータイ(ガラケー)にパソコンを介して入れ、鞄はそのまま持って行ったのだった。
長距離で荷物を修学旅行鞄に入れる意味がわからない。素直にキャリーバックに入れりゃいいのに、「いや、死体運んでる気分になりそうだから」と、三味線入れと共に依田は持ってった。
はっきり言ってそれなら、女子の鞄をとやかく言う意味がわからない。つくづく変なやつだ。
I will never promise to
I will never hollow you
I will never brother you』
照明が赤や紫に光る。彼のしゃがれたやる気のない英語、狭いバーの、目の前にいる仕事帰りのおっさん方の視線。
そうそう、燃え上がっちゃうよねぇ、これ。
何よりカート、声がただれてるのが堪らないのよカート!暴れちゃう~暴れちゃう~!
『Pain』バシン『Pain』バシンって力が入っちゃうのよカート!
しかしダンスは大体1番で終わり。You know you're right、私は良い子よ。
「ふ~ぅっ!」
客席が沸いて普通にそれから接客。あぁ現実。正直暑いわ。
でもカートの後の店内音楽。あたしはママさんに頼み、のんちゃんの曲を入れたのだ。
何曲かダンスナンバーチックなジャパンオルタナティブを流して。たまにお客さんからも「雰囲気違うけどおっさんにはいいね、この曲」と評判がよかった。
もう「そうなんですよ~、これツキコのリスペクト」と、何故だかわからんがあたしはのんちゃんの営業じみたことしてる。だって、ねぇ。
『Let's dancing everybody there
Let's dancing everybody show
Let's dancing everybody there
悲しさなんて ぶっ飛ばしちゃえ』
耳に残る~。れっ、だんしん えびーぃばーでぃぜぃ、も、へい へい、も大差ないよ音楽って。
カートの英語がわかりにくいとかじゃなく!のんちゃんが舌足らずとかじゃなく。かっこい。
あー、ベースやりてぇなぁと、高畑さんのベース聞いていたら思った。
いいやい。悲しさなんてぶっ飛ばしちゃえmy いい子。なにそれセンスない。
「今日のツキコ、ノリノリだよね」
ママさんに言われて気付く。確かに今日、あたしは超機嫌が良いのです。
「ええ~、べっつにぃ~」
「ほらデレデレしてる。なに。気持ち悪いねぇツキコ」
いやぁだってさぁ。
いや、特になんもないんだけどさ。
仕事ってこーゆーとき、自分を忘れられていい。なんとなく最近センチメンタルだったから。
今だけある意味心機一転。依田が今日から家にいないのだ。大阪公演の時はゴッド師匠の家に泊まり込むのだそうで。
「行ぎだぐなぁぁい!」
とアホみたいに今朝方駄々をこねて朝御飯を作っていたあやつにあたしは、
隣に立ってケツ肉を掴んでやったのだ。
「いやぁぁ、エッチ亀ちゃんんん!」
朝からマジであいつ元気過ぎてもう、煙草の煙を顔面掛けしてやりましたわ。咳き込みながら味噌汁をかき回してましたよ、あいつ。
「気持ち悪いんだよクソ文楽」
「ホントにさぁ、なんで朝そんないつも機嫌悪いんだよ、よりブスになるよ亀ちゃん!」
「悪かったな、へっ」
もう一度むにゅっと掴んでぼんやりリビングにいましたよ。
朝はコーヒーに煙草だ、これに限る。セッター7ミリ。これくらいで丁度いい。
「もう見映えがおっさんだよね亀ちゃん」
「んぁ?あぁ」
「バンドさんってなんでそんなヤンキーチックなの?」
「そうでもねぇとやってらんないっしょ」
「あぁそう。
あ、亀ちゃんあのね。俺大阪行くんだけどなんかCD貸してくれない?のんちゃんの」
「あいいよ」
それから。
早朝テンション、ダルいながら寝不足な私は妙なハイテンションをかまし、
「あ、これ“有頂天”さんのレーベルから出したあんま売ってないやつ。
あ、これもいいな4曲だけど。のんちゃんってジャケットかっこいいよね。
あ、これ!わりかし最近!
ってかなんでCD?聴けんの?」
「うん。ほらこれ」
旅立つ前に依田は見せてくれました。
今やあまり、いや多分もう絶滅したであろうCDのデカいプレイヤーを。
それはあたしですら小さいときの代物だ。
「…マジで?」
「え、うん」
「まぁいいけどめちゃかさばるやん」
「そうなんだよ大きくてさー。最早撥一本置いてこうかな」
「いやあかんやろ。いや流石に鞄には」
これまた非常に珍しい。
もうなんだろ、旅行鞄。最早私世代で使ったのが最後なのではないか、みたいなあの、部活着入れみたいなやつを引っ張ってきたので。
「…あたしのキャリーバック貸してやろうか?んなの荷物入んのかし」
「女性ほど荷物は少ないから。大体これでもデカいよ、パンツと道具しかいれないもん」
「いや別に入れてよそこは」
「女の子ってなんであんなに鞄持ちたがるんだろ。小っせぇポーチ?バック?みたいなやつ3つ持ってる意味わかんないよね」
「あー、それはわかるわ」
結局。
音源はケータイ(ガラケー)にパソコンを介して入れ、鞄はそのまま持って行ったのだった。
長距離で荷物を修学旅行鞄に入れる意味がわからない。素直にキャリーバックに入れりゃいいのに、「いや、死体運んでる気分になりそうだから」と、三味線入れと共に依田は持ってった。
はっきり言ってそれなら、女子の鞄をとやかく言う意味がわからない。つくづく変なやつだ。
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