ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 4th episode

5

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 それから捜対5課へ向かい、俺が龍ヶ崎連合会から入手したS&Wとケータイ、あの金と、捜対5課が向井から押収した麻薬を交換する。
 課長は武宮たけみやさんと言うらしい。
 全て鑑識に回すように指示する。

「ケータイのSIMとSDカードだけはください。明日以降も潜入捜査はするので」
「わかりました…」

 武宮さんは、受け取ったS&Wを眺めて、白髭交じりの顔をしかめる。

「これ、製造番号消されてますよね」
「はい。まぁ念のため鑑識へまわしてください。もしわからなかったら一度ウチで預かりますよ」
「はぁ、わかりました」
「あとは今日の感じだと…。あ、思い出した。
 いずれわかると思うんで言っときます。やつら、証券会社のゼウスと関わりがありますよ」
「お?」
「俺今日立ち会いました。向井のとこに行く前に。なんのやり取りをしてるかはわからなかったんですけど、まぁアタッシュケースに入るくらいのもんをお互い渡しあってました。會澤組の枝野が言ってたんですが、ゼウスは、例えば潰れそうな会社だとか、捕まりそうな会社の株は取り扱わないらしいんですよ。だから、情報を買ってると」
「…それって…」
「まぁお宅の管轄外にはなりますけど、あそこも黒ですね」
「…良い情報ありがとう」

 武宮さんはにやりと笑った。

「會澤組は結構出てきそうですね。向井はどうですか?」
「あぁ、自白してきたよ。店の金とヤク持ち逃げして、まぁちょっとだけそのヤクを隣人に売り付けたって」
「そうですか」
「そうそう。壽美田くんによろしくって」
「あぁ、そうですか」
「何か言ったのか?」
「いえ、別に。まぁ彼も彼なりに改心でもしたんじゃないですか?
それより、なんかウチに情報ありそうです?」
「ああ。
 お宅が睨んでる通り、やっぱそこのホストクラブ、ヤク売ってたっぽいな。そのヤクが會澤組のかどうか…。でもよくヤクザは出入りしているようだ。新入りとかが入ったりしてると」

 これといって新しい情報はなさそう…。

「なんか辞めた従業員とかもな、最終的にはヤクでラリっちまって、気付いたら退社してたってよ。ホスト同士の噂じゃぁ、そいつら組から直接ヤク買ってたんじゃねえかってよ」
「…へぇ」
「結構いるみたいだぜ。
 まぁ、無理しない程度に明日も頑張ってくれ」

 結構手応えがあったようだ。心なしか武宮さんは機嫌が良さそうに見える。
 肩を笑顔でぽんぽんと叩かれ、俺はその場を後にした。

 車の中の盗聴、発信器チェックをしたあと着替えを済ませる。
 荷物をアタッシュケースにまとめ、鍵を閉めて歩いて駅まで向かう。新宿までは念のため電車で移動する。

 政宗にこれから向かうことをメールすると、駅で待ち合わせることになった。
 政宗は新宿駅東口を出てすぐ、手すりみたいな銀のポールに浅く腰かけていた。
 俺を見つけると、緩く手をあげ、立ち上がった。

「車は少し離れたところにある」

 政宗は歌舞伎町方面を指した。政宗の後を着いていくことにする。
 店の前は出来るだけ通らないようにし、一番外のパチンコ屋の駐車場に車は停められていた。店からわりと近い。
 車に乗ると、政宗からコーヒーとケータイを渡された。

「さんきゅ」

 コーヒーを開けながら、例のケータイのSIMとSDを入れ換える。
 アタッシュケースを開け、車に内蔵されたコンセントとパソコンを繋いだ。言わずもがな政宗が今乗って来ている車も捜査車両である。
 政宗は政宗で、方耳にイヤホンをつけて真剣な様子。恐らく潤に盗聴器でも持たせているのだろう。

「あぁ、あとこれ」

 思い出した。
さっき5課からもらった薬物を政宗に渡した。

「ん?」
「Hestiaの元ホストから押収したやつ。5課からパクってきた」
「おぉ…そうか」
「あとそのうち鑑識から拳銃と、30万の紙幣番号調査も来るんじゃないかな」
「…お前が今日の午後いなかったのはそれか」
「そう。どうやらHestiaから逃げた元ホストが捕まったらしくてな」

 言っているそばから着信があった。見ると慧さんだったので出る。
案外早かったな。

「はい、壽美田です」
『もしもし、猪越です。
 警視庁捜対5課から特本部に鑑識依頼がありました』
「ああ、はい。受けてしまって結構です。S&Wの出どころですよね」
『…お話がお早いですね。あと…。ケータイを渡されました』
「は?うっそ…。もしや白いやつ?」
『はい。これはなんだか、ただ渡されたので分解でもすればいいのか…一応出どころは押さえましたが。なんでも流星さんに聞けばわかるとか言われまして…。なんか、5課もあんまりよくわかっていないようなニュアンスでしたよ』

あちゃー。
うわ、てことは。

「ありがとうございます。出どころはありがたいです。実はそのケータイ、多分発信器と盗聴器が仕掛けられてます。電源入れちゃいました?」
『いえ』
「あーよかった。そのまま発信器と盗聴器をなんかぶっ壊して、それはまぁ…処分しちゃっても構いません。
 てかもしかして…。あいつら使えない?それとも俺が悪いのかな…。5課って紙幣番号とか、調べないかな?」
『何かありました?一応ついでなので伝えときますよ。その様子だと急用ですね?』
「…はい、まぁ。
 俺が持ってきた30万の紙幣番号と金の所在くらい掴んどけよな?と言っといてください」
『かしこまりました』

 電話を切り、溜め息が出た。

「何か知らんが…お前、あんま警視庁に期待すんなよ。慧さんが優秀なだけだからな」
「まぁ所詮は地方公務員だからな」
「てかなんだ、気になるんだが」
「うーん…まぁちょっとね。いずれわかる」
「その感じだと別件か」
「いや、少しは関わってるんだけど…みたいな」

 パソコンが立ち上がる。
俺はダメ元で、昼間にゼウスの社長に渡したアタッシュケースの発信、盗聴器が作動しているかを確認。
 地図を見ると、住所的にはゼウスの本社辺りで点滅していた。作動はしているようだ。
 周波数と機種を入力して音声データを取得した。すぐさま録音モードに切り替え、USBを差し込む。

「このパソコン、このまま置いてく。
 さて、行くか…。
 盗聴器頂戴。潤はどうなってる?
「あぁ、絶好調だよ」

 嫌そうに言いながら政宗はイヤホンを渡してきた。
 最早女の黄色い歓声しか聞こえてこない。
すぐに政宗に返した。

「うん、多分絶好調だな」
「多分そろそろ霞が来る。そっちは諒斗に持たせた。流石に俺一人3箇所の盗聴は無理だからな」
「諒斗もそろそろここへ来るわけか」

 俺用の盗聴器を渡ながら政宗がそう言った。

「新人育成も兼ねて瞬も呼んである。そろそろ若者組は仕事を終えて来るはずだ」
「あぁ、そう」
「お前担当は俺がやろう。お前が一番厄介だからな」
「…そうかな」

 むしろ潤の方が厄介な気がするけど。

「ほら、お前こーゆー系の若者すぐさ、酒の勢いでぶっ飛ばしちゃいそうじゃん?まぁ潤は潤でちょっとあれだから20越えてる諒斗に見させる」
「んなことしねぇよ。潤はちょっとわかるけど。
 じゃ、みんなによろしく」

 見れば面接時間の18時ギリギリの17時45分だった。
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