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Past episode two

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 どうしてそんなことをしたのか。樹実は、ただただ切なく笑って語ってはくれなかった。今は、どこかでパソコンをカチャカチャやってんだろ、と言っていた。

 きっとつまらないに違いない。なんせ、ここを、警察学校を、あの人はつまらないと言ったのだから。

「つまんねぇなぁ」
「ホント、クソつまんねぇ」
 
 国家が聞こえる。
 多分これが平和で、揺らがない正義で、常識なんだろう。

「ミナイ、クラクション、ベイベー」
「うわぁ、世代」
「え?わかる?」
「知り合いがこの前動画見てた。好きなやつがいたからってさ」
「趣味が合うな」
「確かにかっこよかったけど、もう聞けないんだよなー」
「ギター死んじゃったからな」
「下手にメンバー編成されるよりあーゆーのはいいよね。俺聴くやつメンバー2回代わっててさ。てかソロのが好きかも」
「誰」
「リンゴ」
「うわぁ、それこの前借りたわ」
「うわぁ、うぜぇ」
「なんでだよ」
「サブカルクソ女子っぽい」
「うるさいなぁ」
「つかだったらベンジー聴けよ」
「聴けよ。知り合いが好きだからな」
「うわぁ、ブレないな」
「なんだよウザいなぁ」
「とか言う俺はミッシェルもベンジーもよく知らねぇけどな」
「なんだよ」
「世代じゃねぇし。俺の世代はチキンだよ」
「は?」
「知らないな。あ、あとアヴリルとか」
「あー、それ留学中聞いたよ。あっちじゃ、も少し前感あったけどな」
「留学中だぁ?うざっ。
 あー、あと韓国のかわいーねぇちゃん達とか。あとはパクりばっかしてるなんか5人組とか。あとはなんだろ」
「サザンは?」
「あんたらは聴いてろ」
「マサムネは?」
「やさい」
「野菜?え?」
「うーん、優しいみたいな」
「うーん、あっそ」
「あ、ジュディマリはわかる」
「何それ」
「あんたのが歳上でしょうよ」

 そうなのか。それはつまり俺世代なのか…。と、ぼんやり流星は考える。

「聴いてみるよ」
「いや、いいんじゃね?多分タイプ違うよ」
「あそう…」

 ぶっちゃけ、中学生くらいからしかこーゆー話題もよくわからない。なんなら、アメリカのビルにどうやら飛行機が突っ込んだらしいという世界的ニュースですら、流星はラサールで知ったレベルだ。

「世間知らず、かぁ」
「え?気にしてんの?」
「いや、なんて言うか…まぁなんでもねぇよ」
「でも知らねぇっつーのもまぁよくね?俺なんかニュースとか世間しか知らなかったよ。
 逆にここ半年くらいはよくわかんねぇけどな。引きこもりだから」
「は?そうなの?」
「まぁね」

 そうあっけらかんと言う心理がよく…。

「わからんもんだな」
「そんなもんだよ。
 なんか、あんた変わってんな」
「あぁそう」

 そう言われたことはなかった。というか。

「お前が言うかぁ?」
「うん。俺が言うくらいな」
「あそう。自覚あんのか。タチ悪い」
「うざっ」

 だがなんだか。
 どちらともなく笑ってしまった。

「あー、早く終わらんかな」
「あと何時間?」
「一時間くらい」
「ゲロ吐く」
「トイレに行ってきな」
「めんどい」
「厄介」

 暇な時間が長く過ぎ行く。
 無駄話ばかりしてテキトーに過ごして。

 わかったことは。
 案外まともに人と付き合うとクソほど疲れるということだった。
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