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泉水に映る東雲
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そして我々はついに師匠達の目を掻い潜り、難波の小さなビルについた。
俺はこのライブで初めて“取り置き”というシステムを知った。
連絡してチケットを取っておいてもらい、当日に受付で「依田紅葉です」と名乗りチケットを買う買い方だ。若干安くなるらしい。
勇咲は急遽なので普通に買ったようで。
「ライブはやっぱ3杯だよね」とか言って勇咲はなんかソーダ水みたいな透明な炭酸を買ったが、丁度対バンというやつが始まったようで、ゆったりと立って拝見することにした。
しかし、あまり人はおらず、なんだか小さいスペースに机が何個かだけあったが1箇所、前の方が空いていたので場所取り。
何故か勇咲くんはマスク(ガーゼの)をした。
周りを見ればなるほど、タバコかと知る。そういえば大阪公演は禁煙すると言っていた。
正直なところめちゃくちゃなんだろ、親戚とか知り合いなのかな?感が観客にはあり、新鮮だった。30人くらいだし。
やってるバンドは若い兄ちゃんで、何故か雨合羽みたいな黒い服。
音が良いも悪いもわからないくらい狭いライブ会場だった。ハコと言うやつ。
勇咲も最早淡々と若いバンドを眺めていた。途中で俺が飲み終わったカップも回収し、勝手に買ってきてくれたりした。
多分30分くらい見たあたりでそのバンドは終わり、一度客席照明が点いた。
「さっきのんちゃん?に会ったよ」
と勇咲に言われ思わず「なにっ、」と、買ってきてくれた酒を口にする。
ジントニック、味が露骨に酒過ぎないか、でもこっちのが好きかもと思えば「あージンバックジンバック」と言われ。
それはあれか、ちょっと待ってぇ、的なやつかい君。
「え、のんちゃんに会ったって何」
「いや後ろの方に居たよひとりで。超楽しそうに後輩くん観てたよ」
「えっ、なんで言わなかったの」
「喋ってもわかんないじゃん」
「いやそうだけど」
「依田ちゃん、言わなくても目立つんだね。指差して笑ってたから来てるの知ってるよのんちゃん」
「マジか」
色々なんか、え、凄い、なんだろこれなんだっけ、
「ジンバック!」と言えば「そうだよ、あれ、違かったっけ」と言われた。
多分俺が言いたかった横文字、勇咲に伝わってないな、新天地見たときとか若い子と自分の世代差を感じたときに使うやつ。
「違うんだよ、」
「えごめん何飲んでたっけ」
「いやそうじゃない、横文字、横文字」
「は?どうしたの依田ちゃん」
怪訝そうな顔をされた。
「なんなら俺のジントニックあげるけど」とか言われてそれも確かにピンと来たけど違う、いや酒はこっちのが好き。
「お酒はこっちのが好きなんだけどえっとね、違うこと言いたい」
「え?なに」
「あのー…世代間の歪みと言うか話の合わなさのこと」
「…ジェネレーションギャップ?え?まさか違う」
「それ!」
「マジか」
そうこう言っているうちに客が増えた。
え、なにそれ。
「あー皆のんちゃんバンド目当てなんだぁ」
確かに。
世代が近くなってきた。ジンバックジャック。しかし前の客もまだいる。
文楽追っかけにも居るよな、好きな演者の時のみ来る人。
「世代関係ねぇのな、わりと。そーゆーバンドってコアだよねぇ~」
「ジンバックジャックだね」
「は?なにもう一杯飲む?」
取り敢えず頷いたら俺の空いたカップと自分のカップを持ってまた買いに行ってくれた。
勇咲優しいなぁ。執事みたいだ。まぁ弟弟子ってこれがあるべき姿か?
酒に口つけながら戻ってきた勇咲は最早マスクを「邪魔だなぁ」と言ってポケットにしまった。
自然とポケットをまさぐっているらしい。気付いた本人は「あくっそー!」とか言って酒をグビッと飲んでいた。
「勇咲くん大丈夫?」
「うーんバンドやってたころのひもじさを思い出す。タバコ買えなかったから」
「やってたの!?」
そんな予感は以前、確かにしたけどね。
「やってたやってた。俺学生時代ちょっとやんちゃな悪目立ちタイプよ」
「あそれわかる~。
え、モテた?モテた?」
「それなり」
「だよねだよね。勇咲くんだったらだよね!」
「なに依田ちゃん大丈夫?」
テンション高くない?とか言われてもよくわかんない多分高い。
「依田ちゃんは?」
「うーん、彼女は居たよ」
「それはね、流石にわかる」
そのレベルか…とか言われる。
そうそう多分そのべる。
「やっぱちっちゃいときからもう文楽?」
「そうだねぇ」
「なんで三味線にしちゃったの」
「うーん、かっけぇじゃん?」
「まぁね」
「そーゆー勇咲氏は何故?」
「うわオタク。
いやまぁうーん。修学旅行だな。
文楽公演で寝てたら、なぁんか起きちゃって。ガン飛ばされてた。それが花ジイだよ」
「あー。師匠確かに言ってたわ。寝てるガキにはガン飛ばすって。魂送りつけるって」
「しばらくして入門したときに話したら俺にも言ってた。かっけぇなぁと思ってさ」
「なるほどねぇ」
