ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 7th episode

5

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 エレベーターで直に事務所へ行ってやろうかと思ったが、よくよく考えては、それでは霞と接触が出来ない。

 入り口で洋巳ひろみが俺を見つけ、「あ!」と驚き、駆けてきた。

彗星すいせいさん!?」
「やぁ」
「オーナーがずっと、連絡取れないって…」
「うん。浅井さんは?店にいるの?」
「はい、ちょっと呼んできま」
「いや、いい」
「いやぁ、どのみちしばらくは浅井さん、手が離せないとは思います…」
「あそう。あぁ、来栖さん?」
「はい…」
「じゃ、こっちから行くわ」

これは好都合だ。

「え、ちょっと…」と制する洋巳を無視して店の奥まで進む。霞は、入り口付近の席に座っていた。一瞬目配せをする。

 まわりの視線、中には突き刺さるような物まである。それは無理もない。なんせ俺は、従業員からすれば働き始めて2日目にしてバックれ中新人だ。

 VIPルームに入ろうとしたとき、太一たいちが視界を邪魔するように俺の侵入を阻止した。

「…遅い出勤ですね」
「…あぁ、悪いな。
 悪いがそこを退いてくれないか?俺は純粋な市民にはあまり手出ししたくない」
「貴方は何を言っているんですか?」

面倒だ。
君らは悪くないのだろうが、それが果てしなく面倒だ。

「悪い。君に構っている時間がない。
君ら、ちゃんと転職先を考えなさいよ」

これが最後の優しさだ。

 警察手帳を見せると動揺の色を隠さなかった。

「…これ以上庇うと君は共犯の罪に問われる。いいからそこを退いてくれ。俺は純粋な若者の未来を奪うのも気が引けるんだよ」

 手帳をしまったタイミングで、「おや、騒がしいと思えば」と、太一の後ろに浅井が現れた。

「お帰り」
「どうも」
「君ら、なんでこいつ通してんの?使えないねぇ。
 まぁいいや、丁度良い。万里子も会いたがってたんだ。話は上でいいかい?」
「はい、それが得策ですね」
「ははっ!わりとナメられたもんだね。
万里子、来たよ。行こうか」

ナメてんのはどっちだ。

 浅井の一声で来栖万里子が奥から現れた。浅井はそのまま、太一を突き飛ばすように退かし、俺の横を通りすぎる。

 ついて来いと言うことか。

 よろけた太一に、「大丈夫か」と声を掛ければ、「誰のせいだか、わかってますか?」と、挑戦的な目で睨まれた。

「悪かったな。じゃぁな」

 振り返らず、浅井と来栖の後ろを追う。
 霞が心配そうな視線を寄越した。

 そのまま3人で事務所に行くと、開口一番、「ずいぶんといい度胸だね」と言われた。

「なんのつもり?二人して」
「えっ…」
「惚けないでよ」
零士れいじ、何を言ってるの?」
「お楽しみだったようだな」
「えぇ、それはそれはもう」

 そう言って、俺は先程受け取った麻薬の成分表を見せつけた。

「浅井さん、これアウトだよ」
「あ?何がだよ」

 再び警察手帳を取り出し、見せた。浅井も来栖も驚愕を顔に張り付けた表情で俺を見る。

「悪いね。俺、捜査員なの」
「…ふはは!なるほどな!」

 浅井は突然笑いだしたかと思えば、急に表情を代え、来栖の後頭部を引っ掴んで壁にぶん投げた。来栖は頭をぶつけ、倒れる。
 鈍い音と唸る声。悲痛だ。しかし、同情はしない。

「そう言うことだったのかよこの腐れ売女」
「さて、持ってるもの全部素直に寄越してもらおうか」
「頭悪いな。」 

 浅井はポケットからケータイを取り出し、電話を始めた。

「洋巳か。店の出入口全部塞げ。他のやつらにも伝えろ。
 客は逃がすなよ。わかったね?」
「てめぇどーゆーことだ」
「簡単なことだ。立て籠り事件だよ。
 なんかしたら、毒薬ばらまくからね」

何…?

