49 / 74
泉水に映る東雲
8
しおりを挟む
「でもさぁ、俺やっぱ芸能って共通するもんあるよなって思うわ。
さっきの兄ちゃんの覇気やら、それを見守る、と言うか楽しむのんちゃんやら。やっぱ生きてないと芸能はいけないね」
「ん?」
「依田ちゃん、なんでのんちゃん好きなの?」
「そりゃぁ…」
声が素敵だなぁとか。
なにより初めて舞台を観たときの、楽しそうな感じとか。
あとまぁ確かに、楽器をやる人には共通の、これは古典日本語にもない、横文字はわからないがなんかそういうなんだろ、“共鳴”だとか“夢”だとかを、勝手に俺が見たんだよな、多分。
でもそっか。
「うん、確かに芸能って、共通かもね」
「良い横文字教えてやるよ依田ちゃん。
そーゆーのを“シンパシー”ってんだよ多分」
「しんぱしー」
「運命とかよりなんだろな、身近にある共鳴みたいなね」
シンパシー、か。
そうか、シンパシーか。
「俺凄く、まぁ、あんまのんちゃんを知らんが、ちょっと依田ちゃんに似てる気がするよ」
「えっ」
なにそれ。
「照れるやん」
「ん?あそう」
涼しい顔をして勇咲は舞台を見た。
まだ客席照明は点いているが、観客の「ふぅ!」と言う、古典芸能の「なんとか屋~」ノリの煽りがあり。
舞台を見ればのんちゃんや山口さんや高畑さんが、楽器を持ってなんか打ち合わせとかだろうか、話している風景で。
のんちゃんが裏方を頷けば客席照明が消えた。
そこから始まった現象はもう凄まじく。
まるで三人がもう終わってしまうなんて思えないような舞台で。
のんちゃんの息を吸う音、ギターの声や、山口さんのドラムも高畑さんのベースもすぐ近くにあって。
だけどなんだろ、キラキラしていてみんな楽しそうで。というか多分、音とかわかんないけどもう、多分いままでで一番良いライブな気がして。
乗るというより観入ってしまった。
てか、舞台というものをこんなに間近で観たのは多分、人生初だった。
「世界が雨のように 溢れ堕ちたとして
君といれば 多分
それがあれば いい」
そっか、そっか。
とても静かな歌だった。だけど胸にキた。のんちゃん、俺もそう思うとか、頭を色々過りすぎて、でも楽しくて。
一周回ってもう泣いちゃった。
きっと演者見解、想いとは真逆なんだろ、俺の気持ち。でもまぁいいや。凄い一体感とか、もうそれだけで今日を愛せるなぁとか、ホントに陳腐で飾り気のない感情が湧いてきた。
尊敬なんだろ、俺のこれ。宗教みたいな現象。ファンって多分そうだから、いつでものんちゃんは明るく居てくれるんだと、間近で観て息まで感じて思った。
アンコールは計3回。これも文楽にはない現象。けど新鮮、余韻から燃え上がるこれ。
3回目で
「あぃがとー!
終わろうと、思ったんだけど…一曲だけ特別に、Raspberry。今日はありがとうございまった!」
とてもロックな明るい曲が流れる。
あぁのんちゃん、のんちゃんらしい。凄く良い歌。これ確か、デビューの時のやつ。亀ちゃんが前に言ってた。
一人でも、守っていく生き方を、のんちゃんの少しの強い視線にも感じて。
これを大切にしたいんだのんちゃんはきっと、と感じた。
全部終わって余韻に、ぎこちなく勇咲を見れば「大丈夫かよ!」とか言われた。
「夢かも…」
スッゴいよすぎて最早勃起を越える、卓逸したレベル。燃焼しすぎて死にそう俺。多分いま俺真っ白。
「うわ依田ちゃんやべぇ」とか勇咲に言われたけど、勇咲は笑って、
「でもわかる。よかったねマジ」
もうそれはそれは。
「よかったーぅ!」
抱きつくしかない。
「うわ涙とかっ、」と勇咲は嫌がってたけど気にしない。頭ごしごし。
調子乗ってたら「本気でやだ!わかるけど引く!」と一回肘鉄を頭に食らった。痛い。酷い。
「もー帰ろう依田ちゃん。雀生師匠ん家ね。はい、」
「いやだぁぁ!現実とか嫌い!」
「わかったわかった。楽屋挨拶まずしようね。飲みに行っちゃだめだよ明日初日だから」
そう言われまして。
楽屋挨拶に行き、狭い楽屋で「のんちゃーん!」と一回抱きついたら「はははジャグジーやばいねー!」とか引き離され、俺はそれから飲みに行こう、なんなら抱いてもらおうとか考えちゃったけど結局勇咲に師匠の家まで送り届けられた。
帰れば師匠に「クソガキぃぃ!なに、何時まで遊び歩いてるたわけえええ!」と膝蹴りを受けたのは言うまでもない。
ま、いいや。痛いけど。明日またあるやと、許してもらって寝ることにした。
生きてりゃこんなこともある。
人は一人でも、何か共有が出来る。
そう言われたような気がしたのだった。
さっきの兄ちゃんの覇気やら、それを見守る、と言うか楽しむのんちゃんやら。やっぱ生きてないと芸能はいけないね」
「ん?」
「依田ちゃん、なんでのんちゃん好きなの?」
「そりゃぁ…」
声が素敵だなぁとか。
なにより初めて舞台を観たときの、楽しそうな感じとか。
