ある日のセピア

二色燕𠀋

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ある日のセピア

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 あの時の貴女の話をまるっきり覚えていない切なさを私は伝えられていない。どうして声が出ないのと聞けなかった。それが大人なんだと思った。

 この手が震えることになんの意味もなく、過呼吸なことにも意味はない。ただただそれが等しく「たまに」で、穏やかな眠りは夢見が悪かった。

 ピアノの音は好きだったよ。とても素敵だった。

 君と同じ色が見えているかは不明だけど、全然気にしてないんだと言った人。そう言えばね、私も少し、赤の信号は×に見えるの。

 ねぇ、なんて言ってあげたらいいかなんて烏滸がましくて、だけど、何を言えば良いかなんて本当に他力本願だと思うんだ。どうしたらいいの。

 手を振れば良いの。

 それがさようならだなんて覚えてないよ。前頭葉を傷付けた。どうやって皆生きているのかなんて、普通だとわかっているのに「普通じゃない」と自意識過剰なんだ。

 私はいつでも虚無に立ち尽くす。でもそれはどうして後ろを向いているんだろう。

 誰かが助けてときっと言ったんだと思うよ。じわりじわりと忘れてしまうけど。

 あなたを忘れ、あなたも私を忘れたとき。皮と骨すら遺さないだろう。それを人は、なんと呼ぶのか。いまはただ、静かにここで見ていようと心にナイフを刺してみた。

 鮮血と赤と茶色と白。そこはきっと、私でない隠れ家。いつか誰かが息を止めてくれと。 
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