「捜査のツメが甘いな。お前はいま袋のネズミだよ」

 そう言って浅井は懐からリボルバー拳銃を抜き俺に向け、ポケットからごく自然な動作でタバコを取り出して吸い始めた。

「お宅からこれ買っといてよかったな、万里子」
「ナメてんのはどっちだか」

ならばこちらも応戦してやろう。
しかし、相手がリボルバーとは、少々分が悪いな。

 こちらは連発型で行こうか。愛用のグロックM18を向けた。ぶっちゃけこれだけの至近距離ならヤツのコルト・パイソンよりかマシだろう。

「ぶちょー!」

 霞の声が後ろから聞こえた。舌打ちをして浅井がハンマーを引いたのがわかった。
 「霞!止まれ!」と叫びこちらもハンマーを引いて一発浅井に撃ったが直後、肩の横を銃弾が掠った。

ヤバい。

「霞!」

当たっちまったかもしれない。

 俺の銃弾は浅井の腕は掠めた。浅井の銃が反動で吹っ飛ぶ。押さえた掌から鮮血が滴っていた。

「あっぶねぇぇぇ!」

…どうやら霞には当たってないようだ。が、

「ちょっとちょっと!女の子に銃ぶっ放すとか、どーゆー神経してんのよこの犯罪者ぁ!」

振り向けない。
…振り向かない。

 わりと間近、耳元でカシャッと、ハンマー音がした。

なんなんだこの女。やべぇ怖すぎる。イメージが最早本当に掴めないんだが最近の若い子。

「死んじまいなぁ、この絶倫野郎!」

怖い怖いなんなの、未知との遭遇なんだけど!

「霞…さん、お元気そうでなによりです」
「ぶちょー!大丈夫ですかぁ!?肩から血が」
「あの、その、耳元なので声量を少しですね…」
「あ、すみません!だってだってぇ!」
「あーわかった!うん大丈夫!お前怖いんだよ!」

泣きそう。嫌だこんな女部下。

しかしまぁ…。

 ちらっと横目で見てみれば、オートマチックのタウラスPTシリーズか。女にしてはゴツいのを使っている。

「霞、こいつさ、今店を閉鎖しちゃったわけ」
「え?」
「客と従業員が人質だ。なんでも、毒薬ばらまくらしいよ」
「…どこまでクズなの」
「いまさ、潤と諒斗はどうしてる?」
「さっき踏み込んできましたよ。もう拳銃と手帳を高々と見せびらかして」
「潤がか?」
「あきちゃんはやらないでしょう」

本気でイカれてるなあの野郎。

「だよな。あいつあとでぶっ殺してやる」
「お客さんその場で取り抑えちゃったし」
「本気であいつ死ねばいいのに」

最短精神発動しちゃったわけか。

「まぁいいや。
 霞、ベンジーがやったこの行為は、テロだよな?」
「誰?」

ジェネレーションギャップ。軽くショックだ。

「そこにいる絶倫ね。つまりさ、思うんだ。
 お前ら警視庁は多分アウトだが…FBIだったらさ、こいつ間違って殺しちゃってもさ」
「おいなんの話をしている」
「うるさいテロリスト」
「いやてゆーかぁ、あいつ銃持ってて毒薬ばらまくなら、いずれにしても、こっちも正当防衛ってやつぅ?」
「だよな。よし。
 てわけでベンジー、最期に遺言ぐらい聞いてやるよ」
「あまりマジメじゃないな」
「まぁそっちがその気ならってやつ」
「まぁいい、降服してやるよ」

 …なんなんだろう、浅井のこの余裕ぶっこいてる感。
 浅井は手をあげて降服の合図を示す。こうなれば仕方ない。

「霞、取り敢えず手錠掛けといて。その女には聞くことがごまんとあるから取り敢えず連れてく」

 俺がそう言うと霞は、俺の横を通り、銃を向けたまま浅井の前に行き手錠を掛けた。

さぁて。

 浅井を拘束したところで、俺は事務所を漁ることにした。雇用契約書や取引先とのそれっぽい文書、さらに従業員名簿、そして薬を押収。

「はい、終了」

 10分ほどで全てを終え、下に向かうことにする。来栖は霞が捕らえ、俺は浅井の腕を掴み拳銃を向け、強引に歩かせた。もちろん、雑に止血もしてやった。

「で?まず毒薬ってのは?」
「さぁ」
「今の状態だとあんたは何も出来ないよね」
「まぁそうだな」

 まぁこちらはボスを捕らえている。最早こいつは俺の手に墜ちた。

 下の階は、驚くほどに静かだった。
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