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Prologue
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公園で息を調える。
誰もいない。
ベンチに座る。二人で息があがっている。
「…はぁ…お前…なんなの?」
「…アメリカ映画の…ヒットマン?」
「お前もしかしてさ」
「ご察しの通り。アメリカでスナイパーやってきたよ」
「はぁ!?」
「いや、スナイパーっていうと外聞悪いか。でも似たようなもんだよ」
そう、この任務のほんの3日前まで。
俺はアメリカのFBI本部で、ちょっとした密令をこなしていのだ。急遽、日本に呼び戻されたらやはり厄介だったわけだ。
さっき拾った薬莢を潤に見せる。
「…大体はこの銃弾、軍用だ。
ただ、飛距離と2発目までの時間、あとは正確さから察するに、まぁあれだけじゃなんとも言えないが恐らくFBIクラスのスナイパーだよ。相手が日本人かどうかもわかんないな」
「…わかってたけど流星、お前はわりと変態の分類だよね」
「仕方ないだろ。こんくらいの知識ないとあっちじゃ殺されちまうんだわ」
「こっちでもいま殺されかけてんじゃんか」
「うん確かに。俺も油断したわ。ハンドガンしか持ってきてねぇ」
「いやいいんだよ、それで。ここジャパンだから」
「でも殺されかけてんじゃんか」
「確かに…」
「そんな壮大なヤマなの?今回」
「お前とのヤマだから覚悟はしてたけどこれじゃ明日にも死んでるよ…」
確かにこれでは太刀打ち出来ない。
「公園からホテルに行こう。人数はいた方がいい」
「え?俺は潤となら別所に乗り込みしちゃおっかなって」
「やだ一人で行って。俺まだ死にたくない」
つれないなぁ。
「わかったよ」
なんとかホテルの連中と連絡取れないもんかな。
「潤」
「なによ」
「さっきのなんだっけ?指揮官と連絡取れない?」
「んー。どうかな。
無線入るけどこの状況で迂闊に入れちゃうとお前みたいな変態にジャックされそうで嫌だな」
「…わかったよ、行くよ素直に」
スーツケースから取り敢えずベレッタM92を取りだし、袖口に忍ばせてから歩いた。
その光景を、潤がじっと険しい顔付きで見ているので、「何かいる?」と聞いてみると、
「やだ、変態が伝染る」
とか、憎まれ口を叩かれ「はいはい」とあしらう。
ホント、可愛らしい顔してなんて性格の悪さなんだ。人は見かけによらない。
だけど急に潤が不機嫌そうにそっぽ向いて先に歩き出したから。
仕方なく着いて行くことにした。
「潤、」
「なんだよ変態」
「…怒ってる?」
「…別に。好きにすればいいよ」
あぁ、怒ってんのね情緒不安定。
「…怒ってないけど寂しいんだよ」
「え?」
「ついに同志がいなくなったなって。あの頃を体験した同志が」
「…潤」
忘れてねぇよ。
「いるじゃねぇかよ。俺はまだ生きてるよ」
「そうだけど」
「大丈夫だよ、まだ死なねぇから」
振り返った潤の顔は少し、寂しそうだった。暗いところで見ても、少し髪が明るい。
「髪切ったら?」
「は?いま言うかそれ」
「いや、ふと思った」
とくにカラーリングしてるわけではないのに明るいから、俺の黒髪が羨ましいと、会ったばかりの頃に言っていた。
まだお互い、ここまで染まる前の頃に。
「まぁそのうちな」
また潤が前を向いたので、一息吐く思いでタバコを咥え隣に並んで歩く。
「ここ禁煙だよ」
「ん?誰もいねぇし」
潤が俺の手元を見ている。
目が合うと反らし、「まだ使ってるんだね」と、少し切なそうに言った。
銀色の、ジッポライター。
「…あぁ」
あれからずっと使っていた。自分への、戒めのために。
「今日は終わったら飲みにでも行こうか」
「…疲れてなかったらね」
「じゃぁ多分行かねぇな」
姫はどうやら、ご機嫌斜めなようだ。
代々木公園の西門を出てから少し歩いたところに、ホテルはあった。
駐車場付近で一度警官に止められたので、手帳を見せると、「し、失礼しましたっ!」と、相当動揺し敬礼された。
「えーっと、指揮官?の前島さん?はどちらですか?」
そう言うと、その警官にワゴン車に案内された。
「遅くなりました。連邦捜査局の壽美田流星と申します。今回の捜査指揮及び突入の協力要請を受け、こちらに来ました」
「…今回の現場指揮官を勤めます、警視庁捜査1課特殊捜査第一係の前島剛三と申します」
「…同じく連邦局から派遣されました、星川潤と申します」
前島と名乗った中年くらいの小太りな刑事は、始めは俺たちを見て、俺たちが自分の予想より若かったのだろう、怪訝そうな顔をしたが、手帳を見せた途端に少し表情が変わる。
「あれから犯人からのコンタクトは?」
「それが…。
最初の要求は3億と、ある組織についての資料を用意しろというものでした」
「ある組織?」
「正直気が知れない。相手にするのもバカらしい」
「…もしかして、“エレボス”ですか?」
口を開いたのは潤だった。
エレボス…。
ギリシャ神話の暗黒の神の名前。
この組織は、日本のFBI、警視庁、厚労省、その他警備に関わる組織の間で、密かに噂されている謎のテロ組織だ。目的も実態も謎に包まれた、最早存在すらあるのかわからない組織だ。
