ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
54 / 376
The 3rd episode

11

しおりを挟む
 18時を少し過ぎてから、俺たちは退社し、政宗に車に乗せられ、六本木へ向かう。

「え、3着くらいありゃぁいい?」
「…じゃぁ倍の6着」
「は?」
「いやぁ…ほらね」

 なんて言おうか。

「多分ほら、破くから、ね、」
「え、は?」
「どんだけなの?なに?女引っかけて激しいプレイでも」
「潤うるさい違う。
 ほら、クリーニングがね」
「今あるスーツはなくなった設定?
まぁいいけどさ。お前シャツとかさ、あるじゃん?」
「…取り敢えず、取り敢えず」

 一日に3着変装にスーツを着るだなんて確かに思わないだろうけどさ。

「てかスーツ6ってなかなかだね、どうやって持って帰るの?」

 あ、考えてなかった。

「もう3でいいです、ハイ」

 取り敢えずは政宗チョイスのスーツと潤チョイスのシャツを買って、あとは潤もスーツとシャツをテキトーに買って目的地に向かうが。

「なんかお前さ、ホストっつーよりヤクザに近くない?組み合わせ。センスないよ」

 ずばりとそう言われてしまい、動揺して吸っていたタバコの煙をすべて吸い込んでしまった。

「え?ごめん、そんなショックだった?」
「うん、おぇっ、いや、はい、もう潤喋らんでくれ」
「お前分かりやすいな。なんか隠してんだろ」
「は、はぁ?なにを?どうして?」
「あー悪かった悪かった。時期が来たらな、単細胞」

 政宗はいつもやけに察しがいい。

 それから少しして着いた。六本木からだいぶ離れたところにある、小さな葬儀場だった。

 最期が最期だっただけに、密葬らしい。高田はご丁寧にも、“殉職ということで遺族には話してありますので、お子さんの夢は壊さないであげてくださいね”と、いう一文をメールの最後に書いていた。

 そっか、しばらく日本から離れていたけど、銀河は結婚して子供も居たのか。そりゃそうか。

 今更ながら、葬儀場の前の“白澤家告別式会場”という文字を見て、怖じ気付く自分が居た。

 いつまでも車から降りようとしない俺を見て、

「流星、」
「着いたぞ」

 声を掛けられるけど。

「…待ってるよ」
「は?」
「お前なぁ…ここまで来て何言ってんだよ」
「…俺はここに来るべきではなかった」

 来る前に決断すべきだった。
というか、ただ単に今びびっている。

「あっそ。じゃぁ金だけ渡して代表者で名前書いてきたら?」

 そう言う潤は睨むように俺を見てて。

「…そうだな」
「今更びびりやがって。てめぇそんなんで何人ぶっ殺してきたんだか。マジウケる」
「笑えばいいさ」
「笑えねぇよクソが」

 イライラしたように潤はタバコに火をつけた。

「感性が豊かなこって。大変ですねぇクソ部長」
「潤、言い過ぎだ。
 流星、胸張れないなら別に俺が行ってくる。失礼だからな」
「…ごめん」
「どっちのごめんだよ」
「てめぇは黙っとけ潤。
 こればかりはお前の決断が出ないと俺たちは動かない。わかるか?」
「…すみません。
 ちょっと、看板見たら…びびった。正直。
はぁ~、部下に甘えてばっかだね。ダメだね俺は」
「一人が良いか?」
「断然良い。だけど…」

 どうかな。

「…お前は一人だと骨になるよ。だからめんどくさいんじゃない」
「悪かった。うん。三人でちゃんと行こう。でもその前に謝っとく。
 人殺しでごめんなさい」

 二人の顔を見るのが嫌で、先に車を降りる。あとから二人が降りてきた。

 二人に知られないように、深呼吸をして敷地に入った。それだけで、生きた心地がしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...