確かに。
そう、あの各はみな人を殺せるような意気がある。古典芸能を守るだけあるもんだ。
俺はこのライブで初めて“取り置き”というシステムを知った。
連絡してチケットを取っておいてもらい、当日に受付で「依田紅葉です」と名乗りチケットを買う買い方だ。若干安くなるらしい。
勇咲は急遽なので普通に買ったようで。
「ライブはやっぱ3杯だよね」とか言って勇咲はなんかソーダ水みたいな透明な炭酸を買ったが、丁度対バンというやつが始まったようで、ゆったりと立って拝見することにした。
しかし、あまり人はおらず、なんだか小さいスペースに机が何個かだけあったが1箇所、前の方が空いていたので場所取り。
何故か勇咲くんはマスク(ガーゼの)をした。
周りを見ればなるほど、タバコかと知る。そういえば大阪公演は禁煙すると言っていた。
正直なところめちゃくちゃなんだろ、親戚とか知り合いなのかな?感が観客にはあり、新鮮だった。30人くらいだし。
やってるバンドは若い兄ちゃんで、何故か雨合羽みたいな黒い服。
音が良いも悪いもわからないくらい狭いライブ会場だった。ハコと言うやつ。
勇咲も最早淡々と若いバンドを眺めていた。途中で俺が飲み終わったカップも回収し、勝手に買ってきてくれたりした。
多分30分くらい見たあたりでそのバンドは終わり、一度客席照明が点いた。
「さっきのんちゃん?に会ったよ」
と勇咲に言われ思わず「なにっ、」と、買ってきてくれた酒を口にする。
ジントニック、味が露骨に酒過ぎないか、でもこっちのが好きかもと思えば「あージンバックジンバック」と言われ。
それはあれか、ちょっと待ってぇ、的なやつかい君。
「え、のんちゃんに会ったって何」
「いや後ろの方に居たよひとりで。超楽しそうに後輩くん観てたよ」
「えっ、なんで言わなかったの」
「喋ってもわかんないじゃん」
「いやそうだけど」
「依田ちゃん、言わなくても目立つんだね。指差して笑ってたから来てるの知ってるよのんちゃん」
「マジか」
色々なんか、え、凄い、なんだろこれなんだっけ、
「ジンバック!」と言えば「そうだよ、あれ、違かったっけ」と言われた。
多分俺が言いたかった横文字、勇咲に伝わってないな、新天地見たときとか若い子と自分の世代差を感じたときに使うやつ。
「違うんだよ、」
「えごめん何飲んでたっけ」
「いやそうじゃない、横文字、横文字」
「は?どうしたの依田ちゃん」
怪訝そうな顔をされた。
「なんなら俺のジントニックあげるけど」とか言われてそれも確かにピンと来たけど違う、いや酒はこっちのが好き。
「お酒はこっちのが好きなんだけどえっとね、違うこと言いたい」
「え?なに」
「あのー…世代間の歪みと言うか話の合わなさのこと」
「…ジェネレーションギャップ?え?まさか違う」
「それ!」
「マジか」
そうこう言っているうちに客が増えた。
え、なにそれ。
「あー皆のんちゃんバンド目当てなんだぁ」
確かに。
世代が近くなってきた。ジンバックジャック。しかし前の客もまだいる。
文楽追っかけにも居るよな、好きな演者の時のみ来る人。
「世代関係ねぇのな、わりと。そーゆーバンドってコアだよねぇ~」
「ジンバックジャックだね」
「は?なにもう一杯飲む?」
取り敢えず頷いたら俺の空いたカップと自分のカップを持ってまた買いに行ってくれた。
勇咲優しいなぁ。執事みたいだ。まぁ弟弟子ってこれがあるべき姿か?
酒に口つけながら戻ってきた勇咲は最早マスクを「邪魔だなぁ」と言ってポケットにしまった。
自然とポケットをまさぐっているらしい。気付いた本人は「あくっそー!」とか言って酒をグビッと飲んでいた。
「勇咲くん大丈夫?」
「うーんバンドやってたころのひもじさを思い出す。タバコ買えなかったから」
「やってたの!?」
そんな予感は以前、確かにしたけどね。
「やってたやってた。俺学生時代ちょっとやんちゃな悪目立ちタイプよ」
「あそれわかる~。
え、モテた?モテた?」
「それなり」
「だよねだよね。勇咲くんだったらだよね!」
「なに依田ちゃん大丈夫?」
テンション高くない?とか言われてもよくわかんない多分高い。
「依田ちゃんは?」
「うーん、彼女は居たよ」
「それはね、流石にわかる」
そのレベルか…とか言われる。
そうそう多分そのべる。
「やっぱちっちゃいときからもう文楽?」
「そうだねぇ」
「なんで三味線にしちゃったの」
「うーん、かっけぇじゃん?」
「まぁね」
「そーゆー勇咲氏は何故?」
「うわオタク。
いやまぁうーん。修学旅行だな。
文楽公演で寝てたら、なぁんか起きちゃって。ガン飛ばされてた。それが花ジイだよ」
「あー。師匠確かに言ってたわ。寝てるガキにはガン飛ばすって。魂送りつけるって」
「しばらくして入門したときに話したら俺にも言ってた。かっけぇなぁと思ってさ」
「なるほどねぇ」
確かに。
そう、あの各はみな人を殺せるような意気がある。古典芸能を守るだけあるもんだ。
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