誰もいない。
ベンチに座る。二人で息があがっている。
「…はぁ…お前…なんなの?」
「…アメリカ映画の…ヒットマン?」
「お前もしかしてさ」
「ご察しの通り。アメリカでスナイパーやってきたよ」
「はぁ!?」
「いや、スナイパーっていうと外聞悪いか。でも似たようなもんだよ」
そう、この任務のほんの3日前まで。
俺はアメリカのFBI本部で、ちょっとした密令をこなしていのだ。急遽、日本に呼び戻されたらやはり厄介だったわけだ。
さっき拾った薬莢を潤に見せる。
「…大体はこの銃弾、軍用だ。
ただ、飛距離と2発目までの時間、あとは正確さから察するに、まぁあれだけじゃなんとも言えないが恐らくFBIクラスのスナイパーだよ。相手が日本人かどうかもわかんないな」
「…わかってたけど流星、お前はわりと変態の分類だよね」
「仕方ないだろ。こんくらいの知識ないとあっちじゃ殺されちまうんだわ」
「こっちでもいま殺されかけてんじゃんか」
「うん確かに。俺も油断したわ。ハンドガンしか持ってきてねぇ」
「いやいいんだよ、それで。ここジャパンだから」
「でも殺されかけてんじゃんか」
「確かに…」
「そんな壮大なヤマなの?今回」
「お前とのヤマだから覚悟はしてたけどこれじゃ明日にも死んでるよ…」
確かにこれでは太刀打ち出来ない。
「公園からホテルに行こう。人数はいた方がいい」
「え?俺は潤となら別所に乗り込みしちゃおっかなって」
「やだ一人で行って。俺まだ死にたくない」
つれないなぁ。
「わかったよ」
なんとかホテルの連中と連絡取れないもんかな。
「潤」
「なによ」
「さっきのなんだっけ?指揮官と連絡取れない?」
「んー。どうかな。
無線入るけどこの状況で迂闊に入れちゃうとお前みたいな変態にジャックされそうで嫌だな」
「…わかったよ、行くよ素直に」
スーツケースから取り敢えずベレッタM92を取りだし、袖口に忍ばせてから歩いた。
その光景を、潤がじっと険しい顔付きで見ているので、「何かいる?」と聞いてみると、
「やだ、変態が伝染る」
とか、憎まれ口を叩かれ「はいはい」とあしらう。
ホント、可愛らしい顔してなんて性格の悪さなんだ。人は見かけによらない。
だけど急に潤が不機嫌そうにそっぽ向いて先に歩き出したから。
仕方なく着いて行くことにした。
「潤、」
「なんだよ変態」
「…怒ってる?」
「…別に。好きにすればいいよ」
あぁ、怒ってんのね情緒不安定。
「…怒ってないけど寂しいんだよ」
「え?」
「ついに同志がいなくなったなって。あの頃を体験した同志が」
「…潤」
忘れてねぇよ。
「いるじゃねぇかよ。俺はまだ生きてるよ」
「そうだけど」
「大丈夫だよ、まだ死なねぇから」
振り返った潤の顔は少し、寂しそうだった。暗いところで見ても、少し髪が明るい。
「髪切ったら?」
「は?いま言うかそれ」
「いや、ふと思った」
とくにカラーリングしてるわけではないのに明るいから、俺の黒髪が羨ましいと、会ったばかりの頃に言っていた。
まだお互い、ここまで染まる前の頃に。
「まぁそのうちな」
また潤が前を向いたので、一息吐く思いでタバコを咥え隣に並んで歩く。
「ここ禁煙だよ」
「ん?誰もいねぇし」
潤が俺の手元を見ている。
目が合うと反らし、「まだ使ってるんだね」と、少し切なそうに言った。
銀色の、ジッポライター。
「…あぁ」
あれからずっと使っていた。自分への、戒めのために。
「今日は終わったら飲みにでも行こうか」
「…疲れてなかったらね」
「じゃぁ多分行かねぇな」
姫はどうやら、ご機嫌斜めなようだ。
代々木公園の西門を出てから少し歩いたところに、ホテルはあった。
駐車場付近で一度警官に止められたので、手帳を見せると、「し、失礼しましたっ!」と、相当動揺し敬礼された。
「えーっと、指揮官?の前島さん?はどちらですか?」
そう言うと、その警官にワゴン車に案内された。
「遅くなりました。連邦捜査局の壽美田流星と申します。今回の捜査指揮及び突入の協力要請を受け、こちらに来ました」
「…今回の現場指揮官を勤めます、警視庁捜査1課特殊捜査第一係の前島剛三と申します」
「…同じく連邦局から派遣されました、星川潤と申します」
前島と名乗った中年くらいの小太りな刑事は、始めは俺たちを見て、俺たちが自分の予想より若かったのだろう、怪訝そうな顔をしたが、手帳を見せた途端に少し表情が変わる。
「あれから犯人からのコンタクトは?」
「それが…。
最初の要求は3億と、ある組織についての資料を用意しろというものでした」
「ある組織?」
「正直気が知れない。相手にするのもバカらしい」
「…もしかして、“エレボス”ですか?」
口を開いたのは潤だった。
エレボス…。
ギリシャ神話の暗黒の神の名前。
この組織は、日本のFBI、警視庁、厚労省、その他警備に関わる組織の間で、密かに噂されている謎のテロ組織だ。目的も実態も謎に包まれた、最早存在すらあるのかわからない組織だ。
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