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ペコリと頭を下げ、ドアを閉める。
「とうか…」と起き上がろうとする祖父はやはり、少し腰にきたらしい。
「いいよ、おじいちゃん」と、側に寄れば「何が大丈夫なんだ…、」と、弱々しくも小突いてきた。
「緊張してたみたい。大丈夫だよ、湿布貼ろう?お薬飲んだ?」
「飲んだ、とうか、先に帰ってろって」
「あー…母さん、お茶会中で…」
「…は!?」
痛、と小さく言う祖父に手を貸し「はいはい、」と湿布を取り出し貼ってやる。
いつもの流れ作業の中「ごめんね」と言葉が出た。
ごめんね、僕のせいでこうなっちゃって。
痛みのせいか少しぎこちなく、ギュッと抱きしめてくれた祖父に罪悪感が湧いてくる。
抱きついてくれたお陰で湿布は貼りやすいが「汗臭いかも」と言っておいた。
「とうか、具合悪いだろ、俺は車椅子でいいよ、とうか、こっちで少し寝ろよ、」
「大丈夫大丈夫。僕もお薬飲んだから。ただ、凄く緊張しちゃってたみたい。おじいちゃんの顔見たら安心しちゃって」
「とうか」
祖父は…弱々しいながらも更にぎゅっと抱きしめ…というより、シャツの背をきゅっと掴み「黙っていたことがある」と、深刻そうに言ってきた。
「黙ってたこと?」
「…刑事がいたし…少し、話しをしてな。昔のことを…」
…それは…。
一体、何を言ってしまったんだ…?
父のことくらいしか思い付かないが…それなら改まることではないはずだ。
「…お父さんのこと?」
「ああ…」
「まぁ、でもそれは」
「あれは、無期懲役…だったんだが、」
「………うん?」
祖父の顔を眺める。
祖父は、父にその判決が下った当時、罪が重すぎると猛反発をしていた。
「…そろそろ10年も経つし、ぼちぼち仮釈放なんかを申請するかと、俺は言っていたと思うが…」
何故今それを、自分にも刑事にも言っているのか…。
「……忠恭はもう、帰ってこない…」
「…僕も言ってなかったね…。
あれから調べたよ。実情は結局、やはり30年から、というのが一般的なんだって。
僕としてはでもね…その前に相手方へ慰謝料の方を」
「違う、」
…何が言いたい?
「……っずっと、ずっと言ってこなかった、すまないとうか…。
異を唱えてはいた、しかし…」
正直、その度に弁護士へ払うお金が掛かる。祖父も体を壊し、再審要求は2回ほどで諦めたのだと思っていた。
だからこそ、とうかとしても言わない方が…都合が良かったのだ。
「…途中から、やめただろう?」
「まぁ、お金も体力も使うし…」
「忠恭はもう、死んでいるんだ」
………え?
頭が、真っ白になった……。
とうかが黙れば祖父はしっかりととうかを見、「…獄死だ」と告げ肩を掴んでくる。
「とうか、だからもう」
「…待って、」
処理が追いつかず「それは……」と続かない。
「だからもう」
「その話を、刑事さんにしたの…?」
「…ああ」
「…なん、」
なんで。
言葉が詰まる。
…獄死だなんてそんなの、思い付く理由は真っ更な事情じゃない。
「…黙っていて申し訳ない、とうか」
「いや別にそれはいいんだけど、えっと…」
「……だから…とうかは……、その、なんだ…。
罰金は忠恭の死亡手当金と相殺」
「…待って、どういうこと?」
頭が回ってきた。
そんな話は一度も聞いていない。誰からも、何も。
…罰金?そんなものはないとだけは聞いたけれども…。
「…という話で弁護士と話した。それは…2回目の時だったんだ」
「………え、」
つまりはあの、異議申し立て時点…そろそろ8年を過ぎたか…その時は既に…。
「お父さん、そんなに前に…」
父は、優しい笑顔を浮かべる人だった。
覚えている、初めて会った時だ。
彼は、ボロボロだった自分を見つけ、施設に迎え入れ、自分の境遇を鑑みて“特別養子縁組”をしてくれた。
でも。
「お父さん…、いなくなっちゃってたんだね…」
今考えれば、確かに。
自分を怖い人たちから守ってくれた。恐らくそれが仇となり、ある日の穏やかな朝、急に警察がやってきた。
『大丈夫、すぐに戻るよ』
それから現在に至る。
後に知る、彼は助成金の不正受給、横領と…罪状はかなり付いたらしい。
「十分な生活を送らせて貰えなかった」と証言した里親が3名程いた。
しかし、当の入居者はいつでも幸せそうで…あそこは小さい施設だった。そもそもが不十分ではないはずであり、誰も不満そうではなかった。
畳むと決めてからすぐに全員里親が決まったが、そこに“人身売買”だとか、いちゃもんを付けられ現在も搾取は続けられているが…。
多分それは、自分のせいなのだ。
この家族を壊したのは、自分なのだ。
「とうか、俺はずっと、おかしいと思っているんだ。
…死亡手当金を罰金だか損害賠償だかに充てたのは俺で…だから、俺のせいで」
「ううん、違う、違うよおじいちゃん、」
「…いや、違くない。とうか、だから…もう、」
…予想は付いたが、そうか…。
しかし、どういうことだ…?
