心中 Rock'n Beat!!

二色燕𠀋

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道行Music Beat

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 弟、小動物のような目であたしを見つめて、後に兄を見、またあたしを見て言った。

「えっ、レズビアンなのっ!?」
「そーだわこの変態オカマ!」
「うわっ、それ絶対あんたに言われたくないけどなるほど。だからゲイ兄さんとやっていけるんだ」
「いや春暁、勘違いしてるけど兄さんはバイセクシャルだからね、んでもって師匠と勇咲くんはまぞひすとだからね、」
「然り気無く全部暴露するなよバカ弟子ぃぃ!」

 師匠、羞恥に叫ぶ。

「あーぁ、なぁんだそーなのぉ?」

 弟、突如つまんなそうに勇咲くんを離す。がんっと頭を打ち付けた勇咲くん、「いだっ、」と頭を抑えた。

「僕どっちかって言うとMなんだよね」
「は?」
「え?」
「なーんだ、姑息な手を使わなくても皆同郷かよ、なーんだ、僕って頭悪っ」
「え、今更なのか春暁、」

 依田ポロリ。それには凄くつまらなそうに弟が兄を眺め、「いや、さぁ」と言う。

「僕賢く生きないと兄さんみたいに捨てられちゃうかなぁとか思ってたけど漢検はホントは3級だし、なーんだ、気張っちゃってたの?僕」
「なにそのバカみたいな会話」
「じゃーどーすんだよ僕の股間!」

 はっ。
 何こいつ。

 依田弟ガチで、ガキみたいに「うぁぁぁ」と泣き始めた。
 マジぃ?
 スゲー怖いんだけどこいつ。

「ま、まぁまぁ春暁…」
「お、お母さんがぁ、悪いんだからぁぁ!」
「え、わてかいな」
「僕羨ましかったんだから、兄さんが自由に、生きてんのがぁ、」
「え、ここに来て兄を称えるかおとう…妹よ」
「うるさいー…もー嫌ぁい!」

 やべぇぞ依田弟。
 ホントのラスボスは依田弟だったかと、一同納得してきた雰囲気。

 しかし。

「甘ったれんなバカ春暁っ!」

 依田、怒る。これガチなときなやつだ。

「お前はホントにバカだな。なんだぁ?強いたげられることに少しは慣れろ、お前古典芸能やってんじゃないのかよバカ。だからお前はいつまで経ってもガキ臭いんだよこのクソガキがぁ!」
「なんだとこの、」
「自分の道くらい自分で決めろよプロならな。死ぬまで芸道、こんなことすら父から学んでないのか若造が」

 えっ。
 それ。

「お前が言うのか紅葉」

 ですよねぇ。
 師匠、ですよねえ。

「ったくぅ」

 勇咲くん、漸く起き上がり言う。

「芸道は俺も半端モンだからわかんねぇけど鵜助、お前の人生に対しても俺は何も言わないがまわりを見ろ。
 ウチの花じいはよく言うぞ。盗めるものは吸収しろ。そりゃその通りだが、芯を持てと、それぞ己が一本の人生だ。違いますか雀生師匠。そうやってあんたと芸道を歩んだと聞きましたが」
「…こっ恥ずかしいやつだなお前も花も」
「ばあさん、あんたそんなわけだから、悪いがわからんのなら道に踏み入れないでくれるか。
 これを俺が言う道理は間違ってるんだよ雀次兄さん。あんたはあんたを貫くんじゃないのか、なぁ」

 俯いて依田は黙る。
 確かにそうだ。一言、「さようなら」とこの、取り憑かれなければならなかった義母に、言えば済むだけだ。
 暫し依田は考え、「まぁ、」と続ける。

「なんだっていいんです。俺は結局まだまだ、若輩者ですから」

 うわっ。
 開き直った。
 けど。

「…あんたも俺も、皆、自分を少し許したらいいのかもしれませんね。
 芸道を譲るとはそう言うことで、固執すればこうやって、あっさり迷路に踏み入れてしまう。
 母上、俺はなんと言われようとこの家には帰れません。それはあんたや春暁を思っているのもしかりだが、何より自分の芸にそれほどゆとりはまだないのです。しかし、三味線が好きだ。ただそれだけだ。
師匠、こんな俺ですがあんたの芸能は」
「勝手にしろ、バカ弟子」
「は、」
「儂の芸能は儂にしか出来ない。伝承などくだらないことを言うなら磨け。だがお前にはお前の道がある。父ならそう言う。敵うと思うな」

 あら、

「…師匠っ、」

 依田、少し俯いて震えては、ゴッド師匠はちらっとみて「ふん、」と。

「拘りは許すことが出来て初めて形を作る。妥協とも言うが、そんな甘くはない」

 なるほど。

「…痛み入る、」

 そう言って依田は、
 泣く前の顔で全員を見渡し、最後に母を見て頭を下げた。

鷹沢たかざわ一門六代目鷹沢たかざわ雀次じゃくじ。現在芸能を行き願わくば芸と心中したく候、己が道、突き進んで行こうと思います。
 これにて、話はお終いに致しましょう。しかし許すも芸道、前よりは…少しだけ貴方を許容しようと考えます」

 それには母も、「ふむぅ…」と。

「帰ってくるな我が息子。己は今から、鷹沢雀生の元で死ぬ約束を致せ」

 心なしか母の目は瞑りそうで鋭いが、なんとなく、温かみは見れたような気がした。

「有り難き。これにて絶縁と致します。
 …亀ちゃん、」

 所在なくなった後に依田は優しい笑顔であたしを見上げて笑った。そのせいで一筋目頭から涙が出ていた。

「ありがとう、亀ちゃん」
「え、えぇ…」
「確かに。
 あんたがいなかったら依田ちゃん、こうはならなかったよ、亀田さん」

 初めて呼ばれた。

「儂からも。
 どうやら、こいつは大切な仲間を、得たらしい」
「えっ、」

 皆一様に頭を下げるが、

「いや、結婚は、」

 多分しないよ?

 しかし皆、そのあたしの驚愕を聞いて笑い始めた。

「…はいはい。
 亀ちゃん、帰ろうか東京へ」
「はぁ…」
「心中とまでは行かなくても、亀ちゃんには亀ちゃんの大切な物があるよ」

 なんだろ。
 しかしなんだか。

「…そう、」

 一人では、確かにないよねと。
 素直に頷いて、それから依田屋敷を皆で出た。
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