あとまぁ確かに、楽器をやる人には共通の、これは古典日本語にもない、横文字はわからないがなんかそういうなんだろ、“共鳴”だとか“夢”だとかを、勝手に俺が見たんだよな、多分。
でもそっか。
「うん、確かに芸能って、共通かもね」
「良い横文字教えてやるよ依田ちゃん。
そーゆーのを“シンパシー”ってんだよ多分」
「しんぱしー」
「運命とかよりなんだろな、身近にある共鳴みたいなね」
シンパシー、か。
そうか、シンパシーか。
「俺凄く、まぁ、あんまのんちゃんを知らんが、ちょっと依田ちゃんに似てる気がするよ」
「えっ」
なにそれ。
「照れるやん」
「ん?あそう」
涼しい顔をして勇咲は舞台を見た。
まだ客席照明は点いているが、観客の「ふぅ!」と言う、古典芸能の「なんとか屋~」ノリの煽りがあり。
舞台を見ればのんちゃんや山口さんや高畑さんが、楽器を持ってなんか打ち合わせとかだろうか、話している風景で。
のんちゃんが裏方を頷けば客席照明が消えた。
そこから始まった現象はもう凄まじく。
まるで三人がもう終わってしまうなんて思えないような舞台で。
のんちゃんの息を吸う音、ギターの声や、山口さんのドラムも高畑さんのベースもすぐ近くにあって。
だけどなんだろ、キラキラしていてみんな楽しそうで。というか多分、音とかわかんないけどもう、多分いままでで一番良いライブな気がして。
乗るというより観入ってしまった。
てか、舞台というものをこんなに間近で観たのは多分、人生初だった。
「世界が雨のように 溢れ堕ちたとして
君といれば 多分
それがあれば いい」
そっか、そっか。
とても静かな歌だった。だけど胸にキた。のんちゃん、俺もそう思うとか、頭を色々過りすぎて、でも楽しくて。
一周回ってもう泣いちゃった。
きっと演者見解、想いとは真逆なんだろ、俺の気持ち。でもまぁいいや。凄い一体感とか、もうそれだけで今日を愛せるなぁとか、ホントに陳腐で飾り気のない感情が湧いてきた。
尊敬なんだろ、俺のこれ。宗教みたいな現象。ファンって多分そうだから、いつでものんちゃんは明るく居てくれるんだと、間近で観て息まで感じて思った。
アンコールは計3回。これも文楽にはない現象。けど新鮮、余韻から燃え上がるこれ。
3回目で
「あぃがとー!
終わろうと、思ったんだけど…一曲だけ特別に、Raspberry。今日はありがとうございまった!」
とてもロックな明るい曲が流れる。
あぁのんちゃん、のんちゃんらしい。凄く良い歌。これ確か、デビューの時のやつ。亀ちゃんが前に言ってた。
一人でも、守っていく生き方を、のんちゃんの少しの強い視線にも感じて。
これを大切にしたいんだのんちゃんはきっと、と感じた。
全部終わって余韻に、ぎこちなく勇咲を見れば「大丈夫かよ!」とか言われた。
「夢かも…」
スッゴいよすぎて最早勃起を越える、卓逸したレベル。燃焼しすぎて死にそう俺。多分いま俺真っ白。
「うわ依田ちゃんやべぇ」とか勇咲に言われたけど、勇咲は笑って、
「でもわかる。よかったねマジ」
もうそれはそれは。
「よかったーぅ!」
抱きつくしかない。
「うわ涙とかっ、」と勇咲は嫌がってたけど気にしない。頭ごしごし。
調子乗ってたら「本気でやだ!わかるけど引く!」と一回肘鉄を頭に食らった。痛い。酷い。
「もー帰ろう依田ちゃん。雀生師匠ん家ね。はい、」
「いやだぁぁ!現実とか嫌い!」
「わかったわかった。楽屋挨拶まずしようね。飲みに行っちゃだめだよ明日初日だから」
そう言われまして。
楽屋挨拶に行き、狭い楽屋で「のんちゃーん!」と一回抱きついたら「はははジャグジーやばいねー!」とか引き離され、俺はそれから飲みに行こう、なんなら抱いてもらおうとか考えちゃったけど結局勇咲に師匠の家まで送り届けられた。
帰れば師匠に「クソガキぃぃ!なに、何時まで遊び歩いてるたわけえええ!」と膝蹴りを受けたのは言うまでもない。
ま、いいや。痛いけど。明日またあるやと、許してもらって寝ることにした。
生きてりゃこんなこともある。
人は一人でも、何か共有が出来る。
そう言われたような気がしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
僕の前世は日本人で25歳の営業マン。社畜のように働き、過労死。目が覚めれば妹が大好きだった少女漫画のヒロインを苦しめる悪役令息アドルフ・ヴァレンシュタインとして転生していた。しかも彼はヒロインの婚約者で、最終的にメインヒーローによって国を追放されてしまう運命。そこで僕は運命を回避する為に近い将来彼女に婚約解消を告げ、ヒロインとヒーローの仲を取り持つことに決めた――。
※他サイトでも投稿中
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる