ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 6th episode

3

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死に場所がわからない。
最近のあいつを見ていると、それを凄く感じるんだ。

くだらないエゴではある。
だが気持ちが分からなくもないからそこが困ったところだ。

実のところ俺だって同じなんだよ、流星。

俺だって生ききれないし死にきれてないんだよ。お前と一緒、お前のせいで何人の同僚の死に様を見てきたと思ってんだ。
自らの手に掛けたお前の方がまだ、やり場があるだろうが。

ただそれが、俺なんかより、政宗なんかより、それはもう想像なんてつかないくらい神経使うんだろうね。

くだらないな。
ホント、くだらない…。

こんなクソみたいな気持ちにさせやがって。あとで一発殴ってやらないと気が済まない。

 駐車場に行くと、捜査車両には湿気た面を下げた後輩達が取り敢えず、待っていたようで。

少し、羨ましく思ってしまった。

 自分が同じ立場に立ったとき、果たしてこんなに仲間は集まってくれるのだろうか。

「なんだよお前ら」
「いや…」
「それはそれ、これはこれというか…やっぱり、仕事だから。諒斗も立ち直りましたし」
「俺は潤さんの担当ですし」
「皆さんを送り出しに来ました。まだ私には仕事が残ってるんで」

…仕方ねぇな。

「はいはい、乗れガキども」

 俺が運転席に乗ると、部署を出てきた愛蘭ちゃん以外の3人は車に乗り込んだ。愛蘭ちゃんが一礼したので、左手を上げて挨拶。そして車を発進さる。

「でもさぁ、こう言っちゃなんだが、なんか思い出したらイライラしてきた」
「まぁまぁ…」

 後ろで諒斗が喚く。そりゃぁ気持ちは多いにわかる。

「イライラくらいで済むならいいじゃん。俺なんか毎日あいつをぶん殴りたいよ?」
「え」
「でも、仲良いじゃないですか」
「やめてよ。あいつとは腐れ縁だよ。
 だってあいつバカなんだもん。単細胞だし極端だしキレるとめんどくせぇし変に干渉してくるしなんなの?そのわりにはめんどくさがりだし。
 この前なんてねぇ、書類をホチキスで止めるか、あの穴あけパンチみたいなやつ?で止めるかで喧嘩したからね俺たち」

あ、思い出したら腹立ってきた。

「大体さ、穴あけパンチみたいなやつぶっちゃけあんま普及してねぇっつーの!それをさ、あと3年で還暦のじじいに提出しようってアホかあいつは!
 俺はホチキスがいいって言ったらさ、ホチキスでどうやって30枚止めるんだよバカって言われたわけよ。んなのデカいホチキスで止めろよクソって言い返したわけよ、そこで政宗がどっちでもいいから早くしろってさ。わかんないマジわかんない」
「…溜まってますね」
「いや上げたらキリがない。あいつには若い頃からの積年の恨みが積もってるから、多分あと10年もしたらぶっ殺してるねぇ。
 あ、思い出した。
 英文法の誤字多いとか言われてさ。それを直すためにお前最終チェックしてんじゃないの?って言ったらさ、eとaとかお前一回小学校に間違って潜入捜査して来いよとか言われてさ。頭来てeを全部aに代えてやったわ。あいつ何も言えなくなってたよ」
「潤さん…やってることガキっすね…」
「逆によくすべてaに出来ましたね。集中力そこに使ったんですか…」
「え?俺が悪い?」
「うーん…まぁ、いいんじゃないですか」

 まぁあれはちょっと申し訳なかったけど。ちゃんとそのあと直したやつ渡したけどさ。

「でも直したやつ渡したらなんかね、瞬と同じこと言って笑ってたわ。いやまぁ怒られたけど」
「でしょうね」

 そんななか、助手席に座る霞ちゃんだけが俯いている。

まぁいいや。

「でもマシだけどねそんなん。昔はよく殴り合いになって政宗とか、先輩たちを困らせたから」
「うわぁ、タチ悪い…」
「そ。タチ悪いの。でもあいつくらいだよ、まともに殴り返してくるの。てか喧嘩すんの。
 歳上だけど、あいつは歳上じゃないんだよ、多分」

そこはあいつの良いとこなんだよなぁ。

「難しいヤツだけどね」
「お互い様ってやつじゃないですか?」
「そうとも言う」
「私…あの人がわからない」

 そう彼女みたいなことを言ったのは、今まで俯いていた霞ちゃんだ。

「だろうね。俺も10年近くやっててまったくわかんないもん」

長年やってもわからない。ただ一つわかるのは。

「職業柄秘密主義ではあるよね。
 でもそもそもがヘタクソ。人付き合いより、自分と付き合うのがあいつは凄くヘタクソ」

どれだけボロボロになっていようがあいつは、気付いてあげないんだ。

「感情がないんじゃないかってたまに思う。怖いくらいに遠くにいるときがある。
そのわりに人にはわりと寄ってくるから、“スミダリュウセイ”という人物すら危うい」
 
 まぁ、こんなことをこんなガキ共に話したところで何も意味なんてないけれど。

「なんか…わかったような、わからないような」

 それでも少しだけ霞ちゃんは前を向いてくれて、その他の後輩たちもなんとか、なんか辞める雰囲気は払拭出来たから。

「まぁこんなことしか俺は言えないや」

これから人手が減って俺が大変になることはないかもな。

 それから、なんだかんだで色々な愚痴大会になった。
 柄にもなく後輩と少し和解した。

「なんか、潤さんのイメージ変わりました」
「え、なに?どんなだったよ」
「正直怖かった」

 そう霞ちゃんと諒斗が言うと、他二人もうんうんと頷いていた。

「怖いというより、もう少し実態がなかったです。全然掴めなかった」
「なんとなくですけど」

そうか、そうだったんだ。

「話せてよかった」

なんかこそばゆいなぁ。

「そりゃどーも。
さぁてそろそろ着くよ。気を引き締めていこー」

 そろそろ歌舞伎町に着く。俺がそう言えば皆、顔付きが真剣なものになって。
 まだまだガキとはいえ、やはりそこは大人だ。
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