ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
53 / 376
The 3rd episode

10

しおりを挟む
 再び部署から出て電話に出る。

「はい、スミダ」
『早速お仕事です。まず誰もいないところに移動しなさい』

 なんだよ。

 仕方なく少し離れた外階段へ出てタバコに火をつけた。

「なんですか」
『龍ヶ崎連合会。お前ここに潜入捜査して来い』
「はぁ、なんで」
『ここにガサ入れすれば少しはヒントが得られると踏んでいるんだよ。ズバリ、エレボスのな』
「…あんたのことだから根拠あるんでしょ?手の平見せてよ」
『お前そんなのも調べついてないの?會澤組だよ。
 俺の予想だが、會澤組以外、他のヤクザ共も吊れると思うんだ。
 龍ヶ崎連合会は政府機関の天下り企業とも深く繋がりがあるところだ。ここがもし黒なら…』
「なるほど」
『麻薬なんだが、恐らく…。相手はヤクザだ、一般市民にも出回っている可能性がある』
「へーい」
『捜対5課は薄々気付いて捜査を先行している。ただこれはお前の管轄捜査ではない』
「つまり…」
『密令、と言ったらいいか?ただ掴めてないのが現状だ。
 ブツの回収と現在の龍ヶ崎連合会の活動報告な。お前にとっても良い話だろ?ただ、捜対5課あちらさんは先行だからな、特本部にも口外すんなよ。
 5課にはお前のこと、それとなく伝えてあるから』
「…了解しました」

 電話を切った。
 やれやれ仕事が増えた。

 しかしどうやって潜入しろっつうんだ。
と、思っていたらメールが来た。

 添付されていた写真を見ると、俺の顔写真とでたらめすぎる経歴の履歴書に、“冨多とみた竜也たつや”という名前が書いてあった。

 はぁ…。
心の溜め息が口からも洩れ出た。

 部署に戻り、政宗から送られてきた書類に目を通す。

 新宿歌舞伎町、ホストクラブ“Artemis”。売上10位以内にランクインする場所で…。

 あかんあかん、意識が飛びかけている。

「政宗、ちょっと」
「あいよ」

 呼んで政宗が来る。
 先程買ったコーヒーが目に入り、開けようとしたが力が入らない。無理矢理開けて一口飲んだ。

「これはなに?」
「あぁ。
 このホストクラブ、最近経営が傾いてるらしくてな」
「へぇ、10位以内なのに?」
「これはよかった頃だ。
 向かい側に最近出来た“Hestia”っつーホストクラブに客を持ってかれてるらしい。今はそのおこぼれというか、客は1件目にHestia、2件目にArtemisって感覚らしいんだが」
「へぇ、珍しいな」

 あぁ、少し寝そうだ。

 左手を無意識に噛んでいたら然り気無く政宗にそれを制された。

「…今日の昼に諒斗あきとに聞き込みを頼んだ。
 したら、どうもArtemisのホストの兄ちゃんたちが言うには、最近客がなんか不審なもんを持ってくるんだと。その客は大体が、この界隈で遊び始めた初心者って言うか…そんな感じの男女が多いらしくてな。
 しかもHestiaは、なんていうかホストの素行が悪いらしくてな。アフターサービスあり!みたいなのを堂々と掲げてるから近隣の店もちょっと困ってると」
「うーん、なんで摘発しねぇかな」
「そこなんだが。
 Hestiaのバックにはどうも、龍ヶ崎連合会が絡んでるっぽい」
「龍ヶ崎連合会…へぇ、丁度いいな」

 丁度俺が明日から潜入捜査に行くところだ。

「は?」
「その不審なもんてのがヤクなの?」
「いや、そこは皆あまり話したがらなかった。多分、よくわかってないんだろうな。なんとなく、Artemisのホストの兄ちゃんが持ってた客に聞いてみたそうだ。
 Hestiaに何回か通っていたらもらったって言われたらしい」
「…曖昧だな。政宗的にはどう思う?」
「正直まだわからんが、黒かな」

 頭のなかで人員を組み立てる。しかしなかなか埋まらない。少し規模がデカい。

「潜入捜査と行こうか」

 政宗がニヤリと笑った。

 眠くなるので俺は立ち上がり、ホワイトボードの前に立つ。皆一斉に注目した。

 いま政宗から聞いた情報をすべて説明しながらホワイトボードに書き出す。ついで、龍ヶ崎連合会についてこの前の狙撃事件の件について補足する。

「と、言うわけで。潜入捜査しようかと思う。まずそうだなぁ、
 Hestiaに従業員として1人、客として1人。Artemisに従業員1人。一週間。後半状況によっては人員配置を変えようかな。
別所でサポーターも一人くらい着けようか。
 潤、お前霞とHestiaに行け」
「あいよー」
「はーい」
「こっちをどうするか…」

 見渡す限り未成年者か、20上がりの男の子か逆に歳がいきすぎた奴しかいない。

「サポーターは政宗に頼みたい。ブツ回収の際、慧さんと愛蘭は残っていて欲しい。…みんなホスト業苦手そうだよな」
「俺やってみたーい!モテる?」
「諒斗は確かに潜入捜査は慣れてるだろうがダメだな。恭太と伊緒は確か未成年者だよな…。
 経験として伊緒。お前はサポーターに回れ。恭太は鑑識課の手伝い。諒斗は一日の情報を纏める。
 瞬は…」
「お酒が…」
「だよな」

 確か20になったばかりだと大使館の時に言っていた。

「じゃぁ瞬と諒斗で資料まとめ。
大詰めになってきたときにお前らはガサ入れのキーパーソンになるからな」
「はい…」
「うぃっす」
「あれ、これってもしかしなくても…」

 人員配置を見ていくと、どう考えても名前がないのは俺と、特本部サポートのユミル以外にいない。

「げっ…」

 マジかよ。

「頑張れ部長」

 政宗が楽しそうに言う。

「うわぁ…」

 最悪だ。一日に二件掛け持ちの潜入なんて。
 今日何度目かわからない溜め息を吐いた。

 こうなりゃヤケクソだ。いくらでもやってやる。
 昼間はヤクザ、夜はホスト、上等じゃねぇか。

 あ、てか根本的なことを忘れていた。

「政宗や潤、大変だ」
「なんだよ」
「切羽詰まってんなぶちょーさん」
「俺スーツそんな持ってねぇ」

 だって考えたら。
 ヤクザもホストもスーツ業だろ。
 俺毎回ここ来るのだって一週間やっとなのに。

「は?」
「ちょっと今日行く前にさ、スーツ屋寄っていい?」
「お前いままでどうやって生きてたんだよ」
「あっちではスーツで戦ったりしねぇの!むしろ邪魔なの!だから持ってないの!」

 そんなやり取りを聞く部署一同クスクスと笑っていた。

「流星さん、どんどん暴かれていきますね」

 伊緒にそう言われた。

 暴かれてくって。
 まぁな、お前は政宗にいろいろ吹き込まれてるからな。

「わかったよ!」
「はい、じゃぁ作戦会議終了!」

 そこからは各自、潜入捜査の事前下調べをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

初恋

藍沢咲良
青春
高校3年生。 制服が着られる最後の年に、私達は出会った。 思った通りにはなかなかできない。 もどかしいことばかり。 それでも、愛おしい日々。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓ https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a ※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。 8/28公開分で完結となります。 最後まで御愛読頂けると嬉しいです。 ※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...