「…俺は思っていた、とうかを縛り付けてしまったのではないかと」
…純粋な思いなのだろうけど。
父よりも祖父の方が、共にいる時間は長い。しかし、なるほど…だから父は、祖父とではなく自身と養子縁組をしたのか。
いつでも、どうにか出来るように。
「俺は、だから、また」
「…おじいちゃんが出て行けというなら僕はそうするけど…でも僕はやっぱり…いや、でも…」
「とうか…」と起き上がろうとする祖父はやはり、少し腰にきたらしい。
「いいよ、おじいちゃん」と、側に寄れば「何が大丈夫なんだ…、」と、弱々しくも小突いてきた。
「緊張してたみたい。大丈夫だよ、湿布貼ろう?お薬飲んだ?」
「飲んだ、とうか、先に帰ってろって」
「あー…母さん、お茶会中で…」
「…は!?」
痛、と小さく言う祖父に手を貸し「はいはい、」と湿布を取り出し貼ってやる。
いつもの流れ作業の中「ごめんね」と言葉が出た。
ごめんね、僕のせいでこうなっちゃって。
痛みのせいか少しぎこちなく、ギュッと抱きしめてくれた祖父に罪悪感が湧いてくる。
抱きついてくれたお陰で湿布は貼りやすいが「汗臭いかも」と言っておいた。
「とうか、具合悪いだろ、俺は車椅子でいいよ、とうか、こっちで少し寝ろよ、」
「大丈夫大丈夫。僕もお薬飲んだから。ただ、凄く緊張しちゃってたみたい。おじいちゃんの顔見たら安心しちゃって」
「とうか」
祖父は…弱々しいながらも更にぎゅっと抱きしめ…というより、シャツの背をきゅっと掴み「黙っていたことがある」と、深刻そうに言ってきた。
「黙ってたこと?」
「…刑事がいたし…少し、話しをしてな。昔のことを…」
…それは…。
一体、何を言ってしまったんだ…?
父のことくらいしか思い付かないが…それなら改まることではないはずだ。
「…お父さんのこと?」
「ああ…」
「まぁ、でもそれは」
「あれは、無期懲役…だったんだが、」
「………うん?」
祖父の顔を眺める。
祖父は、父にその判決が下った当時、罪が重すぎると猛反発をしていた。
「…そろそろ10年も経つし、ぼちぼち仮釈放なんかを申請するかと、俺は言っていたと思うが…」
何故今それを、自分にも刑事にも言っているのか…。
「……忠恭はもう、帰ってこない…」
「…僕も言ってなかったね…。
あれから調べたよ。実情は結局、やはり30年から、というのが一般的なんだって。
僕としてはでもね…その前に相手方へ慰謝料の方を」
「違う、」
…何が言いたい?
「……っずっと、ずっと言ってこなかった、すまないとうか…。
異を唱えてはいた、しかし…」
正直、その度に弁護士へ払うお金が掛かる。祖父も体を壊し、再審要求は2回ほどで諦めたのだと思っていた。
だからこそ、とうかとしても言わない方が…都合が良かったのだ。
「…途中から、やめただろう?」
「まぁ、お金も体力も使うし…」
「忠恭はもう、死んでいるんだ」
………え?
頭が、真っ白になった……。
とうかが黙れば祖父はしっかりととうかを見、「…獄死だ」と告げ肩を掴んでくる。
「とうか、だからもう」
「…待って、」
処理が追いつかず「それは……」と続かない。
「だからもう」
「その話を、刑事さんにしたの…?」
「…ああ」
「…なん、」
なんで。
言葉が詰まる。
…獄死だなんてそんなの、思い付く理由は真っ更な事情じゃない。
「…黙っていて申し訳ない、とうか」
「いや別にそれはいいんだけど、えっと…」
「……だから…とうかは……、その、なんだ…。
罰金は忠恭の死亡手当金と相殺」
「…待って、どういうこと?」
頭が回ってきた。
そんな話は一度も聞いていない。誰からも、何も。
…罰金?そんなものはないとだけは聞いたけれども…。
「…という話で弁護士と話した。それは…2回目の時だったんだ」
「………え、」
つまりはあの、異議申し立て時点…そろそろ8年を過ぎたか…その時は既に…。
「お父さん、そんなに前に…」
父は、優しい笑顔を浮かべる人だった。
覚えている、初めて会った時だ。
彼は、ボロボロだった自分を見つけ、施設に迎え入れ、自分の境遇を鑑みて“特別養子縁組”をしてくれた。
でも。
「お父さん…、いなくなっちゃってたんだね…」
今考えれば、確かに。
自分を怖い人たちから守ってくれた。恐らくそれが仇となり、ある日の穏やかな朝、急に警察がやってきた。
『大丈夫、すぐに戻るよ』
それから現在に至る。
後に知る、彼は助成金の不正受給、横領と…罪状はかなり付いたらしい。
「十分な生活を送らせて貰えなかった」と証言した里親が3名程いた。
しかし、当の入居者はいつでも幸せそうで…あそこは小さい施設だった。そもそもが不十分ではないはずであり、誰も不満そうではなかった。
畳むと決めてからすぐに全員里親が決まったが、そこに“人身売買”だとか、いちゃもんを付けられ現在も搾取は続けられているが…。
多分それは、自分のせいなのだ。
この家族を壊したのは、自分なのだ。
「とうか、俺はずっと、おかしいと思っているんだ。
…死亡手当金を罰金だか損害賠償だかに充てたのは俺で…だから、俺のせいで」
「ううん、違う、違うよおじいちゃん、」
「…いや、違くない。とうか、だから…もう、」
…予想は付いたが、そうか…。
しかし、どういうことだ…?
「…俺は思っていた、とうかを縛り付けてしまったのではないかと」
…純粋な思いなのだろうけど。
父よりも祖父の方が、共にいる時間は長い。しかし、なるほど…だから父は、祖父とではなく自身と養子縁組をしたのか。
いつでも、どうにか出来るように。
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