ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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Past episode one

11

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 流星の吸収力は、最早スポンジ、いや、海綿のようだと熱海は感心した。

 二日目には、あれほど手を焼いていた操縦機を、初心者並みではあるが一通り覚え、薄らと戦術の端っこを掴んでいた。

 最終日の三日目、取り敢えず軽く応用として第二次世界大戦の海上戦術をレクチャー。

「戦術さえわかればまぁ、上出来だよ」

 艦長も感心。熱海もまさかここまで効率的に覚えが良いとは思っておらず、感心した。

「才能って、凄いものですね」

 流星としては、最早意地も少しはあったが、何より興味が持てたのが幸いしたのだ。

「本気で卒業させたいレベルですが…君はどうやら、この後警察学校に行くらしいですね」
「うん」
「…つまんないでしょうねぇ、ここよりは」
「まぁ、それも勉強。
 熱海さん」
「はい?なんでしょう」

 流星が船のコックピットで操縦機から顔を上げ、熱海に少し、笑う。

あぁそうか。
彼、笑うと少し、緩むんだなぁ。空気がなんか。

「最後にさ、ちょっと海見てみたい。
俺実は、船って乗ったことないんだ」
「…あぁ、なんだ。
 良いですよ。船酔いして最悪かもしれませんけど」

 その熱海の心配は的中した。
 前半の流星は大体は吐いていた。

「あー、言わんこっちゃない…」

 艦長も呆れつつ流星を介抱した。

 しかし2時間。
 後半三十分くらいにはどうにか治まり、慣れた。

「あー、海は嫌いかも」
「そうですか、残念ですねぇ」
「けど広いや」
「まぁ、そうでしょうね」

 停めた船の上に仰向けで寝転びながら流星は青空を眺めた。どこで見ても、変わらないものだ。

「似てる」
「ん?」
「海と空。似てるから、大丈夫かなって思ったけど、船はダメらしい」
「…ふっ、そうですね」

 試しに熱海は、自分も寝転んでみた。

 忘れもしない、濁った曇り空の下の海。この景色は、好きではなかった。

「僕も、嫌いですよ。海なんてものは」
「…なんで海軍になったの?」
「さぁ。けど、理由は簡単なんでしょうね。船が好きだったとか、そーゆー。
 恩師を送り届けたとか、多分そんな小さな理由です」

 潜水艦に沈んだあの日。
 一度で良い、死んでおけばよかったのだけど。

「一度沈んで見た空が、こんなんでした。信じられなかったなぁ。でもなんか、水の中と変わらないような気もしてね。確かに違うのは、地に足ついてるんですよ。それがなんか違和感があってね」
「あぁ、一回死んでみたってやつか」

 そう言う流星はなんだか、不謹慎なことを言うわりにどこか嬉しそうで。

「俺も一回死んでみたよ。多分そーゆーことなんだ」
「あら、若いのに大変ですね」
「…恩師、かぁ」
「君にとって、恩師っていますか?」
「いない。
 けど…ヒーローならいる。多分樹実だ。樹実がいなかったらここに俺はいないから」
「…なるほどねぇ」
「だってさ、ある日突然全部がなくなったと思ったら、サブマシンガン背負ったヤツが現れるんだよ?凄いよな」
「…そうですか」

 嬉しそうに語る青年の邪気の無さは、果てしなく、広く青かった。

「そんとき言われた。『一回死ぬっていいもんだろ』って」
「へぇ…」

あの人が、そんなことを言うのか。

「樹実…」

生まれ変わって、そして彼は。
何かを見つけたのだろうか。
多分、見つけたのだろう。

「そういえばさ」
「はい?」
「雨って、いいね」
「あぁ、そうですか。
 個人的にはあまり好きじゃないんですけど。ただまぁ、似合っている気もします」
「名は体を表すだ。
俺も自分の名前、なんか違和感あるけど、なんか、心地いい気もする。ただ…」
「ただ?」

 日本では、吉兆。人によっては、吉兆。
 自分が育ったところでは多分違かった。

「樹実にしてはセンスあるよね」

 そう笑う青年は。
やっぱりどこか、昔の面影を見るようで。

「そうですね、流星くん」

 いつかまた、会う日があれば。
 彼の未来を考えてみた。彼らの、未来を。
 少なくとも、自分達とは違う道を行って欲しいと、柄にもなく熱海は素直にそう思った。
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