UlysseS ButTerflY NigHt

二色燕𠀋

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S

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「あ、海江田さーん!」

 看護師は平良の両肩を掴み圧を掛けていたが、安慈の声を聞き「なにっ、」と…形相を更に悪くしこちらを見る。

「おま、」

 その隙に平良は男の顎に銃口を向け「麻薬取締部だ」と告げる。

 普通銃より先に手帳だよ…と、こちらが手帳を見せ「はい、そういうわけで」と言っておいた。

「見覚え…ありますねぇ」

 それを聞いた瞬間、平良はさっさと銃をしまい男の頭をゴツッと、カウンターに押さえつける。

 一気に恐怖感に包まれたナースステーションへ「静かに」と坂下が言い放った。

「でめ゛っ、」

 柏村の部下が短く呻いた気がするが、平良はあろうことかそのまま男の頭を肘置きにしてタバコを出し、「はいお疲れ~」と、安慈に差し出してきた。

「遅くなりました」

 安慈が自分のタバコを出すと「可愛くないヤツ」と言われたが、互いに構わず火を点けた。

「それは柏村の部下です。あの場にいました」
「こんな髭面よくカウンターに置くよな」
「あー、お久しぶりです覚えてる人いますかねー?ナースさんたち、1回患者さんを外に出せるー?」

 柔らかめに言いながら手帳を翳す坂下に「無理無理」と平良は言った。

「面会謝絶以外入院出来ないから、ここ」
「あ、そうだったわ。
 下手に動かないでくださいねー。大丈夫です撃たないと思うんでー、この状態ー。
 なんか隠し部屋でもあるならどーぞそちらへ」

 誘導係を買ってくれたらしい。

 平良の下で男がもがこうとしているが…ぐりぐりっ、とでも音が出そうだ…。
 涼しい顔をし「タバコより大麻だろって転院先の医者に言われてきたわ」だなんて言う。

「…まぁ確かに…ですけども」
「つってもその医者タバコ吸いながら『医療で大麻を合法にしろ!』だの『薄めるな!』だの言ってくんのよ、狂ってるわ。上にクレーム入れとけとさ」
「………ちゃんとクリーンなんすよね!?」

 坂下がナースを奥に誘導する中、「皮肉にもクリーンだよ、ここと違って」と言ってくる。

「まぁ…10割だけど」
「絶対嘘じゃん」
「いや、免許も許可も通ってる。外務省やらなんやらが…ラボって感じで呼んだんだとさ」
「…それは病院じゃなくラボでしかない…」
「ただ、治るんだわ。
 つーかこれは?聞くことある?」
「…透花と唯三郎は今どこにいる?」
「あー、」

 平良は胸ポケットから1枚、ラミネートのカードを出して男に見せつけ「ここまで知ってた?」と聞き、ふいっとこちらに寄越してくる。


───────
RÉPUBLIQUE FRANÇAISE

nom: VERDIER
prénom(s): Ulysses
sexe:   Né(e) le 07 08
───────


 後ろで「免許ある人見してー」という坂下に「坂下先輩」と、最早足が動いていた。

 …顔写真すらない、名前と出生日以外の個人情報がない…フランスのラミネート…今時ではないしこんなの、あってもあっちですら身分証には使えない、初めて見る…。

「ん?」
「…辿り着きました、ユリシスに」

 「地下2階だ、気を付けろ」という平良の助言に軽く頷き、坂下と共に向かうことにした。
 背後では更に「公務執行妨害ね」と…いや時刻通知とか…と頭を過ぎるが、坂下がラミネートを覗くので見せた。

「…これ、意味ある?スラム出身の…捨て子なんだろうな…」
「…でしょうね、」
「……読み方がわから」
「…“ユリシス・ヴェルディエ”、8月7日が誕生日ってだけ……」
「……そっか、」

 ふと悲しそうな顔をし「本名と誕生日知れて…よかったじゃん?」と、坂下は言った。
 ラミネートはポケットにしまう…握りしめて潰してしまいそうだから。

「何も知らないよりは…」
「…そう、ですね」
「でも、透花ちゃんは透花ちゃんで…日本人の…」
「…そうですね」

 切れ切れになる。
 くっと下を向いて眉間をつねり、前を見た坂下は「行くぞ、」とハッキリ言った。

「…先輩がそうして俺の気持ちを汲んでくれるから、ここまで来れました」
「まだ!今からだ、」

 ドアが開く。
 瞬間に鼻につく硝煙、耳を劈く悲鳴。
 倒れた担架から誰かが逃げた…下には広い背中…何かを庇う体勢の江崎がこちらをパッと見、「行けぇっ!奥だっ…!」と叫ぶ。

「…江崎さんっ!」

 「俺はいいから!」と振り絞るように言う江崎の側に坂下が寄り担架を避ける、蹲り腕から血が流れていた。どうやら…透花の盾になっているようだ。

 息が荒い透花に「おい!」と呼びかける江崎の姿を見て、自分は奥だと、走る。

 自動扉が壊れた“手術室”に入ってすぐ…顔から血を流した男の看護師…恐らくは刃物で切られたのだろう、目を抑え片手でカタカタと、側で縛られ廃人のように生気のなくなった青木紀子に銃を向けながら「こ、殺すぞ!」と怒鳴る。

 男に銃を向けた。

「………柏村はどこだ」
「っは、あ、あの子供、」
「それは後で聞く、柏村はどこにいる」
「急に暴れてあのガキっ………!」
「この部屋か」

 カチャッと安全装置を外す一瞬の隙に近付くと、男は腰を抜かし持っていた銃も手を離れ…「いや、やめてくれぇぇっ!」と奇声を発する。
 誤射るだろうが!とヒヤッとはしたが問題は起こらなかったので、手帳を出し「麻薬取締部だ」と名乗る。

「最後に聞く、柏村はどこに隠れているっ、」

 ……怯えていて話にならない。
 五感を澄ませる……間違いなくあと一人、気配がある。
 
 ふっと治療台…というより調理台だ、威嚇としてそれの脚を打てばひゅっと、僅かな息遣いが聞こえた。

「呆れたな……」

 はぁはぁと息遣いが激しい。
 男が落とした銃の位置を確認する。調理台からは這い出なければ無理だ、紀子からは遠くもないが……。

 柏村がぱっと手を伸ばし出て来た瞬間、反射で撃った。
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