ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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Prologue

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「堪えた?」
「あ?」
「いや別に。背中がガラ空きだから」
「別に」

 これも慣れたことだ。

「戦地に行ったら常識だ。助けたはいいがそれに対して恨まれることなんてたくさんある」

 たくさんあった。
 相手兵士の死に際の目、腕がもがれた少女の悲痛な叫び。

「いっそ殺して欲しかった」
「殺されたほうが食料を心配することもなくなったのに」

 そう言って俺は何人に恨まれたか。

「でもここは戦場じゃないよ、流星」
「人と人が撃ち合えば戦場だよ」
「…やっぱりお前なんて嫌いだ。そんな死んだ猫みたいなやつ」
「あぁ、そうだな」

 急に冷めきって黙って歩き始めた俺たちを見て、伊緒も何も言わず黙って着いてくる。

 そのまま大使館に着く。すでに、捜査車両が停まっていた。

「突入前に一つ確認。
 伊緒、お前は一体何なんだ?」
「…まぁ、見方によってはエレボスの一員なんでしょうけど」

全然掴めない。

「まぁ、信用は出来ませんよね」
「うんまったく」
「…クーデターと、言うやつですかね。流星さんが言った」
「…ふぅん。
 お前、引き返すなら今だけど?人も殺したことないようなガキが来るような場所じゃないからな」
「…大丈夫」

まぁいい。いざとなったら殺すことは出来る。

 捜査車両を覗くと、どうやら戦闘準備中だった。
 見知った顔が運転席に座っていた。髭面のがたいがいい、粗野な男。

「あっ」

 潤も気付いたようだ。
 昔、俺たちと縁がある、俺たちがまだ同じチームで働いていた頃。
 特殊部隊に配属されてすぐの頃にヤツと出会った。
 ヤツはこちらに気が付くと、にやっと笑い、車から出てきた。

「久しぶりだな、流星、潤」
「政宗!」
「あんたこんなとこにいたのか」

 荒川あらかわ政宗まさむね。彼は俺たちの教育係兼、戦友だ。

「じゃぁ、顔合わせといきたいがあまりゆっくりも出来ねぇな」
「ああ。
まず、警視庁とマトリからは何人来る?」
「2です」

 そう言ったのは眼鏡の、落ち着いた雰囲気の青年だった。

「…警視庁組織犯罪対策部第5課の黒田くろだしゅんです。
 俺と、鑑識の猪越いのこしさとしさんです」
「ウチは、突入では俺とそこにいるチビ助を連れて行く」
「ええ?」
「ほら、挨拶、挨拶!」

 政宗がそう促すと、チビ助と呼ばれた小柄な、まるで少年のような男は、「チビ助って呼ぶなよ!」と政宗に反抗した。

「麻薬取締役官の早坂はやさか諒斗あきとです!」

やべぇ、なんだこいつ。

「ふっ、」

 思わず潤が笑った。

「似合わないね君」
「…あんた何?女?」
「こりゃ失敬。連邦の星川潤です」
「連邦…マジ?」
「マジ」
「ひぇー」

 あまりにもあっけらかんとしているので、潤は一瞬堅まった後に、間を置いてから腹を抱えて笑い出した。

 それを見て遠慮がちだった伊緒も少し笑う。
 場の雰囲気が少し柔らかくなった気がした。

「え?俺そんなおかしい?」
「…まったくお前ってやつは…。悪いな流星」
「す、すげぇ…。鉄面皮が困惑してんだけど…!」

 確かに俺は今ニューキャラクターに少々戸惑っている。

「うるせぇな…。こーゆーパターンあんまないんだよ!
 悪い、申し遅れた。本件指揮を任された、連邦の壽美田流星だ。取り敢えず現場の状況確認がしたい。
 多分みんなここには急に呼び出されたと思う。何故なら俺があっちの立て籠り事件の最中に突然申し立てをしたからだ。
 申し訳ないがどう聞いてる?どこまで掴んでる?てか俺実は立て籠りもなんでウチと警視庁、厚労省が合同捜査なのかよく…」
「え、お前マジで?」
「うん。だって3日前まで日本いなかったもん。しかもあっちの捜査ぶん投げて強制帰国だよ」
「…局長さすがだな。俺はてっきりお前だから呼んだのかと思ってた」
「…早々にお宅を抜けてこっち来てよかったわ。高田さん相変わらずだな。お前ら大変だな。
 まぁ雑談はいいとして」
「大筋はさっきの立て籠りで貴方の言っていたことで間違いありませんよ。丸っきりわからずあれを指揮したとは…貴方優秀を超えてちょっと…」

 猪越さんがパソコンと俺を見比べながら怪訝そうな顔をしている。

「変態なんっすよ、こいつ」

 すかさず潤が悪態を吐いた。

「悪かったな」
「いやぁ…紙一重とはまさしくこのことですね。関心を通り越して絶句です。
 立て籠りの裏にあった事件は貴方の読み通り、大使館での麻薬、人身売買です」
「あぁ。え?爆破じゃないんだ」
「なかなかサイコパスですね。いやまぁ可能性はなきにしにあらず。
 ヒントは多分徳田です。あいつはご存じの通りジャンキーですがこの麻薬の入手ルートがいまだ不透明でした。表向きでは。ですが今回のマトリとの捜査でそれが鮮明になってきまして」
「あぁなるほど、それが…」

 エレボスと言うわけか。

「そのエレボスは、お前もよーく知っての通り、かつて俺たちが完璧に鎮圧したはずだった」
「あぁ…」

 7年も昔の事件。
 俺も潤もまだ連邦にすら行く前の、駆け出しの頃の事件だ。

「それが今更…」
「そう、今更なんだよ」
「俺がいるじゃないですか」

 そう、はっきりとした声がした。
 忘れていた。そう言えば連れてきていたな。

「…俺がエレボスに拾われたのは丁度7年前です」
「何?」
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