ねぇ、本当は…

二色燕𠀋

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「ゆらぁぐ ゆぅめの壁に
 君ぃは痛く 僕をぉ~殺し
 減らぁず口に 重い鉛、
 のよう 君はぁどこだ~ぁ」

 えっと歌詞とコード、クリック。なんかチューニングズレてる気がするけど、高校生あまちゃん、今より声高いな。この酒やけで歌いきれるだろうか…。

 手はいくらでも動く。あー、いい歌だな~。朝方に聞きたいヤツ。

「新ぁしい何かはぁぁ きっとない
 ゆらぁり ひらぁり 腐敗ぃーしてえいる
 だから今、俺はぁここにいて、
 死ぬまーでには 声を、殺してぇゆくぅ
 ゆくーぅ う、いぇい、へぇい」

 じゃかじゃーん、じゃんじゃんじゃんじゃじゃ、ピーン。じゃじゃじゃ。

「こんばんは。グラスアライブソニックの曽根原です。今日も楽しんで行ってね!
 ウェルカムソングはエレクトリック・レインボーの“スカイ・ハイ”でした。

 いやー……声がガラガラです。

 ワタクシもう既にあのー、割と飲んでまして、打ち合わせとこれとで。あの、さっきまでライブだったし、間に合うかなーと思ってたんですが、やると思ってませんでしたよね、はは。やっちゃうんですなー、これがまた。
 はい、カンパーイ」

 コメント、閲覧者を眺める。うん、みんなこんばんは。

「えー、あれです、そう、さっきまでちょっと、でんにじとやってまして、あまちゃん…あの、ギタボの天崎あまざきのね、唄がね、いや~これ好きなんですわ~。高校生の頃書いたっつってましたが、いいよな~…」

素敵です
お疲れ様です
まさかやるとは…(笑)

「あ、だよねだよね。いーよね。
 
 いやー、高校生でこれよ?
 これ、あまちゃんが書いたらしいんだけど、高校生ねぇ…俺なんてアッパラパーだった時代で…彼ら、この頃にグラシアと出会ったらしいと、もーさっきまでね、飲んでてベロッベロになってあまちゃんがなんか語り始めてましたわ。

 あの子ねーどうも酔うと喋りまくる特性の持ち主…」

Humito-Kurimura が閲覧を始めました。

「あ(笑)フミト・クリムラが来ました(笑)寝ろよ疲れたでしょうよ、」

Humito-Kurimura:おつかれっしたー

 うわこれ絶対あまちゃんだ。いや、わからんなあの二人付き合ってると思うんだけど。多分。

「あーお疲」

Humito-Kurimura:サイコーでしたね!

 ぜってぇあまちゃんだ。

「うんうん、めっちゃ楽しかったわ~。

 我々はえっと、はい、下北沢シモキタの1985で丁度ライブしてきたんですが、いやーテンション上がっちゃってもー、でんにじ、ことエキセントリック・レインボーとツーマンでしてね、もー最高、最強にかっこよくて…機材ももう音が半端なく良くてー、なんつーかそれを越えてくるヤツらの曲に感動というか、まぁグラシア勢も「ヤベエよな」と非常に盛り上がり余韻に浸ったまま、ワタクシは今ここに座って酒を飲んでいるというね」

 あー、マジでよかったよなぁ。ただ若干ミスったんだよなぁ。

「まぁ我々は我々で反省点もあります、が、とにかくハッピーで、ロックで、只今幸せであります」

 タバコ吸お。1曲終わったしまぁまぁいいだろ。リラックスしちゃったし。
 加熱式タバコを吸いながら考える。うん、一箇所マジでミスったな。

「いやーでんにじよかったなぁ…うん、うん…」

まさか配信まで聞けるとは!
盛り上がりましたよね~

「あーはい、そう。今日はふぅ、やっと肩の力抜けてこんな感じですが来てくれたんだね?ありがとー。
 あ、配信でんにじファンたち来てそうだね、いつもより遥かに多いわ…。

 いやー、リハでね、機材トラブルもあって、間に合うかな?まぁ俺少し遅刻したんですが着いた瞬間ベースの栗村くりむらが「ドライバー!ドライバー!マイナスのやつ!」って、もう鬼のような剣幕で、あぁ、はい…て渡したらなんか、我に返ったようによ?「すませぇん!」とか言ってきてまま、1回な?1回、とか場を収めて…。

 っはは!「すみません」って、いやまぁいいんすわ、本番サイコーだったし。

 着いた瞬間空気がハンパなくなんだろ、こうピーーンて、うわ、多分なんかヤツら喧嘩してんなと思ったら、いや、普段ちょーー仲良いんすよ?ただ彼らほら、妥協0みたいな集団?軍団?なんで、リハんときちょー怖いんすよね…。

 ん?「悪行広めないでください」?っはは!いやいや悪行広めてないわ!悪行ではないだろーよ!

 あの本気度で遅刻してきた俺、ヤバいなってこう、りゅーちゃんに肩を叩かれながら「ヤツら、ヤバい」とか言われちゃって、おぉう怖い…とか思いながらリハやって~、で、本番来て、やっぱ良くてー」

 ん?
 家では電子タバコなんです?ってなんだ…あぁ。

「あ、そうそう家ねー、ヤニがねー」

 まぁ、子供いるの誰も知らないからな。

「まぁ、そんなわけで、サイコーな夜を過ごしたわけですわ…」

曽根原さん、そんなことより幽霊いません?

 ん?

「ん?え?」

 …悪質だなぁ。なんだこいつは。nekochan-happy。よく来る人だけど。

いますよね?
見間違えかな?
ドアのところに見えるよね?

「え?ドア?」

 振り向いてみた。
 擦りガラスのところからヒョコと、幸村が覗いている。
 俺と目が合うと、さっと消えてしまった。

 何っ!?

「いや?いないよいない。
 ちょっとトイレ行くついでに幽霊に会ってきマース」

 ヤバいヤバい、いや別に隠さなくていいけどなんとなくダメなやつ!公表してないし!
「この人結婚してんのかな?」くらいが多分俺の丁度良い立ち位置だ、麻衣なんて元後輩の彼女とか心証悪すぎる!

 席を立ち部屋を出る。
 壁にピタッと、幸村がくっつき俯いていた。
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