心中 Rock'n Beat!!

二色燕𠀋

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橙色海岸にて名付ける

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 そんなわけで今日は邪魔な三味線弾きが家にいないのである。存分に酒飲んで朝帰りしたり出来る訳であるからして。

 まぁ、有頂天なのだ。

 次のプレイリスト何にしようかな。ケータイを『カウンターの闇』で漁っていたときにふと、留守番電話を発見した。のんちゃんからだった。

『渋ぁで飲んでぅかあ!』

 そしてメール。写真が添付されていた。
 のんちゃんそういや今日、渋谷のライブハウスでライブだったな。

 しかし添付されていた写真は後輩バンドのヤツ。何担当だか知らないし正直見たことあるかすら不明なやつだった。

 誰だろこの髭。とても猫背でスーツ姿のヤンキー顔というか目付きが悪いやつ。誰だろこれ。

 そろそろ店も終わるしと思って返信しようと思ったら、即座に、潰れているドラム、山口さんの写メが送られてきた。

 うわぁ、早く行きたいけど行きたくないやつ。

 のんちゃんに「渋谷のどこで飲んでるんですか」と聞くも帰ってこず。
 まぁいいやとそれから店に戻り、おっさんたちを力一杯苛めまくって店を閉めた。

「あんまり飲み過ぎるんじゃないよ」

 とルーシーさんに言われさらに、

「今日は三味線いないんだからねツキコ。わかったね?」

 釘まで刺された。
 「はぁい」と返事をしてから店を出た時に、まともそうな高畑さんにメールした。
 「迎えに行く、渋谷まで来たら教えて」とか男前やなぁ、と関心。流石ベース担当(偏見)しっかりしてるね~。

 はぁ、しかし疲れたなぁ、今日も。

 バンドがなくなった分、朝起きるのは遅くなったのだけど、

 25にもなってあたしは何をしてるんだろうと辟易する。タクシーを拾いながらイヤホンがんがんにしてのんちゃんを聴きまくった。

「さよならって言えないんだ
僕は、僕のなかで生きていたいから
Let's go start今行こう
Let's go down僕らの世界へ
Let's go start空高く
Let's go down知らない世界へ」

 なんでこれ、凄く明るくて、ギターとかイケイケなのに哀しく聞こえるんだろ。

 意外とのんちゃんが話してくれたことはあたしの胸にキテいた。
 明るそうに見えてあたしには少し、寂しいのんちゃんが映った気がして。

 マジで下北沢ライブは行こうかなぁ。仕事休んで。だってきっと、あたしが見る3人の最後だと思うんだ。

 やはり、お世話になったバンドがこうなるのは悲しいんだな。あたしには大した後輩が居なかったけど、あんなに長くバンドをやったら、きっと、あたしの後輩だってそう思って…

 くれるんだろうか。

 あたしはなんで、バンドやってたんだろ。
 多分、好きだったからだ、音楽が。ただ、それだけじゃインディ止まりだともわかった。その点グラシアは凄い。
 そしてちゃんと遺してくれた。
 あたしらなんて、解散ライブすら、わずかなファンに残さずに終わった。

 なんでバンドやってたんだろ。

 うん、いや素直に。
 やっぱ、音楽好きだったんだ。
 だから辞めないで欲しいけどのんちゃん。
 一人で一体どこに行こうとしてるんだろう。

 渋谷駅に着く頃に高畑さんと待ち合わせした。モヤイの前。
 高畑さんは爽やかにいつも通りに笑って「おつかれー」と言ってくれた。

「悪いね、のんが急に」
「いえ…」
「ツキコ、それ、明日寒くねぇの?」

 なんて普通な会話なんだろう。

「ええ、大丈夫です」

 そっか、と高畑さんが笑った。

「のんちゃん、大丈夫ですか?」
「あー、今日はね、すっげーハイテンションでやってたからめっちゃ酔ってるよ」

 でしょうね。

「俺さぁ」

 ふと高畑さんは語る。

「今日のセトリ、なんかハッピー過ぎてさ、変えてやっちゃったよ。のんさ、ちょっと無理してるかもしれない」
「え?」
「極めつけはライブ中にさ
 あいつチューニング出来なくてさ…強引にセトリになかった曲用のチューニングしてやってさ。
 でもそれが嬉しかったみたいで、3人でセンチメンタルノリしたよ。すげぇよかった」
「…いいなぁ、それ」
「な。
 そんくらいのワガママ、許してくれんだって、ビックリして、でも弾きたいし聴きたかったから嬉しくなったよ」

 そうか。

「高畑さんは、どこまでバンド続けるんですか?」
「恐らく死ぬまで。インディだろうがプロだろうがね」

 そっか。

「それ、happyっすね」
「だよな。音楽って始めたら心中だよな」

 なんて深いお言葉。

「あたしは…」

 そこまで好きかなぁ、音楽。

「まぁ、まだ先だよなツキコは」

 そうかなぁ。

「…ちなみに依田は、心中物嫌いらしいです。でも、やってるんですよね」
「そうか…!」

 何か、思い出したような物言いで、「依田だ、あいつ」と、どうやら本当に思い出したらしかった。

「仕方ないよねぇ、好きなら、嫌いでも」

 そうかなぁ。

「よくわかりません」

 と答えて、あたし達は居酒屋についたのだった。
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