ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
107 / 376
Past episode one

1

しおりを挟む
はぁ、疲れた。

「流星…、」

あぁ、足の踏み場がない。

樹実いつみさん、お、起きてよ」

あぁ、うるせぇよ潤。

歩けねぇ。
なんでこんなに人死んでんだよ。
人?
樹実、あんた、そっか、あんたは。

肩が痛ぇ。

「あぁ…」

 銃口が熱い。
全部、てめぇでやったのか。

「流星…っめぇ…!」

 ぐらつく視界に、見えた天井と泣きじゃくった、潤の顔。馬乗りになって俺の胸ぐらを掴むその手は震えていて。

 持っていた銃のハンマーを反射的に引いた。視界に入った銀の銃身が、赤黒かった。

 潤はその一瞬に目を丸くして、だけど次には物凄く冷めた目で銃身を掴み、払う。反射で誤射したが、弾切れだった。

「お疲れさま、流星」

 嘲笑と軽蔑が勝る労い。力が抜けた。それから、腹に打撃の衝撃。

あぁ、多分殺される。

 血の味と胃液が混じった嗚咽。もう、潤はやめてくれそうにない。けど、それでいい。

「やめろ、潤」

 低くくぐもった政宗の声。何を言ってる。そんなんじゃこの化けもんは止まらないだろう。

「潤、」

 そう一言嗚咽の切れ間に呼ぶと、潤はぴたっと、俺をぶん殴っていた手を止めてしまった。
 あぁ、こうやってお前はスイッチを切るんだなと、その時に知った。

「俺を殺してくれ」

 俺が潤にそう言った瞬間に。
 潤が政宗に羽交い締めにされたのが見える。俺はその場で、息を整えて。

「殺してやるよ」

 そうはっきりと潤が言った気がした。それが最後で。

 次に起きたときには、全てが曖昧だった。
 覚えていなかったんだ。ほとんど何も。

 色々な人から後で聞き、そこから出される自分の記憶でどうにか繋ぎ合わせて事を理解した。

ただ、潤のあの時の一言は強烈だった。



「流星さん、朝ですよ」

 覚醒した。景色は一気に赤から、朝の微睡みへ。

「…いつも、起こすのが嫌ですね貴方は」

 困ったような笑顔で伊緒に言われてしまった。

「あー…おはよう」

 現実の幼く純粋な伊緒を直視するのが嫌で、左手で瞼を覆うくらいに度胸がない。

「自律神経失調症ですか?」
「いや、低血圧だ」
「そうですか。起き上がれたらで、いいですからね」
「…お前、最早女房だな」
「あははー、それ政宗さんも言ってましたよ」
「政宗…」

あぁ、起きてきたぞ。

「どこ行っちゃったんですかねー」
「さぁな…」

そっか、うん、そっか。

「伊緒、コーヒー飲みたい」
「用意してありますよ。コーヒーメーカー、ちゃんとあるんですね」
「まぁな」

樹実がそれしか飲まなかったんだよ。

「ふっ、はっはっは…!」

 笑えてきた。
意味がない。ただ笑えてきた。

「…流星さん?」
「…タバコ吸ってくるわ」

 それだけ伊緒に告げてベランダに出る。

 日がまだ、頭しか出ていないような朝。
目覚めが悪いな、我ながら。

 ただぼんやりと外を眺めていると、伊緒も静かにベランダに出て無言で隣に立つ。ふと思い出したのでタバコを咥えると、伊緒は、俺が預けたジッポをポケットから出して火をつけてくれた。

「さんきゅ」
「いえ」

 やけに伊緒が俺の事を眺めているので「…吸う?」と聞いてみるが、「いいです」とつんけんして返される。まぁ、いいや。

 不意に伊緒が笑いだしたので「どうした?」と訪ねてみる。
 なんだろうこいつは。情緒が不安定なのだろうか。

「いや、ホントなんだなって…」
「は?」
「政宗さんが言ってたんですよ。流星さん、タバコを噛む癖があるって。
しかもなぜだか一口目だけでよくわからんって」

あぁ、そう言えばそうかも。

「なにあいつ、気持ち悪っ」
「人の癖とか見つけるの好きですよねーあの人。
 ちなみに潤さんはまともに火が消せない、副流煙がスゴいからイライラしてるときはやめて欲しいって」
「あー、わかるわかる。あいつホント公害」

なんだかんだ、あいつが一番そーゆーの、見てんだよなぁ。

「…俺の癖は、イライラすると自傷行為をすることらしいです。自覚ないんだけど。指、噛むらしいですよ」
「あぁ、そう」
「俺、あんたに頭に来ましたよ」

 そう言ってジッポを見せられる。
あぁ、開けたんだ。タバコなんて吸わないだろうに。

「手入れの仕方とか分からなくて。政宗さんに聞きながら開けたら、なんか出て来て」
「それな。俺も預けられたとき…」

腹が立って。

「腹が立って、仕方がなかったんだ」

ホント、なんだっていうんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

処理中です...